人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ディラン『見張塔からずっと』

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ボブ・ディラン(1941-)はそろそろデビュー50周年、カヴァー・ヴァージョンも4桁では済むまい。なかには本人以上にヒットしたものもある。たとえばジミ・ヘンドリックス「エレクトリック・レディランド」1968(写真下)収録の『ウォッチタワー』'All Along The Watchtower'はディランの交通事故復帰アルバム「ジョン・ウェズリー・ハーディング」'John Wesley Harding'1968(写真上)が発売されるやいなや素早くカヴァーして本家を顔色なさしめてしまった。ザ・バーズに『ミスター・タンバリン・マン』1965を演られてしまった時に匹敵、または凌駕する。なにしろディラン本人もライブはジミ版『ウォッチタワー』アレンジで歌うというのが定番になってしまった。ジミの歌では知ってるけどディランの曲とは知らない人も相当多いのではないか。ついでに言えばジミのヴァージョンはあまりに圧倒的な説得力があるので訳詞がいらない。でもする。

『見張塔からずっと』

「ここから脱け出す道があるはずだ」
とぺてん師が泥棒に言った、
「ここではややこしいことばかりでいちいち関わっちゃいられない。
商売人たちはおれのワインを飲み、
農夫たちはおれの土地をたがやす。
そいつらときたらそろいもそろって
やっていることの意義を知りやしない」
「まあ興奮しなさんな」と泥棒。
とても丁寧な口調で、
「人生なんて冗談だと思っているやつらが
このあたりには大勢いるだろう。
だがあんたとおれはとっくに通りすぎたし、
これはおれたちの運命じゃない。
だからそろそろ笑い話はやめよう。
夜も更けてきたころだ」

見張塔からずっと、王子たちは見張っていた。
侍女たちは総出で行ったり来たりし、
下男たちもそうした。

ずっとはるか遠くでは山猫が唸っていた、
馬に乗った男がふたり近づき、風が吠えはじめた。
(前記アルバムより)

この難解で晦渋、不穏で謎めいた雰囲気、つかみどころのない薄気味悪さが、ジミのヴァージョンでは曲の髄をつかんでスカッとふてぶてしく迫ってくる。ディラン本人すらジミ版を聴いて「なんだ、名曲だったのか!」と言ったそうだ。