人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

虫垂炎退院日記(2)躁鬱病入門

ぼくの学生時代にアメリカ文学界の大型新人としてデビューしたスティーヴ・エリクソン(今は中堅になり地味な存在だが)の処女作の原題は'Days Between Stations'でその後翻訳も出たが「駅から駅への日々」という訳題で、原題の歯切れのよさはなかった。ぼくの在宅生活もまた、入院から入院へのつかの間にすぎない。

統計では双曲性障害(躁鬱病)は最初の病相(発症)から5年後に2回目、以降は3年後、と間隔が短くなっていく。社会生活ができなくなったら慢性化で、余生は病棟生活を覚悟しなければならない。服薬と療養で慢性化は防げるが、躁鬱の病相は来る時は来る。しかも3人に1人は慢性化する。銃弾を2発詰めた6連発のリヴォルヴァー!慢性化しなくても生涯服薬は必要で、仕事復帰は絶望に近い。年齢的にも再就職困難で、ストレスが病相を引き起こすからだ。
生涯病相回数は統計では平均7回。だからって7回入院すれば済むということにはならない。躁鬱病の安定状態は軽度の鬱(食欲や睡眠に不調が出て、何事にも意欲が湧かず、対人関係を避け、仕事も学習もできない程度の鬱)が望ましいとされる。なぜか?
それは、本当に危険なのは躁だからだ。

躁鬱病の場合、鬱は当然つらいが対外的な問題行動は起こさない。その気力がない(ただし自殺願望は危険)。ところが躁となると気分が高揚し活動力が高まる上に精神面でも行動面でもコントロールが効かず、しかも本人にその自覚がない。興奮状態で上機嫌と不機嫌が交錯する。言動は粗暴かつ無謀で攻撃的になり、自分自身に攻撃を向けることも多い(躁状態自傷行為、自殺はそのパターン)。不眠も空腹も感じないから眠らず食事も摂らず、本人の気づかない間に体は弱り、意識に障害が生じてくる。誇大妄想から万能感に発展し他人に侮蔑的態度をとる。思考は散漫だが異常に多弁になる。女性の場合化粧が派手になり、男女とも突飛な服装になる。借金、カード破産、ギャンブルなどの浪費。性欲が抑制できなくなる。

そして躁の後は気力と体力を使い果たして寝たきりのどん底の鬱がやってくる。緊急入院。ぼくのような急性患者の場合平均3か月。躁状態の時にしでかした浪費、人間関係の悪化、軽犯罪(万引き、暴行、家宅侵入など)のツケは退院後にやってくる。
躁鬱病が決して軽快な精神疾患ではないことをお分かり頂けただろうか?