人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ザ・バーズ The Byrds - 昨日よりも若く Younger than yesterday (Columbia, 1967)

イメージ 1

ザ・バーズ The Byrds - 昨日よりも若く Younger than yesterday (Columbia, 1967) Full Album (Mono Version) : https://youtu.be/dNfvRgK0ehs
The Byrds - Younger than yesterday (Columbia, 1967) Full Album (Stereo Version/1996 remix CD reissued with Bonus Tracks) : https://youtu.be/YS0DWbn6cqQ
Recorded at Columbia Studios, Hollywood, CA, November 28 - December 1, 5-8, 1966
Released by Columbia Records CL 2642 (Mono), CS 9442 (Stereo), February 6, 1967 and April 7, 1967 in the UK.
Produced by Gary Usher
(Side 1)
A1. ロックン・ロール・スター So You Want to Be a Rock 'n' Roll Star (Jim McGuinn, Chris Hillman) - 2:05
A2. あの娘を見なかったかい Have You Seen Her Face (Chris Hillman) - 2:25
A3. C.T.A.-102 (Jim McGuinn, Robert J. Hippard) - 2:28
A4. ルネッサンス・フェア Renaissance Fair (David Crosby, Jim McGuinn) - 1:51
A5. タイム・ビトウィーン Time Between (Chris Hillman) - 1:53
A6. 燃えつくせ Everybody's Been Burned (David Crosby) - 3:05
(Side 2)
B1. 思想と言語 Thoughts and Words (Chris Hillman) - 2:56
B2. マインド・ガーデンズ Mind Gardens (David Crosby) - 3:28
B3. マイ・バック・ペイジズ My Back Pages (Bob Dylan) - 3:08
B4. 名もない少女 The Girl with No Name (Chris Hillman) - 1:50
B5. 何故 Why (Jim McGuinn, David Crosby) - 2:45
(1996 CD reissue bonus tracks)
12. イット・ハップンス・イーチ・デイ It Happens Each Day (David Crosby) - 2:44
13. ドント・メイク・ウェイヴス Don't Make Waves (Jim McGuinn, Chris Hillman) - 1:36
14. マイ・バック・ペイジズ (オルタネイト・ヴァージョン) My Back Pages [Alternate Version] (Bob Dylan) - 2:42
15. マインド・ガーデンズ (オルタネイト・ヴァージョン) Mind Gardens [Alternate Version] (David Crosby) - 3:17
16. レディ・フレンド Lady Friend (David Crosby) - 2:30
17. 年老いたジョン・ロバートソン (シングル・ヴァージョン) Old John Robertson [Single Version] (Jim McGuinn, Chris Hillman) - 5:05
NOTE: this song ends at 1:53; at 2:03 begins "Mind Gardens" [Instrumental Guitar Track] (David Crosby)
(Singles Data)
"So You Want to Be a Rock 'n' Roll Star" b/w "Everybody's Been Burned" (Columbia 43987) January 9, 1967 (US: #29)
"My Back Pages" b/w "Renaissance Fair" (Columbia 44054) March 13, 1967 (US: #30)
"Have You Seen Her Face" b/w "Don't Make Waves" (Columbia 44157) May 22, 1967 (US: #74)
[ The Byrds ]
Jim McGuinn - lead guitar, vocals
David Crosby - rhythm guitar, vocals
Chris Hillman - electric bass, vocals (acoustic guitar on bonus track 12)
Michael Clarke - drums
(Additional Personnel)
Hugh Masekela - trumpet (A1, bonus track 16)
Cecil Barnard (Hotep Idris Galeta) - piano (A2)
Jay Migliori - saxophone (A4)
Vern Gosdin - acoustic guitar (A5)
Clarence White - guitar (A5, B4)
Daniel Ray (Big Black) - percussion
unknown (possibly Van Dyke Parks) - organ (B3)

 ザ・バーズは当初本作の4人にヴォーカルと強力なソングライターのジーン・クラークを加えた5人編成のツイン・リードヴォーカルのバンドでした。もう一人のリード・ヴォーカリストのジム・マッギンは12弦エレキ・リードギタリストとアレンジャーとしての役割が大きく、デビュー・アルバム『Mr. Tambourine Man』1965.6と第2作『Turn ! Turn ! Turn !』1965.12は5人編成のオリジナル・メンバーによるアルバムでした。デビュー・アルバムと第2作はともにボブ・ディランピート・シーガーの作品を斬新なフォーク・ロック・アレンジでカヴァーした曲を含んだアルバムでしたが、メンバー自身のオリジナル曲はジーン・クラーク作品が卓越していたのです。しかし第3作『Fifth Dimension』ではマッギン、クロスビー、ヒルマンのオリジナル曲がクラークを圧倒するようになり、ジーン・クラークはレコーディング途中で脱退してしまいます。第3作は初めてディランの曲のカヴァーを含まないアルバムにもなりました。バーズのややこしいのはジーン・クラーク脱退後にはマッギンとクロスビーの間にリーダー争いが起こり、『Fifth Dimension』でも第4作の本作『Younger Than Yesterday』1967.2でもマッギン曲が優先されクロスビーの佳曲がオミットされる、という事態になります。第5作『The Notorious Byrd Brothers』1968.1は自作曲以外のレコーディングをすっぽかすようになったクロスビーを無視してマッギン、ヒルマン、ジム・クラーク(ドラマー)の3人で完成され、オリジナル・メンバーによる前期バーズの最後のアルバムになりました。バーズはさらにヒルマン、ジム・クラークも抜けてマッギン以外のメンバーは全員替わって後期に移行しますが、完全な新生バーズに定着するまでアルバムごとにメンバー・チェンジしていた期間もあるので一筋縄にはいきません。
 前作『Fifth Dimension』1966.7は当時のビートルズの最新作『Rubber Soul』1965.12を抜き、翌月発売のビートルズの『Revolver』1966.8にも対抗し得たアルバムでした。バーズからはすでにジーン・クラークが去っていましたが、ビートルズの次作より早く、という意気込みと創作エネルギーがあったのでしょう。半年ほどで完成された第4作が本作『Younger Than Yesterday』になるわけです。本作には再びボブ・ディランのカヴァー曲「My Back Pages」がありますが、デビュー・アルバムのバーズは同じコロンビア・レコーズ所属の強みを生かしてデモ・テープ段階のディランの新曲を入手してディラン本人のヴァージョンより早くカヴァー曲をリリースしていました。今回の「My Back Pages」は1964年8月発売のディランのアルバム『Another Side of Bob Dylan』で発表されていた曲です。アルバム・タイトル『Younger Than Yesterday』も「My Back Pages」の歌詞から採られたものでした。ここでまたバーズがディラン作のデビュー・シングル「Mr. Tambourine Man」を全米No.1ヒットにしたような現象が起きました。チャート上は全米30位に止まりましたが、バーズのヴァージョンによって「My Back Pages」がスタンダード曲になったのです。キース・ジャレット・トリオの『Somewhere Before』1969(1968年録音)、ナイス(キース・エマーソン在籍)の『Elegy』1971(1969年録音)はいずれもバーズのカヴァーによる「My Back Pages」から同曲をカヴァーしており(ナイスはキース・ジャレット経由かもしれませんが)、それというのもディランのオリジナル・ヴァージョンは観客を入れたスタジオ・ライヴでトーキング・スタイルで歌われており小節数・構成も気の向くままで、メロディーとコード進行、小節構成を整えたのはバーズのヴァージョンの功績でした。ディランはバーズのフォーク・ロック・スタイルをブルース味がないと嫌っていたそうですが、この曲に関しては認めていたことがディランのデビュー30周年記念コンサートのスペシャル・セッションからもわかります。アレンジはバーズのヴァージョンそのままで1番をマッギン、2番をトム・ペティ、3番をニール・ヤング、4番をエリック・クラプトン、5番をディラン本人、6番をジョージ・ハリスンが歌うのです。ちなみにバーズのヴァージョンでは3番まで歌ってギター・ソロを入れ、4番と5番は割愛してサビのコーラスから6番に飛んでいます。妥当なアレンジでしょう。もし7番まである曲だったら当日の出演者からルー・リードまで駆り出されていたのでしょうか。

(Original Columbia "Younger Than Yesterday" LP Liner Cover & Side 1 Label)

イメージ 2

イメージ 3

 本作も全11曲仕様で30分にも満たないアルバムで、当時の全米音楽協会の著作権制限のためなのは『Fifth Dimension』のご紹介の際に触れました。前作に収録洩れになったシングルB面の佳曲「Why」を再録音して収録しています。前作の「Jet Song」のようにバーズはアルバム最終曲は軽いお遊び曲で締めるのがこれまでのお約束で、ビーチ・ボーイズも同様にそれがアメリカのバンドのアルバム作りの常套手段だったのですが、ビーチ・ボーイズが『Pet Sounds』1966.5で初めてアルバム最終曲に哀切な「Caroline No」を配したのと同じ効果を果たしたのが「Why」です。その代わり「It Happens Each Day」「Don't Make Waves」「Lady Friend」の3曲が収録洩れになってしまいました。マッギンとヒルマン共作の小品「Don't~」はともかく「It Happens~」と「Lady Friend」はアルバム本編のA4, B5(マッギンとの共作)、A6, B2(単独作)に十分匹敵するクロスビーのサイケデリックな佳曲で、「Lady Friend」は次作『The Notorious Byrd Brothers』からの先行シングル「Goin' Back」(メジャー・デビュー前のクイーンがインディー・レーベルからのシングルでカヴァー)のB面になりましたが、クロスビー脱退を受けてアルバム未収録に終わりました。「It Happens Each Day」「Don't Make Waves」「Lady Friend」3曲が収録されていたら本作はマッギンのヴォーカルと12弦エレキ・リードギターが光る「My Back Pages」がリード・トラックにもかかわらずクロスビー色の強いアルバムになっていたでしょう。特にクロスビー単独曲A4~B2の中ではヒルマン単独曲A5, B1もクロスビーの曲のムードにぴったりはまっているのは面白く、もう2曲のヒルマン単独曲のうちA2は本作中もっともジーン・クラークの作風を継いだ初期ビートルズ風、B4はA5とともにカントリー風と、単独曲の比率ではヒルマン4曲と抜群なのにヒルマンの個性はマッギンとクロスビーのどちらにもなじむのです。本作のまとまりには名プロデューサー、ゲイリー・アッシャーの手腕も光ります。
 バーズの顔はマッギンでしたが提供曲は共作4曲と、ヒルマン(単独曲4曲、共作1曲)、クロスビー(単独曲2曲、共作2曲)よりソングライターとしては押されていました。ベーシストでリード・ヴォーカルには積極的ではないヒルマンはマッギンをおびやかさない、むしろ必要不可欠な人材でしたが、変則チューニング・ギターの名手で(ザ・スミスジョニー・マーはクロスビーとジョニ・ミッチェルの変則チューニングから学んだと証言しています)ヴォーカルも作曲も官能的なクロスビーとの折り合いには苦労したようです。クロスビーはバーズのデビュー当時すでにトラブルメーカーとして知られ、セッションマン出身のマッギンには才能は買うもののビジネス面でのミュージシャンシップでは信用がおけないメンバーと見なされていました。時間にずぼらですっぽかしさえして現れても飲んでくるのは当たり前、私生活は乱れに乱れて取り巻きはうさんくさい、女癖は悪いどころでは済まないというセックス、ドラッグ&ロックンロールの見本みたいな人物だったようです。クロスビー脱退の後マッギンはメンバー選びに慎重になりましたが、キーボード奏者を募集したのにコネを使ってやってきたギタリストが大富豪の御曹司ですごいレコード・マニアの上に20歳で自主制作アルバムも出していると期待して加入させたところクロスビーどころではない不良青年で、マッギンを押しのけてバンドを仕切り、イギリス・ツアーでキース・リチャーズ兄弟仁義を交わし、アルバム1枚作ってヒルマンとジム・クラークを引き抜いて逃げる、という事態になります。その青年が数年後にドラッグ死するグラム・パーソンズで、アルバムは『The Notorious~』の次作にしてカントリー・ロック第1号としてアメリカン・ロック史に燦然と輝く『Sweetheart of the Rodeo』1968.7でした。実際はもう少し複雑ですが簡単にまとめるとそうなります。バーズというのは知れば知るほど面白いバンドなのです。