人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(4)フランツ・カフカ小品集

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この「フランツ・カフカ小品集」は小品集「観察」1913(生前刊行)、小品集「村医者」1919(没後刊行)、遺稿集「ある戦いの描写」1936(執筆1904-1924年)から1000文字以内でご紹介できる作品を選んでいる。この小説ともエッセイともつかない型式はドイツ語圏文学に特有のもので、いわゆるアフォリズムとも異なる。カフカ(1883-1924)はチェコの作家でドイツ文学の伝統とともにチェコ幻想文学の系譜にも属する。
今回の作品は「変身」の作家の筒井康隆への影響を感じさせる。ブラック・ユーモアともスプラッタ・コメディとも言えるものだ。
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『禿鷹』

ある時禿鷹が私の脚を突ついた。早くも長靴や靴下を食い破って、脚をじかに突つき始めた。突っかかったと思うと、いらいらと私のまわりを飛び回っては、それから作業を続ける。一人の男が通りかかって、しばらく眺めていたが、やがて、どうして禿鷹などに勝手な真似をさせておくのか、と尋ねた。「防ぎようがないんです」と私は言った。「飛んできたかと思うと、いきなり突つき始めたものですから。もちろん追い払おうもしたし、絞め殺そうともしました。だがこういう鳥って、とても力があるんですね。私の顔にさえ飛びかかろうとするもんですから、まだしも脚の方がと思っているんです。おや、もうほとんど食べられてしまいましたね」「そんなに苦しい目を我慢しなくても」と男は言った。「一発ぶっ放せば禿鷹なんかすぐにお陀仏ですよ」「本当ですか」と私は尋ねた。「お手数ですが、お願いできますか」「いいですとも」と男は言った。「ただ、家に銃を取りに戻らなきゃ。あと20分ほど待っていられますか」「そいつは判らない」と言いかけて、あまりの痛みに
体を強張らせてしまいながら、「頼みます。いずれにせよ、お願いできますか」「ええ」と男は言った。「急いで行ってきますよ」この会話の間、禿鷹はじっと耳をすまして私たちの顔を交互に見比べていた。どうやら会話の意味がわかってしまったらしい。さっと舞い上がって、深く体を反らせて弾みをつけると、矢のような早さで嘴を私の喉の奥まで突っ込んだ。私はどっと後ろへ倒れながらも、私の体を満たして堰を切って溢れる血液に禿鷹がすっかり溺れて、助かりそうもないのを感じ、ほっと胸を撫で下ろした。
(遺稿集「ある戦いの描写」1936)