人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ディラン『彼女にあったら~』

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 原題'If You See Her,Say Hello'、アルバム「血の轍」'Blood On The Tracks'1974収録、ボブ・ディラン(1941-)デビュー12年目、33歳に当たる。歌詞は初期からは別人のように平易で、離婚経験を歌ったプライヴェート・アルバムという発表当時からの風説も特に訂正の要はなさそうだ。表現といい内容といい、未練がましく哀れっぽいほどの歌詞を切々と歌う。そして曲は美しく歌声は繊細で、このアルバムを70年代ディランの最高傑作に挙げる人は多い(チャートでも1位を記録)。さすがにこの内容だとカヴァー・ヴァージョンは見当たらない。

『彼女にあったら、よろしくと』

もしも彼女にあったなら、よろしくと伝えてくれないか、タンジールあたりにいるはずだ
去年の春先に出て行った、そして今はそこにいるらしい
伝えてくれないか、のんびりでしかないが、おれは元気でやってると
おれが彼女を忘れてると思っていたら、違うとは言わないでくれ

どの恋人たちもそうなるように、おれたちも駄目になってしまった
彼女が出ていった晩を思い出すと、今でもさむけがしてくる
おれたちの別れはおれの心を貫いたが
彼女は今もおれのなかにいる、おれたちは別れてはいない

もし彼女と親しくなったら、おれからのキスをおくってほしい
自由になるための彼女のやりかたを、おれはいつでも尊敬していた
彼女がしあわせになるのなら、おれはその邪魔になりはしない
だが苦い味がまだ残ってる、彼女を引き止めようとしたあの晩から

おれは町から町へとまわって
いろんな人から彼女の名前を聞いた
だがやっぱり馴れることはできない、ようやく気にしないことを覚えた
きっとおれは繊細すぎるのか、軟らかくなっているのだろう

陽が沈み、黄色い月が出て、おれは過去を振り返る
すべてを思い出す、あっという間だった
もし彼女が戻って来たら、たやすくおれは見つかる
彼女にそう言ってくれ、もしも彼女にひまがあるなら
(前記アルバムより)

 かつてのディランなら「彼女が出ていった晩を思うと今でもさむけがする」「彼女を引き止めようとした晩からずっと苦い味がする」などとベタな表現はしなかっただろう。そこが要だ。