人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - White Light / White Heat (Verve, 1968)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - White Light / White Heat (Verve, 1968)
Recorded at Scepter Studios, Manhattan, September 1967
Originally Released by Verve Records V6-5046 (US), MGM Records SVLP 9201 (UK), January 30, 1968
Produced by Tom Wilson
All Songs by Lou Reed except as noted.
Side One : https://youtu.be/g-_oHhz_B2I
A1. White Light / White Heat - 2:47
A2. The Gift (Reed, Sterling Morrison, John Cale, Maureen Tucker) - 8:18
A3. Lady Godiva's Operation - 4:56
A4. Here She Comes Now (Reed, Morrison, Cale) - 2:04
Side Two :
B1. I Heard Her Call My Name (alternate 1993 reunion version, live in Prague) : https://youtu.be/3g2eEwKb7XU - 5:23 (4:38 as Original Studio Version)
B2(a). Sister Ray (Sweet Sister Ray) (Apr.30, 1968) : https://youtu.be/MFaOyQbDTKs - 39:25 (17:28 as Original Studio Version)
B2(b). Sister Ray (Reed, Morrison, Cale) (alternate "Legendary Guitar Amp Tapes" version, live in Mar.13, 1969) : https://youtu.be/VEM1wayCOjI - 25:55 (17:28 as Original Studio Version)

(Original UK MGM Records "White Light / White Heat" LP Front Cover)

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 ルー・リード在籍時のヴェルヴェット・アンダーグラウンドのオリジナル・スタジオ・アルバム全4作中の極め付き。他のアルバム同様公式アルバムのアップロードに厳しいユニヴァーサル・ミュージック・グループが版権を管理しているため、残念ながら変則的な音源リンクしか引けませんが、一応のご紹介はすることができます。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのオリジナル・スタジオ・アルバムは、リーダーのルー・リード在籍時に、
1. The Velvet Underground & Nico (Verve, 1967.3)
2. White Light / White Heat (Verve, 1968.3)
3. The Velvet Underground (MGM, 1969.3)
4. Loaded (Cotillion, 1970.9)
 があります。1はオリジナル・メンバーの4人にゲスト・シンガーの女優ニコが全11曲中4曲に加わったもの。2が本作で、バンドは次作のためのデモテープ録音を2のリリース直後から始めていますが(のち8, 9に収録)、1968年9月にオリジナル・メンバーでリードとともにバンドの双頭リーダーだったジョン・ケイルが脱退し後任にダグ・ユールが加入、ライヴ活動が増加しダグ・ユール、モーリン・タッカーのリード・ヴォーカル曲も含む3をヴァーヴ・レコーズの親会社MGMから発表しますが、アルバム・チャート171位の1、199位の2よりもさらに成績は悪くチャートインしませんでした。ユールの声質はリードと似ており、変声期前のリードが歌っているような雰囲気になっています。バンドはMGMからの次作のためにデモテープ録音を続けますが(のち8, 9に収録)、半ばMGMからクビ、半ば強引なマネジメントの画策でアトランティック・レコーズ傘下のコティリオンに移籍、制作された4の発売月の前月にルー・リードは脱退してケイル同様ソロ・アーティストに転向します。4はチャート202位とトップ200には入りませんでしたが、ロングセラーを続けるヒット・アルバムになりました。
5. Live at the Max's Kansas City (Cotillion, 1972.5)
6. Squeeze (Polydor UK, 1973.2)
7. The Velvet Underground Live: 1969 (Mercury, 1974.9, 2LP)
 リーダーのリードが脱退してもマネジメントと残りのメンバーの意向でバンドはダグ・ユールを新たなリーダーでリード・ヴォーカルにメンバーを補充してライブを1973年5月まで続けます。オリジナル・メンバーのスターリング・モリソン、モーリン・タッカーもこの間順次脱退していき、最後にはダグ・ユール一人に後任メンバーばかりという状態でしたが、ライヴの仕事や新作制作の企画はありました。コティリオンからは契約満了のためルー・リード最後のヴェルヴェット・アンダーグラウンドでのステージになった公演(1970年8月)を関係者が録音していた音源が5になり、ヨーロッパ・ツアーにダグ・ユールのみが現地セッションマンと制作した新作スタジオ・アルバムがロンドン録音の6になりました。またルー・リードのソロ・アーティスト活動のブレイクを受けてマネジメントの財政難のために1969年10月のダラス、11月のサンフランシスコでクラブ・オーナーが録音していた音源から7が編まれて好評を博しましたが、前年1973年にダグ・ユールのヴェルヴェットも自然消滅していながら正式な解散声明はなかったので、一応7がリリースされ解散が確認された1974年までがヴェルヴェットの歴史と見なせます。デビュー・アルバム1が初めて日本盤で発売されたのも1974年です。
8. V.U. (Verve Polygram, 1985.2)
9. Another View (Verve Polygram, 1986.9)
 '70年代後半のパンク・ロック発生以降ヴェルヴェットは元祖パンクとして再評価が進み、1, 4, 5, 7以外は廃盤になっていたアルバムも全作品(ダグ・ユール一人の6を除く)が再発売されて定番のロングセラー・アルバムになり、そこで発掘発売された未発表スタジオ録音曲集が8と9の2枚になります。ルー・リードのソロ・デビュー・アルバムや発掘ライヴの7に含まれていた曲がもともと2に続く未発表デモテープ、3に続く未発表デモテープでスタジオ録音されていたことがこれで明らかになるとともに、これで2枚のスタジオ録音アルバムが増えたわけです。音源発掘は近年まで続き、4のほぼ全曲分のデモテープ、2から4に渡る時期にまだあった未発表スタジオ録音曲がボックス・セットや再発盤のボーナス・ディスクで発表されましたが、アルバム単位としては8, 9で主要な未発表曲は網羅されており、準オリジナル・アルバムとされています。さらにバンドはジョン・ケイル在籍時(1, 2)のオリジナル・メンバー4人で期間限定の再結成ヨーロッパ・ツアーを行い(ニコは1988年逝去につき不在、ダグ・ユールは誘われず)、2枚組のライヴ・アルバムとライヴ・ヴィデオを残しました。
10. Live MCMXCIII (Warner Brothers, 1993.11, 2LP)
 スターリング・モリソンは1995年逝去、ルー・リードは2013年逝去したのでオリジナル・メンバーによる再結成は不可能ですが、今年2017年にはジョン・ケイルが「1967/2017」と名銘ってヴェルヴェットをリスペクトする多数のバンドとデビュー・アルバム全曲プラス代表曲を演奏するフェスティヴァルが開催され、『The Velvet Underground & Nico』は全曲カヴァーのトリビュート・アルバムも数種類があり自宅録音のアップロードもYou Tubeには増え続け、楽曲単位でも半数以上の曲がロック・スタンダード、カヴァー頻度の少ない曲でも十分なほど浸透していますから、ジョン・ケイル健在中にこうしたフェスティヴァルがあるのも商業的な企画ではないだけ納得のいくものでしょう。ケイルの担当楽器はエレクトリック・ヴィオラ、ベース、ピアノ、オルガンと各種エフェクトで、ケイル在籍時の2作のアルバムの実験的なサウンドの要となった人です。後任のユールはベース以外にケイルがエレクトリック・ヴィオラ、ピアノ、オルガンで担当していたパートをオルガンで補っていましたが、ケイルのノイジーで強迫的な演奏はエレクトリック・ヴィオラとケイル独自の工夫でディストーションをかけたピアノとオルガンならではのもので、特に音色に工夫をしないユールのオルガンでは同じ音列を弾いても平坦になってしまうのは免れませんでした。女性ドラマーのモーリン・タッカーはヴェルヴェットのリンゴ・スターみたいな存在でしたからヴェルヴェットの曲の再演も許されるとして、バンド在籍時の実績があるにしても1993年の再結成に迎えられなかった(またオリジナル・メンバーでもない)ダグ・ユール一人がヴェルヴェット・アンダーグラウンドのトリビュート・コンサートの主役を勤めるのは、仮に企画されたとしても無理があるでしょう。リード脱退後リード・ヴォーカルとギターに回ったユールは残されたライヴ音源を聴くと予想以上の健闘でバンドを引っ張っていますが、ヴェルヴェットとはまずデビュー・アルバムのオリジナル・メンバー4人のバンドであるというのが後世の見解であるからには補欠メンバーと見なされるのもやむを得ないところです。

(Original US Verve Records "White Light / White Heat" LP Liner Cover & Side One Label)

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 アルバムの全曲をライン落としのスタジオ録音音源でご紹介できればいいのですがUMGが認可しないので、苦肉の策でレコードA面だけをスピーカー再生した音源のリンクと、B面の2曲をB1は1993年の再結成ツアーからの客席撮影ライヴ、B2は唯一ジョン・ケイル在籍時のライヴ音源で聞ける(a)とダグ・ユールへのメンバー・チェンジ後の(b)の2通りリンクを上げました。リンクは引けませんでしたが大曲B2は1967年3月にはライヴ演奏されており、同年9月のアルバム2の録音でのアレンジはその時点で完成されています。ノイジーな長いインプロヴィゼーションから後半は完全に無調になり拍節も消滅して一定のBPMが続き、やがてBPMも崩壊する演奏パターンです。アルバム・テイク録音から半年経過、アルバム発売から3か月経過した(a)では「Sweet Sister Ray」ヴァージョンという通称がある通りケイル在籍中ではありますが大胆にBPMを落としたアレンジに改変されており、かえってアルバム・テイクに近いのはケイルが辞めてダグ・ユールに変わった(b)のヴァージョンです。ユールへの交代後しばらくは演り慣れてもおりレコードで復習もできるアルバム・テイクのアレンジの方が演りやすかったのでしょう。ユール加入後1年経った1969年10月には再び「Sweet Sister Ray」アレンジの演奏がされますが、この曲に関してはケイル在籍時に主にケイルのアイディアでアレンジされたものと思われます。B1はアルバム・テイクではルー・リードの発狂したようなギター・ソロが聴けますが、リンクを引いたVHSテープ時代の客席撮影ライヴでは音が悪くて何がなんだかわからないと思います。こんなのしかご紹介できなくて残念ですが(逆にアルバムを聴いている人には興味深く視聴できる動画ですが)、B2に2通り引いたライヴ音源の音質も当時の客席録音としてはこれでも最上級のレベルです。臨場感の点でも客席で聴くヴェルヴェットのライヴのサウンドはこんなものだったでしょう。デジタル録音以後の解析度の高いサウンドではなく、全体がダマになったようなアナログなサウンド、写真で言えばフィルム撮影時代の質感です。この音の悪さはレコードを再生してスピーカー録音したA面でも言えて、リンクの注記によるとレコード番号からイギリス盤のオリジナルを再生したようです。アルバム2と3は廃盤時代が長く、また日本盤発売も1982年にようやく実現したので、イギリス盤の方がアメリカ盤より遅れて廃盤になったため日本では1と4は国内盤で入手できるものの2と3を買うには長い間プレミアつきのイギリス盤を輸入盤店に探すしかなく、イギリス盤のかっこいいアブストラクトな軍隊ジャケット(ブラック・サバスの『Paranoid』みたいでもありますが)がオリジナルだと思っていたら日本盤発売は真っ黒なジャケット(実は左下に薄く頭蓋骨の絵が描かれたヘルメットのシルエットが隠れている)でしたのでしばらく違和感がありました。
 このレコード音源はほとんどの人がひどい音質と感じると思いますが、モコモコしてひどい、という感じではないでしょうか。実際のアルバムの音質はこれどころではありません。モコモコしている上ザラザラしていて、ヴォーカルとコーラスとバンドの各楽器のバランスがバラバラにせり出してくる無茶苦茶なミックスがされています。リードもケイルもサウンドの仕上がりに不満を洩らしていますが、この雑音の爆音でしかないロックンロールがヴェルヴェットを不朽のバンドたらしめたのです。ヴェルヴェットのデビュー作は1967年3月(録音1966年11月)、本作は1968年1月(録音1967年9月)発売ですが、この間にロックのアルバムの録音技術に革新的な役割を果たしたのが1967年6月発売(録音1966年12月~1967年4月)のビートルズ『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』です。次いで1967年11月発売のクリームの『Disraeli Gears』(『カラフル・クリーム』録音1967年5月)が決定的な録音技術革新を成し遂げました。『Sgt. Pepper's~』と『Disraeli Gears』の影響はドアーズの第1作~第3作『The Doors』1967.1、『Strange Days』1967.12、『Waiting For The Sun』1968.9、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの第1作~第3作『Are You Experienced ?』1967.5、『Axis: Bold As Love』1967.11、『Electric Lady Land』1968.10の録音・ミックスの変遷を辿るとはっきりわかります。セッション・ミュージシャンを大量に使った変則編成で万華鏡のようなサウンドを生んだビートルズの『Sgt. Pepper's~』だけでは定着せず、フェリックス・パパラルディの画期的なプロデュースによるギター・トリオ編成アレンジによるクリームの『Disraeli Gears』を経てようやく今日につながる標準的なロックの録音技術とサウンド・バランスの基本的なミックスが根づいた、と言えます。ところがヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアルバムはデビュー作(1967.3)でも基本的にプリミティヴだったものが『Sgt. Pepper's~』後の第2作(1968.1)ではドアーズの第2作(1967.12)の洗練とは反対に極端に歪つなものになり、メジャー・レーベル作品のロックがほぼビートルズやクリームの革新を消化していた第3作(1969.3)でも初回プレスのルー・リード自身によるミックス(通称「Closet Mix」)が問題視されて途中でレコード会社専属エンジニアによるリミックスに差し替えられる、などまったく時流を考慮しないサウンドになっています。本作のA3は明らかに電圧不良によるミスで途中でピッチが落ちてしまいますが平気でそのまま収録していますし、リード自身のミックスかリード本人が主張するように「レコード会社が勝手に仕上げた」という第4作(1970.9)ではアルバム冒頭の曲から演奏中にメンバーが咳払いする音がそのまま混入しています。ヴェルヴェット自体の演奏は確かに古くさいロック・バンドと感じさせるバタバタしたロックなのですが、アンサンブルの整合感を目指さずただただ直進的に進んでいくだけのビート感覚、耳ざわりの良いポップスとはまったく無関係なノイジーな爆音(または感覚の麻痺したような単調なサウンド)、それらの要素を持ったアヴァンギャルドを指向したバンドはヴェルヴェットと同時代のインディー・レーベル系のアルバムでもかなりの数のグループが確認できますが、ヴェルヴェットの強みはアヴァンギャルドな試みがルー・リードの優れてポップ性に富んだオリジナル曲を使って行われている点で頭抜けており、それがヴェルヴェットをニューヨークのアンダーグラウンド・ロックのライヴァルだったホリー・モーダル・ワウンダーズやパールズ・ビフォア・スワイン、ゴッズやクロマニヨンと運命を分けて未来へ音楽を届けるパスワードになりました。ワウンダーズやパールズも良いバンドなのですが(ゴッズやクロマニヨンは最初からノイズのみを指向していました)、ヴェルヴェットのように「こういうバンドを組んでみたい」と誘い込む因子では弱いのです。ヴェルヴェットのデビュー作と第2作の本作はボストンやニューヨークではモダン・ラヴァーズやテレヴィジョン、スーサイドやトーキング・ヘッズ、ザ・カーズを生み、ロンドンではロキシー・ミュージックやデイヴィッド・ボウイ、コックニー・レベルらのフォロワーを生むことになりました。ヴェルヴェットの調子外れはニューヨーク流のヒップ感覚でしたが結果的に時流を外れた音楽だったのが幸と出て、異端なものが主流に合流した後では判りづらくなってしまいますが、この明快な邪道さがあってこそ広い浸透力を持ち得たとも言えます。デビュー時のビートルズは雑音と呼ばれましたがヴェルヴェットは今なお雑音に聴こえるので、あるのは優劣ではなくポピュラリティの次元の差だけでしょう。これは長く聴くに耐える音楽です。