人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

虫垂炎入院日記(10)読書篇

今回は手抜き。麻酔点滴を終えて入院後半に読んだ本はマンガを除けば10冊。前置きもあるし、文字数制限からいって1冊80文字も書けないから撫で斬りだ。1冊の例外を除いてみんな退院患者さんが談話室の本棚に置いていった本だ。つまりこれが世の人の読書の平均値ということにもなる。なにかと世間知らずのぼくにはいい機会。入院だって勉強だ。では始めよう。

原武史昭和天皇
評伝として簡明だか、特に昭和天皇の特殊性を丹念に追っている所が特色。三種の神噐と天皇家の継承を至上としつつ一見矛盾する多彩な側面が見えてくる。
・H.G.ウエルズ「宇宙戦争」先駆者の苦労か、プロットがぎこちないのが初々しい。そういえば火星人とは最後までディスコミュニケーションなのが効果的。
アガサ・クリスティー「スタイルズ荘の怪事件」
たぶん3回目くらいに読むが、おみそれしました。これほどまでとは。29歳の処女作、すでに大器の貫禄十分な傑作。
夏目漱石文鳥夢十夜」ほとんど晩年近く長篇の合間に書かれた短篇集。他に「永日小品」「思い出すことなど」。愛読者向け。
小松左京谷甲州日本沈没・第二部」
年齢的に執筆不可能な小松に代ってチームが組まれ、弟子格の谷が執筆。重厚で読みごたえはあるが、これが読者の求めていた完結篇なのかは疑問。
東野圭吾「手紙」
先入観を捨てて読んだが、文庫カバー裏の内容紹介のように「不朽の名作」とはとても思えない。シリアスを装った人情話だと思う。安易さに閉口しつつも結構楽しく通読。
新渡戸稲造「修養」
自己啓発書の三笠知的教養文庫で「いま自分のために何ができるか」と改題してある。原著は明治44年(1911)刊。百年前!自己啓発書ほど賞味期限の短いジャンルはないと思うが。
村上春樹神の子どもたちはみな踊る
売店でこれしかめぼしい文庫本がなかったので購入。刊行時は絶賛の嵐だったので期待したが、連作6篇、意味ありげなのに尻すぼみの感。残念。
藤沢周平花のあと
74~85年に発表の短篇8篇を収めた時代小説集。全8篇とも素晴らしい。晩年著者は国民的作家と呼ばれていたが、それも納得。
佐江衆一「長きこの夜」
いわゆる「内向の世代」の純文学で読むにたえるのは古井由吉後藤明生だけ、と再認識させられる1冊。