人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

那珂太郎詩集「音楽」

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 久しぶりに戦後現代詩を取り上げる。那珂太郎(1922-2014・福岡県生れ)は現存詩人のなかでも最長老のひとりで、芸術院会員でもあった。詩歴は長いが寡作で、処女詩集「ETUDES」1950に次ぐ第二詩集が以下に紹介する詩を収録した中期の代表詩集「音楽」1966になる。もっともこの詩人の第三詩集「はかた」1975、第四詩集「空我山房日乗」1985、第五詩集「幽明過客抄」1990、第六詩集「鎮魂歌」1995はいずれも異なるコンセプトを持つので、「音楽」からの代表作が那珂太郎の代表作とは必ずしも言えないのだが。

『〈毛〉のモチイフによる或る展覧会のためのエスキス』 那珂太郎

a.

からむからだふれあふひふとひふはだにはえる毛

なめる舌すふくちびる噛む歯つまる唾のみこむのど のどにのびる毛
くらいくだびつしり おびただしい毛毛毛毛毛毛毛毛

b.

けだものの毛くだものの毛ももの毛ももの毛
けものの毛
けばだつ毛
けばけばしい毛
けむたい毛
けだるい毛倦怠の毛
けつたいな毛奇つ怪な毛軽快な毛
けいはくな経験の毛敬虔な刑而上の毛警視庁の警守長の
毛けむりの毛むりな毛むだな毛
けちんぼの毛
げびた毛? カビた毛
おこりつぽいをとこの毛?
ほこりつぽいをとこの毛
ほとけの毛?
のほとりの毛

c.

ガ毛ギ毛グ毛ゲ毛ゴ毛
餓鬼 劇 後家 崖 ギヤング 銀紙 ギンガム
の毛

d.

ゆりゆりゆるゆれゆれる藻
ぬらぬりぬるぬれぬれる藻
もえるもだえるとだえるとぎれるちぎれるちぢれるよぢるみだれる
みだらなみづの藻のもだえの毛のそよぎ

e.

目目しい目
耳つ血い耳
鼻鼻しい鼻
性性洞洞
すてきなステツキ
すてきなステツ毛
 (前記詩集より)

 戦前ならばこれは「皿皿皿皿皿皿」(高橋新吉)、「丁丁丁丁丁丁」(宮沢賢治)、「りりりりりり」(草野心平)同様ダダイズムの詩に見倣されただろう。那珂太郎は萩原朔太郎の研究者でもあり、「竹」の詩を含む「月に吠える」を萩原の最高傑作とする。たしかにここには「青猫」や「氷島」ではなく「月に吠える」からの発展が認められる。ただし極端に知的なフォルマリズムとして。それがダダとの違いでもある。