人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

大友克洋「童夢」

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大島弓子の続編はいずれ。今回は大友克洋童夢」1982です。この作者の代表作は「AKIRA」(全6巻)が知名度では勝るが、全1巻のなかで存分に描ききった作品としての凝縮度は「童夢」に軍配があがる。83年第四回日本SF大賞受賞。
刊行年を書いて遠い目になってしまった。それまで既に大友克洋は「ショート・ピース」「ハイウェイ・スター」「さよなら日本」などの短編集(後に単行本未収録作品集「ブギ・ウギ・ワルツ」「彼女の思いで」も)、矢作俊彦原作の連作長編「気分はもう戦争」の著者だった。
影響力はどの性別・年齢層を対象に描いているマンガ家にもじわじわとおよんだ。これら初期作品は内容はおおむねブラック・ユーモアなのだが、それまでのマンガの常識では考えられない・安易な模倣は無理なくらい高度な、しかしこれからのマンガはこれがスタンダードになっていくのだろう、と思わせる圧倒的な画力の片鱗は見せていた。外国のマンガ家の影響は指摘されたが、ストーリーを乗せた日本ならではのマンガ表現では大友克洋の絵はそれまで考えられなかった。

童夢」刊行から「AKIRA」第一巻の刊行(1985)までに、青年マンガはもちろん少年マンガ、少女マンガまで主力作品ほど大友克洋の画風を咀嚼したものになった。手塚治虫は大友マンガには敵対心むき出しで「大したことない。時間があればおれだって描ける」と歯噛みしていたという。
初期作品から大家への里程標的作品となった「童夢」とは、ではどんなマンガなのか?これは解説なしで誰にでも隅々までよくわかるし、ストーリーテリングも構成も完璧だから何度読んでも飽きない。
設定くらいいいだろう。団地でつぎつぎに起こる不可解な怪死事件。初老の刑事が事件の真相を突き止めた時が、あらたな惨劇のはじまりだった。
(以下ネタバレ)










この後説明はほとんどない。団地の病んだ住人群像を描きながら、無差別殺人を繰り返す悪意のボケ老人と小学生女子(どちらもエスパー)の戦いが展開される。本格的な戦闘から団地全体の崩壊シーンまで凄まじい。老人と小学生の対決は最後の数ページで静かに決着する。真昼の児童公園で、ひとりは息絶え、ひとりは姿を消している。事件の真相は誰も知らない。なにもマンガが完璧である必要はないが、完璧としかいえない。