#小説
前2回にわたって19世紀アメリカの夭逝作家スティーヴン・クレイン(Stephen Crane、1871~1899、享年28歳)の処女作にして第1長篇『街の女マギー (Maggie:A Girl of the Streets)』を読んできましたが、再びその成立背景とあらすじを記しておきます。『街の女…
ギイ・ド・モーパッサン(1850~1893)の作家活動は実質10年間という短いものでした。20代で役人生活のかたわら伯父の親友で母の知り合いでもあったギュスターヴ・フローベール(1820~1880)の薫陶を受け、エミール・ゾラ(1840~1902)らフローベールの弟子たち…
先日引っ越しが済んで、しばらくニュージーランド出身のイギリス作家キャサリン・マンスフィールド(1888~1923、享年34歳)の全集を読み返していましたが、短編作家だったマンスフィールドは書簡集や日記を除くと短編集5冊(『ドイツの宿にて』1911年、『幸福…
日本の初期の現代小説は二葉亭四迷『浮雲』1887、森鴎外『舞姫』1890、樋口一葉『たけくらべ』1895と続くが、大衆的人気は尾崎紅葉、幸田露伴にあった。「紅露時代」とすら喧伝されたらしい。紅葉の処女作『二人比丘尼色懺悔』、露伴の処女作『風流仏』はと…
フローレンは素早くうつぶせに倒れた偽ムーミンの死体にかがみこむと、頭をつかんで頸椎をごきり、と捻りました。フローレンの眼はムーミンの神経系に再びニューロン伝達が復帰するのを目視することができましたから、どうやら目的は達せられたようでした。 …
イギリスの小説家マルカム・ラウリー(1909~1957)の代表作『火山の下』1947は全12章で、そのうち第一章は全体の序章をなす一年後の回想ですから、第二章以降の11章は主人公夫婦が悲惨な事故死を遂げた一日の午前七時~午後七時の12時間を追ったものにすぎま…
タイトルに反してこの連載は「文学史早分り」的なものではありません。サンプルとしてエーリヒ・アウエルバッハ(1892~1957)のヨーロッパ文学表現史『ミメーシス』1946を取り上げ、学問的で客観的と思われがちな文学史がいかに時代思潮の偏差を反映したもの…
『ミメーシス』の著者がギリシャ演劇を外したのは大きな問題をはらんでいる、と言えます。『オデュッセイア』『旧約聖書』と、さらにアウエルバッハが論考の対象から外した一方の問題である古代ギリシャ抒情詩から古代ギリシャ演劇が一歩を進めた新しい文学…
前回の『文学史知ったかぶり』は8月1日でしたから内容に触れておきましょう。『ミメーシス』は第一章の『オデュッセイア』『旧約聖書』から第二章ではいきなり『サテュリコン』『年代記』に飛んでいる。つまり古代ギリシャから隆盛期のローマに一足跳びで移…
今回でいつの間にかアンドレ・ジッド(1869~1951)紹介も20回目となりました。ジッドは30~40年前まではよく読まれた作家だったので、文学全集のジッド集や各社からの文庫版などネット通販では捨て値からプレミアまでさまざまに出回っています。ただし数が多…
前回机上にあげたアンドレ・ジッド(1869~1951)の作品は『アンドレ・ワルテルの手記』1891、『背徳者』1902、『狭き門』1909で、処女作『ワルテル』からの飛躍には『地の糧』1897に見られたような西洋文化からの離脱宣言があったのです。しかしジッドは『地…
歴史的には、性愛と結婚が結びついたのはつい近代からの、限られた文化圏だけの現象にすぎません。アンドレ・ジッド(1869~1951)が自分の男色嗜好に目覚めたのも、長期旅程のうちアルジェリア滞在中に、性的奉仕を含む召使の少年との交渉があったからでした…
作者自身が形式上の分類をしておきながら、アンドレ・ジッド(1869~1951)の創作は内容的に見ると形式的には異なりながら主題は共通しているものが多いのに気づきます。 処女作『アンドレ・ワルテルの手記・詩』1891~1892は詩的散文と分類されていますが内容…
前々回で一編ごとに楽しんでみますといいつつ、アンドレ・ジッド(1869~1951)の作品は果して個別に論じるべきか難しいのです。 まず処女作『アンドレ・ワルテルの手記・詩』1891~1892年に始まる自伝的作品の系列があり、『ナルシス論』や『ユリアンの旅』、…
処女作に作家のすべてがあるならば、アンドレ・ジッド(1869~1951)はかなりやばいことになります。作者本人がのちに詩的散文に分類する1891年(22歳)の『アンドレ・ワルテルの手記』と1892年の『アンドレ・ワルテルの詩』はともに匿名出版で、狂死した実在の…
1926年の『贋金つかい』と創作日記『贋金つかいの日記』の発表に伴い、アンドレ・ジッド(1869~1951)は自己の創作を詩的散文、レシ(物語)、ソチ(風刺作品)に過去に遡って分類しました。それは『贋金つかい』こそ自己にとって最初で最後のロマン(長編小説)と…
『ミメーシス』は第一章で『旧約聖書』を取り上げていますから古代ギリシャ抒情詩を落すのはまだしも、古代ギリシャ演劇―三代悲劇作者アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスと突出した喜劇作者アリストファネスは文学の発展史上欠かせない里程標になるで…
通常の文学史であれば『オデュッセイア』(紀元前六世紀までに成立)に続き、紀元前六世紀中葉からのギリシャ抒情詩、紀元前五世紀のギリシャ演劇―三代悲劇作者アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスと突出した喜劇作者アリストファネスは古代文学の表現史…
エーリヒ・アウエルバッハの『ミメーシス~ヨーロッパ文学における現実描写』のような大局的な文学史書となると、読者が気を取られるのはまず全体像であって、各論ではありません。この著書は学問的立場から意図的に各章の分量を統一しており、文庫版の上下…
この連載は元々ドイツの文学史家エーリヒ・アウエルバッハ(1892~1957)の代表的著作『ミメーシス』46で論じられる文学概念の検討から始まりました。同書邦訳では「ヨーロッパ文学における現実描写」と副題がつけられているように邦訳で上下巻1000ページを20…
ようやくアンドレ・ジッド(1869~1951)の小説以外の著作について、具体的にご紹介できます。まず劇作家としては、 [戯曲]01年(32歳)『カンドオル王』・08年(39歳)『バテシバ』・31年(62歳)『エディプ』・39年(70歳)『十三本目の木』・45年(76歳)『一般の利益…
前回は、アンドレ・ジッド(1869~1951)の小説以外の著作年表を掲載しただけで紙幅が尽きました。未完成戯曲は省略し、没後にはリルケ、クルティウス、ヴァレリーとの往復書簡が刊行されました。注目はやはりヴァレリーで、ジッドより二歳年下ながらマラルメ…
今回は、アンドレ・ジッド(1869~1951)の小説以外の著作年表を作成しました。次回で解説します。 1891年(22歳)『ブルターニュの旅より』紀行 1898年(29歳)『フィロクテテス』戯曲 1901年(32歳)『カンドオル王』戯曲 1903年(34歳)『サユウル』戯曲、『プレテ…
1926年の『贋金つかい』と創作日記『贋金つかいの日記』は、アンドレ・ジッド(1869~1951)にとって創作の代表作であり、同時代の反響・影響ばかりか現代小説もジッドの提示した文学観の延長にあります。横光利一、川端康成、石川淳らは直接ジッド全盛期の影…
1926年の『贋金つかい』と創作日記『贋金つかいの日記』から、アンドレ・ジッド(1869~1951)はかつての自己の創作を詩的散文、レシ(物語)、ソチ(風刺作品)に分類します。それは『贋金つかい』こそ自己にとって最初で最後になるだろうロマン(長編小説)という…
セオドア・ドライサー『巨人』1914と『アメリカの悲劇』1925、国際的ベストセラーになったシンクレア・ルイス『本町通り』1920と『バビット』1922、シャーウッド・アンダソン『ワインズバーク・オハイオ』1919と『貧乏白人』1920はクレイン、ノリス、ロンド…
熟成した自然主義小説『シスター・キャリー』1900でデビューしたセオドア・ドライサーがようやく認められたのは第三作『巨人』1914からで、ゾラや藤村が自国で自然主義小説の時代を築いたようにはいかず、ドライサーはアメリカでは孤立した存在でした。ドラ…
アメリカ合衆国の独立国化は1776年ですがこれは州単位で植民地から独立国家となっただけで、法の制定や運用は長らく州単位で行われ、現在でもその名残をとどめます。日本でも鎌倉幕府設立までは中央集権というシステムはなく、本格的な統一国家としての中央…
アメリカ初期自然主義を代表する作家と作品は、 ※スティーヴン・クレイン(1871~1900) 代表作/『街の女マギー』1893/『赤い武勲章』1895 ※フランク・ノリス(1870~1902) 代表作/『死の谷』1899/『オクトパス』1901 ※ジャック・ロンドン(1876~1916) 代表作/…
菊地寛の肝入りと川端康成の後見で発足した文学界グループは小林秀雄をボスとした文学エリート集団で、フランス文学専攻のメンバーが多く、彼らによるアンドレ・ジッド(1869~1951)の位置づけは戦前だけでも三社から『ジイド全集』が刊行された昭和10年まで…