人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - ローディッド Loaded (Cotillion, 1970)

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド - ローディッド (Cotillion, 1970)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - ローディッド Loaded (Cotillion, 1970) : https://www.youtube.com/playlist?list=PLsQfpW7FBkHwJFQwZJyrQUGIS2nA38PDP
Recorded at Atlantic Studios, New York, April - July, 1970
Released by Atlantic Records Cotillion SD 9034, September 1970
Produced by Geoffrey Haslam, Shel Kagan & The Velvet Underground
All the selection are by The Velvet Underground (Lou Reed)
(Side One)
A1. Who Loves the Sun - 2:45
A2. Sweet Jane - 4:06
A3. Rock & Roll - 4:44
A4. Cool It Down - 3:06
A5. New Age - 5:11
(Side Two)
B1. Head Held High - 2:58
B2. Lonesome Cowboy Bill - 2:45
B3. I Found a Reason - 4:17
B4. Train Round the Bend - 3:22
B5. Oh! Sweet Nuthin' - 7:29

[ The Velvet Underground ]

Lou Reed - vocals (A2, A3, A4, B1, B4), guitars
Starling Morrison - guitars
Doug Yule - organ, bass, vocals (A1, A5, B2, B3, B5)
Maureen Tucker - drtms, percussion
Bill Yule - drums

(Original Cotillion "Loaded" LP Liner Cover & Side One Label)
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 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの全アルバムやバンドの歴史についてはセカンド・アルバム『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』をご紹介した際に概略をまとめましたので、そちらをご参照ください。本作はリーダーのルー・リード在籍時の最後のスタジオ・アルバムで、全作詞作曲ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとなっています。アルバム発表前月にリードが脱退したためバンド名義の作詞作曲表示になったもので、のちリードからの訴訟により全作詞作曲ルー・リード著作権登録が改められました。リード脱退後、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは1968年12月録音の第3作『The Velvet Underground』から参加したダグ・ユールがリーダーになって、1974年まで断続的な活動を続けます。その間にルー・リードはソロ・アーティストとして大成功を収めたので、長らくリード脱退後のヴェルヴェットはなかったことにされてしまっていたほどでした。本作制作の時点でリードは脱退の意志を固めており、マネジメントがリード脱退後もユールをリーダーに替えてヴェルヴェット・アンダーグラウンドの継続を決めていたことから(裏ジャケットでスタジオ作業中のショットに写っているのもユール一人です)半数の曲ではすでにダグ・ユールがリード・ヴォーカルに起用されており、さらに主流ロックに近づいたストリート感覚のロックンロール・アルバムに仕上げられていることから、本作はダークでシニカル、背徳的で頽廃的なサウンドだった初期2作のヴェルヴェットから、脱力したようなバッド・トリップ感に移ったサード・アルバムを挟んでさらにポップ化したアルバムとして賛否両論あるものでした。現在ではルー・リード在籍時のヴェルヴェット・アンダーグラウンドのスタジオ盤4作はいずれ劣らぬ名盤と認められており、本作『ローディッド』はポップ化の限界ゆえに4作中でも際立ったアルバムと目されています。本作収録の「Sweet Jane」「Rock & Roll」は多くのカヴァーを生み、生涯ルー・リードの代表曲としてライヴの定番曲となった名曲です。

 バンドは1969年5月~10月にライヴ巡業の合間を縫ってMGMレコーズのための次のアルバムの録音を行いますが、結局それらはMGMによる契約打ち切りで未発表デモテープの段階のまま終わることになります。ヴェルヴェットの再評価の高まりによって1985年にもなって発表されたのが未発表曲集『VU』『Another View』の2枚です。アトランティック・レコーズ傘下のコティリオン・レコーズに移籍したバンドはMGMに残した未発表曲は取り下げ(のち多くはルー・リードのソロ・アーティスト・デビューになるアルバムで再録音されます)、移籍後の新曲のデモテープ作りからリハーサルを始めます。それが1969年末と1970年4月のセッションでしたが、4月後半から7月にかけての『Loaded』収録テイクのレコーディングはオリジナル・メンバーのドラマー、モーリン・タッカーが産休のためにバンドを一時脱退し、ダグ・ユールの弟の高校生ドラマーのビル・ユールが勤めました(産休明け後タッカーはバンドに復帰、タッカーの再脱退後ビル・ユールは再加入します)。ボーナス・トラック入りの『ローディッド』の2CDデラックス・エディションではアルバム2枚分のレパートリーから『ローディッド』が完成したのが明らかにされ、ソロ活動に移る直前の時期にいかにルー・リードが多作で、創作力に満ちていたかが知られることになりました。同じニューヨークのアンダーグラウンド・シーンのバンドでもヴェルヴェットはファッグスやパールズ・ビフォア・スワイン、ゴッズなどより純粋にプロフェッショナルなミュージシャン集団であり、はっきりと楽曲と演奏で勝負できるグループでした。全アルバムの高い音楽的水準がそれを示してあまりあります。特に正攻法のロックンロールで成功作となった本作『ローディッド』はファッグスやゴッズには作り得ないものでした。もちろんこれはファッグスやパールズ、ゴッズらの魅力を十分に認めた上での話です。

 オリジナル・メンバーでリードと双頭リーダーだったジョン・ケイルに代わってダグ・ユールが加入したサード・アルバムと本作『ローディッド』はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの作風の転機が明確に現れた問題作ですが、ヴェルヴェットの4作のアルバムはいずれも収録曲の全曲がのちのアーティストによってカヴァーされ、どのからも半数近くの曲がロック・スタンダードになっています。『The Velvet Underground』では「Candy Says」「What Goes On」を始めA面全曲とB1、『Loaded』では特に「Sweet Jane」「Rock & Roll」の2曲は生涯ルー・リードのライヴ・レパートリーになったのは前述の通りです。「Candy Says」や「Who Loves The Sun」に続いて『ローディッド』でリードがダグ・ユールにリード・ヴォーカルを取らせた曲も変声期前のリードのような声質が曲想に合っており、女性ドラマーのモーリン・タッカーに歌わせた曲もチャーミングです。デビュー・アルバムとセカンド・アルバムの作風からは打って変わって内省的なムードになったサード・アルバムと、さらに一転してポップで明快なロック・アルバムになった『ローディッド』ですが、未発表曲集『VU』とさらにその拾遺曲集『Another View』はともあれ(曲単位では聴き応えのあるアルバムですが、寄せ集めなので統一感で劣るのは仕方ありません)、ヴェルヴェットはオリジナル・アルバム4作ともそのアルバムならではの魅力があり、どのアルバムにもこれこそヴェルヴェットの最高傑作として熱愛する支持者がついています。聴き飽きることのない耐久性はそうした意外なほどの音楽的な幅の広さにあり、一見シンプル極まりないのも装飾的要素の少ない、自由な大らかさによるもので、4作すべてを聴くとそれがよくわかります。おそらくそれは同時代よりも後世のリスナーの方がよりはっきりと判別できるのです。

 なお本作はLP時代にはA2「Sweet Jane」とA5「New Age」は短縮ヴァージョンとなっており、リマスター前のCD化ではLPマスター通りの短縮版、リマスターCDでは全長版となっていて、LP時代からのリスナーにはリマスター前のCDの方が馴染めるも、より音質が向上し、かつアルバム1枚分相当の未発表ボーナス・トラックを聴くにはリマスター版を買わねばならない厄介な事情があります。LP時代の多くの名盤が同様の事情にあり何枚も同じアルバムをだぶり買いしなければならないのは贅沢な悩みでもあれば、LPそのままのマスターを使用した版の廃盤も招く事態にもなっており、歴史的作品の場合はいた仕方ないとは言えなるべくならオリジナル・フォーム通りの復刻も望ましいところです。