人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

次女との短い通話・前編(連作27)

(連作「ファミリー・アフェア」その27)

「医師でも患者の自己分析を嫌がる人もいますが」
訪問看護士のAさん。「100人医師がいれば100通りの診断がある、ってくらいで、メンタルはそういうものですよ」
「ぼくは双極性障害1型で1級相当、強迫性障害でシゾイド型障害、アスペルガー症候群だと診断されていますが…」
「ご自分では?」
「躁鬱はなるほどな、という感じです。強迫性障害はよくわかりません。潔癖症や整頓癖はまるでないし。あるとすれば倫理的な頑固さみたいなものですね。シゾイド型障害は、たぶんあります。ぼくは常識的感覚がずれている。それがお上品ぶったりインテリぶったり、無感動にも優しくも見える。アスペルガーも、たぶんそうなんでしょう」
Aさんはうなづいて、
「佐伯さんは自分でしっかり病識を持てば安定を保てるタイプでしょう?自分で自分をコントロールできるんじゃないでしょうか」
どうでしょうか…そういえばパニック発作が治まって一年になるのに気づいた。精神分析療法はぼくの生まれた後でも様々に形を変えて残っていたが、主流は脳生理学による薬物療法になる。それでも電気ショックや前頭葉手術の時代に生まれなかっただけいい。

おそらくあの頃からだ。離婚後初めて数分間、次女と電話で話すことができた。妻は娘たちの近況すら話してくれなかった。だがその時は、次女に替ってもらえた。
いま一年生だね、おめでとう。小学校は楽しい?わくわくブラザ(学童保育)は?なのはちゃんやひろのちゃんとは今も仲良し?保育園の卒園式ではどういうお芝居をやったの?大人になったら何になります、って言ったの?(次女はふたりきりの時突然「パパ、私大人になったら一生懸命働くね」とニコニコしながら言い出したことがあった。ぼくは言葉にできなかった。アヤはずっとお友だちと一日中楽しく遊んでいていいんだよ、それがいちばんの幸せなんだよ)…
「お姉ちゃんとケーキ屋さんになります、って言ったよ」
と次女はひとつひとつの質問に簡潔に答えてくれた。次女は訊かれたことしかしゃべらない子だ。じゃ、お姉ちゃんを呼んでくれないかな。遠くで「お姉ちゃーん」と呼ぶ声がして、
「お姉ちゃんパパのお部屋に入って鍵かけちゃった。パパ嫌い、だって」
と(まだ以前のぼくの書斎は「パパのお部屋」なのだ)次女は言った。