人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記137

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・4月3日(土)晴れ
(前回から続く)
「堀口さんは喉頭がんから始まりまず声帯を切除したが、転移の進行は治療より早く全身の至るところでステージ4に達していた。言葉にはならないがうめき声はもれるので、夜毎苦痛に悶えてご家族に嫌がられています、と、筆談とジェスチャーで笑いながら話していた。高橋さんのお店でまず高橋さんと知り合い、60年代ディープ・ソウル愛好家の仲間に誘われて堀口さんと知り合ったのだが、堀口さんは永年ローリング・ストーンズ・ファンクラブの機関誌を運営していらした方で、がんで療養専念になるまでずっと機関誌のイラストレーションを手がけていらした」

「ソウル一辺倒よりもストーンズと絡めて黒人音楽全般を堀口さんと話すのが楽しかった。愛好会のみなさんはみんな含蓄があって、お話をうかがうのは面白いが、70年代ニュー・ソウルやファンクになると興味の範疇から外れてしまう。モダン・ブルースなら他の方々もいけるが、堀口さんはボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズやボ・ディドリー&ロン・ウッドの来日公演も観ているし、何よりストーンズ自体を堀口さん以外の人はほとんど聴かない。アトランティック系ソウルでもスタックスの作品以外はあまり受けが良くなく、ジェイムズ・ブラウンも純正ソウルとしては64年頃までしか認めてもらえなかった(一理あるが)」

「ソウル・バーで好きなレコード、CDを持ち寄って雑談を楽しむのだが、堀口さんは筆談だから気がつくと他の人たちだけで盛り上っていることが多い。だから他の誰よりも堀口さんと話した。筆談の不自由は、一対一の会話しかできないことだ。堀口さんは働けないので高いバーでは一杯しか頼めない。他の人たちは景気よくおかわりし、別のテーブルの人におごったりしている。初対面の他人におごっているならなぜ堀口さんにおごってあげないのだろう」

「堀口さんとは同じ駅で降りるので帰り道二人だけになると堀口さんもほっとした様子だった。病身だから友達付き合いは大切にしたいけれど、堀口さんにはあまり楽しい席ではないのがわかった。もちろん他の人の陰口は交わさなかった。駅のホームや車中で話がはずんだ。周囲からはまるでひとり言を言っているように見えるからじろじろ見られたが、気にしなかった。退院して真っ先に会いたい人は、やはり堀口さんだ」(続く)