人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ The Velvet Underground & Nico - The Velvet Underground & Nico (Verve, 1967)

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ The Velvet Underground & Nico - The Velvet Underground & Nico (Verve, 1967) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLBkPWPmDlcDFTYkPNfes6HiKyZLPA242u

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All Songs written by Lou Reed expect A1&B4 written by Lou Reed & John Cale, B5 written by Reed, Cale, Morrison & Tucker
(Side 1)
A1. 日曜の朝 Sunday Morning - 2:56
A2. 僕は待ち人 I'm Waiting For The Man - 4:39
A3. 宿命の女 Femme Fatale - 2:38
A4. 毛皮のヴィーナス Venus in Furs - 5:12
A5. ラン・ラン・ラン Run Run Run - 4:22
A6. オール・トゥモロウズ・パーティーズ All Tomorrow's Parties - 6:00
(Side 2)
B1. ヘロイン Heroin - 7:12
B2. もう一度彼女が行くところ There She Goes Again - 2:41
B3. ユア・ミラー I'll Be Your Mirror - 2:14
B4. 黒い天使の死の歌 The Black Angel's Death Song - 3:11
B5. ヨーロピアン・サン European Son - 7:46
Recorded in March to April & November, 1966
Originally Released by Verve Records V/V6-5008 in March 12, 1967
Produced by Andy Warhol expect A1 Produced by Tom Wilson

[ The Velvet Underground & Nico ]

Personnel on the original album:
John Cale - electric viola (A1, A4, A6, B1, B4), piano (A1, A2, A3, A6), bass guitar (A2, A3, A5, B2, B4, B5), celesta (A1), hissing (B5)
Sterling Morrison - rhythm guitar (A2, A5, B1-B3), lead guitar (A3, B5), bass guitar (A1, A4, A6), backing vocals (A3, A5, B2)
Nico - vocals (A3, A6, B3), backing vocals (A1)
Lou Reed - lead vocals (A1, A2, A4, A5, B1, B2, B4, B5), backing vocals (A3), lead guitar (A1-5, B1-5), ostrich guitar (A4, A6)
Maureen Tucker - percussion (A1, A3, B1, B2 B4, B5), drums (A2, A5), snare drum (A3), tambourine (A2-A4, A6, B3), bass drum (A4, A6)

(Original Verve Records "The Velvet Underground & Nico" LP Liner Cover, Gatefold Cover & Side 1 Label)

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 このブログに数年前に書いた記事ではヴェルヴェット・アンダーグラウンドを主に1968年末~1969年末のライヴ音源でご紹介しましたが、当時はYouTubeでご紹介できるのがほとんどバンド後期のライヴ音源しかなかったのでそうなったわけです。それもいいのですが、ヴェルヴェットというとやはり最重要作はオリジナル・メンバーのジョン・ケイルがいて、ゲスト・シンガーの女優ニコがいたアンディ・ウォホールのお抱えバンド時代のデビュー・アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』Velvet Underground & Nico (Verve, 1967.3)でしょう。しかしヴェルヴェット・アンダーグラウンドの全公式音源は現在世界最大手のユニヴァーサル・ミュージック・グループが版権を握っており、私家録音のライヴ音源やプライヴェート音源のうち良質なものは2012年~2015年に発売されたオリジナル・アルバム発売45周年記念デラックス・エディションのボーナス・ディスクに収録して公式音源化してしまい、わずかなサンプル音源を除いてインターネット・サイト上のアップロードには片っ端からロックしていました。同じ元ポリドール系列ではムーディー・ブルースなども同様で、これらはロックの古典的作品ですし、LP時代と違ってCDは物価指数の割安な商品ですし、You Tubeなどで手軽に試聴できる方が商売上手なのではないかと思います。
 そういうわけで'60年代ロックの古典中の古典であるヴェルヴェットの公式スタジオ・アルバム4作は長らくサイト上で試聴できなかったのですが、幸いヴェルヴェットには公式商品化はきびしい音質のものが活動期間の少なさと当時全然売れなかったバンドには珍しく裏流通しており、ただしそれらの大半はマネジメントの交替に伴いジョン・ケイルが脱退して後期メンバーのダグ・ユールが加入して公演回数が増加した1968年末以降のものであり、マルチ・プレイヤーだったケイルに対してユールの担当楽器はベースかオルガンで、またリーダーのルー・リードの嗜好の変化もあってケイル在籍時の2枚のアルバムの楽曲もユール加入後の第3作以降のアルバムの楽曲アレンジと近いものに変わっています。以前ご紹介したライヴ音源がそれに当たります。日本でヴェルヴェット・アンダーグラウンドに相当する突然変異的な'60年代バンドにはジャックスが上げられますが、ジャックスもデビュー・アルバム発売(1968年9月)直前にリード・ギターの水橋春夫が脱退、角田ヒロが加入しセカンド・アルバム(1969年10月発売)を製作途中でリーダーの早川義夫も脱退してしまいアルバム半数の曲はゲスト(辞めた水橋も含む)を迎えて残りのメンバーで仕上げる、という具合にルー・リードが脱退(1970年8月)後にダグ・ユールのバンドになったヴェルヴェットと似た経緯をたどります。ジャックスのライヴ音源も大半が後期メンバーでのもので、ヴェルヴェットほどではありませんがオリジナル・メンバー時代とはアレンジを変えたものです。以前はひと苦労して、わずかなスタジオ・ヴァージョンに加えてデビュー・アルバム製作前後のジョン・ケイル在籍時のデビュー・アルバムのアレンジが聴ける1966年のライヴとリハーサル音源でアルバム『Velvet Underground & Nico』の全曲を試聴できるよう揃え、アルバム未収録曲のデモ音源3曲をオマケにつけました。それら3曲は未だに正規CD化されていないものです。そして今やようやくパブリック・ドメイン音源となってYouTubeでもオリジナル・アルバム通りの11曲が聴ける時代になりました。

 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは1993年にオリジナル・メンバーの4人で(ニコは1988年に逝去していました)期間限定で再結成しましたがスタジオ録音アルバムは作らず、すでにメンバー各自のソロ・キャリアの方が長く、またレパートリーの半数がケイル脱退後の楽曲なので'60年代の前期ヴェルヴェットとも後期ヴェルヴェットともかなり異なる音楽性のライヴ・バンドになっていました。デビュー・アルバム当時24歳前後だったメンバーたちも50歳を迎えていましたから演奏の質感が違っていても当然です。やはり'90年代にソロ・アーティストとしてカムバックした早川義夫のコンサートで新曲とジャックス時代の曲の新アレンジが居心地悪く同居していたのと同様でした。ジョン・ケイル時代の'60年代のライヴ音源は音質良好な1966年11月のクリーヴランドでのライヴと1967年4月のニューヨークでのライヴがデビュー・アルバムの45周年記念版とセカンド・アルバムの45周年記念版のボーナス・ディスクに各々収録されましたが、これらもユニヴァーサルからロックされていました。そこで1曲1曲当たってようやくデビュー・アルバム収録曲全曲分を探し当てたのが前回のリンクだったのです。確かに商品化には耐えない貧弱な録音状態で、演奏もスタジオ・ヴァージョンには及ばない出来ですが1966年にこんな雑音みたいな実験的ロックを演っていた片鱗はお伝えできたのではないかと思います。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアルバム(CD)は買ったはいいが持て余して中古ショップに売ってしまう人が多く、中古店や通販サイトで捨て値で購入できます。スタジオ・アルバムを聴き較べればそれらのライヴ音源は非常に面白く聴ける内容のものです。スリーヴ画像の通りヴェルヴェットはジャズ・レーベルのヴァーヴからデビューしましたが当時まったく売れなかったにも関わらず、今やヴァーヴのアーカイヴ・カタログではジャンルを超えてもっとも売れるロングセラー・アーティストになっているのは皮肉なことです。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドフランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンジョンと並んでビーチ・ボーイズボブ・ディランザ・バーズ、ザ・ドアーズに匹敵するアメリカ'60年代の最大のバンドと評価が定まっており、アンダーグラウンド・シーンにおいてはラヴやザ・シーズ、ザ・13thフロア・エレベーターズをしのぎ「(1位をビートルズとして)'60年代のロック・バンド中世界第2の影響力を誇る存在」とまで強大な影響力を持ったカルト・バンドです。前衛的カルト・バンド、実験的ロック自体がフランク・ザッパとヴェルヴェットの2組によって確立されたと言ってもいいでしょう。
 アルバムからは先行シングルA6、B3が1966年7月に発売され(1966年3月~4月ハリウッド録音)、さらに1966年11月には残りの曲がニューヨークで録音されA1、A3が11月に先行発売されました。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドはアンディ・ウォホールをパトロンに、一種の際物的バンドとして売り出されたものの、唯一デビュー作の本作が全米チャート171位に一瞬入っただけで活動中はまったくレコード会社のプロモーションを得られず、名のみ高くしてほとんど商業的成功を収められなかったバンドでした。日本でもウォホールとの関連から美術畑で注目されていた程度で、日本盤の発売もルー・リード知名度が高まった1974年(当時デイヴィッド・ボウイがルー・リードのアルバムをプロデュースし、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲をステージ・カヴァーしていました)までお蔵入りされていたほどです。またバンドの音楽性は退廃と破滅を歌ったリアリズム指向から当時のサイケデリック・ロック以上に極端に前衛的かつ実験的で荒々しく悪夢的であり、当時流行だったサイケデリックユートピア的なヒッピー・ムーヴメントには批判的な立場を固持していたため異端視されていました。ザッパを除けばもっとも早くヴェルヴェットに関心を示したのはローリング・ストーンズで、アルバム『ベガーズ・バンケット』1968の数曲はヴェルヴェットのサウンドをヒントにしたとミック・ジャガーが認めています。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが再評価され始めたのは脱退したルー・リードのソロ活動が軌道に乗り、またドイツやフランスらヨーロッパ諸国の実験的ロック、デイヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックらのグラム・ロック勢、ニューヨーク・パンク、さらにロンドン・パンク以降のポスト・パンク勢までがヴェルヴェットからの影響を公言し、ノイズ、ネオ・サイケ、ゴシック、グランジ、インダストリアルからオルタナティヴ・ロックにいたるバンドがことごとくヴェルヴェット・アンダーグラウンドをルーツに上げるようになってからでした。日本のロックでもパンク以降は言うまでもなくそれ以前からプロト・パンク的スタイルを持っていた裸のラリーズ村八分などはヴェルヴェットとの類似(裸のラリーズは『White Light / White Heat』からの影響を公言しています)によって語られるほどで、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのオリジナル曲ほぼ全曲に無数のカヴァー・ヴァージョンがあるほどです。本作が(発売が遅れたため半年後に一部再録音されたしたが)ストーンズの『Aftermath』、ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』、ディランの『Blonde On Blonde』、ザ・バーズの『Fifth Dimention』、ヤードバーズの『Roger The Engineer』、ビートルズの『Revolver』より早く完成されていたというのは驚くべきことで、オリジナル・アルバム4作『The Velvet Underground & Nico』1967、『White Light / White Heat』1968、『The Velvet Underground』1969、『Loaded』1970をご存知の方なら'70年代~現在にいたるこのバンドの影響力の大きさもすぐにわかります。そうであれば、何度となくヴェルヴェット・アンダーグラウンドについて煩瑣きわまりないご紹介記事を苦心して組んできた甲斐もあろうというものです。

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by ホンダアクセス