人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

荒廃した人びと・後編(連作24)

(連作「ファミリー・アフェア」その24)

二度目は近所の花見の時だった。用水路沿いに桜並木があり、町の名所になっていた。ごったがえす花見客をかき分けて三輪バイクが疾走してきた。長女と次女を挟んでのんびり歩いていたぼくと妻は娘たちを引っ張り慌てて左右に飛び退いた。すれちがいざまに三輪バイクから、
「放し飼い!」
と罵声を浴び、妻は「放し飼いって何よ!」と激怒した。待っててね、と妻子に言い、追跡して赤信号まで追い詰めた。初老の女だった。
あなたにバイクを乗る資格はない。あなたはぼくの娘たちを轢くところだった。これから交番に行きましょう。後は警察に決めてもらいましょう。
「あの私、何のことかわかりませんが…」
ぼくは繰り返した。老女は困ったような顔を見せて、「バイクに乗れなくなったら困ります。勘弁して」

ああこの人は駄目だ、と同じやり取りを繰り返しながら思った。もう自分のことしか頭にないのだ。何を言っても駄目なのだ。しまいには荷台の買い物袋を差し出してきた。もういいです。これからは気をつけて運転してください。
戻ると妻と娘たちは不安そうに寄り添っていた。妻に簡潔に報告した。娘たちの緊張は解けなかった。
離婚後に通りすがりに受けた暴行はもっと悪質だった。夕方、ひと気のない道を自転車で帰宅途中だった。後ろから走ってきた自転車がぼくを抜こうとしてスリップし、自転車の男-またもや初老の男はぼくの前に回り込んで突飛ばしてきた。舗道に体固めをかけられ、気が済むまで顔面の頬から下を殴った。職業的に慣れた手順だった。元警察官、刑務官、自衛官、そんなところだ。ぼくは携帯を構えて顏写真を撮る威嚇(またはおちょくり)をしたが、本当に撮って携帯を壊されたら困るのですぐにしまった。老人はこれから気をつけろよ、と吐き捨てて去って行った。ぼくは「背中に目はついてないよ」と返した。

口の中は血まみれだったので、自宅で下着とズボンを替え(少し失禁していた)、駅前の交番に行ったが「現行犯じゃないとねー」。後を考えると暴行の証人がいる。歯科に駆け込んで事情を話し検診と消毒してもらい、痛み止めをもらった。N先生は歯は大丈夫だが脳震盪の自覚があれば内科かメンタルへ、と心配してくれた。警察はひどいですね、佐伯さんは何も悪くないのに。
それがぼくの罪なのだ。