人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

気楽に映画の話をしよう

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筆者のような貧乏人の病気療養者には、寝床で携帯電話の画面で古今東西の映画を楽しめるのは、聖書に出てくるマナ(神様が飢えた民に降らせたマシュマロみたいな食物)を連想させる。見たいものばかりではないが、それはテレビ放映の映画や街の映画館だって同じことだ。メニューならむしろマッチ箱を横にしたより小さい配信動画の方が豊富だろう。一生かけても見尽くせる本数ではない。

昔のようにどんな小さな街でも通常は成人映画館、春夏正月のロードショー・シーズンは一般映画館になるという民衆的映画館は今はみんな更地にされて駐車場になり、新作映画はシネコン系列の一手上映になってしまった。
新宿南口の「世界傑作劇場」は雑居ビル内にあって、南口はまだ干物を吊るした屋台や泌尿器科が焼け跡番外地の雰囲気を醸し出していたが、「ぴあ」には載らないが「シティロード」には載っている「世界傑作劇場」は外国映画と新作日本映画の2~3本立て上映館で、タイトルや1階入口のポスターから察するに、成人映画館でもさらに特殊な-ゲイ映画館(男性向け)のようだった。

新作日本映画はポスターからも安上がりな雰囲気が漂っていたが、80年代(当時)の日本の新作ゲイ映画というだけで未知の世界が待ち受けているようだった。併映の外国映画も大半はアダルト・ヴィデオに毛が生えたようなもののようだったが、ヴィスコンティの「ベニスに死す」とかファスビンダーの「ケレル」などをポロッとやるのであなどれない。もし当時日本に上映権があったらシュレーターの「アイカ・カタパ」やテレンス・デイヴィス「トリロジー」などのアート系70年代ゲイ映画の古典も平気でやったかもしれない。ゲイ映画で一般映画のヒット作(確かオフ・ブロードウェイのヒット作原作)には「トーチソング・トリロジー」なんていうのもあったな。やったかもしれない。しかしどうせ入るなら本当のゲイ映画とゲイの観客を見学したい。ひとりでは心細いとはいえ女連れで踏み込んでもいいものか?

やがて社会人になって新宿南口(事務所が代々木だった)は毎日のように通り、南口はどんどん変って、いつの間にか雑居ビル群の入居者もアートシアターや千寿茸の特売店海賊版AV店や古本屋などは次々とお洒落なお店に入れ替わり、世界傑作劇場も消えた。今でも惜しいと思うのだ。