『見張塔からずっと』
「ここから脱け出す道があるはずだ」
とぺてん師が泥棒に言った、
「ここではややこしいことばかりでいちいち関わっちゃいられない。
商売人たちはおれのワインを飲み、
農夫たちはおれの土地をたがやす。
そいつらときたらそろいもそろって
やっていることの意義を知りやしない」
「まあ興奮しなさんな」と泥棒。
とても丁寧な口調で、
「人生なんて冗談だと思っているやつらが
このあたりには大勢いるだろう。
だがあんたとおれはとっくに通りすぎたし、
これはおれたちの運命じゃない。
だからそろそろ笑い話はやめよう。
夜も更けてきたころだ」
見張塔からずっと、王子たちは見張っていた。
侍女たちは総出で行ったり来たりし、
下男たちもそうした。
ずっとはるか遠くでは山猫が唸っていた、
馬に乗った男がふたり近づき、風が吠えはじめた。
(前記アルバムより)
この難解で晦渋、不穏で謎めいた雰囲気、つかみどころのない薄気味悪さが、ジミのヴァージョンでは曲の髄をつかんでスカッとふてぶてしく迫ってくる。ディラン本人すらジミ版を聴いて「なんだ、名曲だったのか!」と言ったそうだ。