人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

「眠れる森」第2章(続き)

「アイツとアイツ、それからアイツ…あいつらはしょうがねえ。アイツらは八王子でな…」
ところであんた、こんなところにいる人じゃない。何で?と訊かれてぼくも簡潔に答えた。隣の房長はヤクザ映画の台詞のように、
「なんだそりゃ?女なんか・漬けにして・しまくればいいんだよ」
実行不可能な助言だが親切心はわかる。「なるほど。ありがとうございます」
と受けて、雑談するうちに30分の運動時間は終る。初犯だし微罪だ、すぐに出られるよ。ありがとうございます、そうですか。
初めて国選弁護人の面会を受け告訴状の内容を知ったのは裁判の5日前。妻が娘ふたりを連れて家出した以前から保健所と警察に相談していたのもこの時初めて知った。告訴状には妻の署名があったが、内容はぼくが行わなかった暴力行為だった。
妻はまったく嘘がつけない女性だったが、計画的な家出も別居(妻と娘たちが戻る条件に、ぼくは遠方のウィークリー・マンションに移った)も民事訴訟によるDV指定と親権喪失と離婚も、DV防止条令に伴う接近禁止違犯を見越した刑事裁判化も、すべてが妻の同意によるDV防止条令のモデルケースだったのだ。
「ぜんぶ認めて謝罪するしかないですね」
小さな穴の空いたアクリル窓越しに告訴状を読んだ後、よく太ってピアスを光らせた弁護人に告げられた。接見時間は15分足らずだった。すいません、少し休ませて下さいと刑務官にお願いし、ビックリ箱を半ドアにさせてもらって5分ほど泣いた。「もういいかい?」と刑務官が迎えに来たら、ちょうど同房のU君が接見から出てきたところ(彼は元DJで、音楽話ができる唯一の同房者。感覚も鋭かった。「拘置所にはカレンダーはあるけど時計はありませんよね。それにやたら天井が高い。時間がどんどん加速していく気がする」)だった。
「どうしたんですか?」
「ちょっとショックだったんだ…もう落ち着いたけど」
最初の結審で判決は出なかったので自分から志願して独居房に移った。房長は寂しげだった。
「今までお世話になりました。一人でじっくり考えたいと思います」
とあいさつした。
輸入雑貨商のCさん(ジョン・レノン似、マリファナ常習者)はちょっと癖のある人だった。これでもまだ、ぼくが薬やってるように見えますか?
「見えるよ。君はどう見てもケミカルだから」