人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(6)

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ではご主人さまはスペアリブ、奥さまとお坊ちゃまはチキンソテーをメインに、すべてフルコースでよろしいですね、と、給仕。
お坊ちゃまですって、笑っちゃうわよねー。やめなさいミイ、と姉のミムラがたしなめます。だーってみんな笑いをこらえているじゃない、とミイが言う通り、ムーミン谷の人びとは爆笑寸前とまではいかずとも、おのおのの形態に応じて苦笑や失笑の体を呈しておりました。もちろんレストランの中でです。物見高いムーミン谷の人びとは毒を食らわばとばかりに、こんなところまでムーミン一家についてきたのでした。
物置小屋程度のレストランだったのにはさすがのムーミンパパですら一瞬驚きましたが、そこはトロールですから状況に応じた縮尺になれば良いのです。また、トロールは不可視にも不感知にもなれますから、ムーミン谷中の人びとが壁や天井からムーミン一家の一喜一憂を見学しているのを、ムーミン一家の三人は知りません。
それでもカンとは働くもので、給仕が厨房に去り、ははは、ご主人さまと奥さま・お坊っちゃんときたもんだ、まるでわれわれは人間みたいではないか、と笑いながらもムーミンパパの目はなんとなく空中を向いていました。
あら、けっこうなことじゃありませんか、とムーミンママも微笑みましたが、ムーミンパパの視線に気づくと、なぞるように宙に目をやります。
両親のやり取りを聞いていたムーミンは自分も何か言おうと思いましたが、ムーミンパパもムーミンママもあらぬところを凝視しているので、つい忘れて自分もそこに見入りました。
ムーミンパパはそうだねママ、だろムーミン、と息子に目をやると宙の一点を見つめているので、はて、と自分も目をやります。
ムーミンママもハッと気づきましたが、とかく突飛な言動が目立つ夫だけならともかく息子までが夫と同じ虚空に目を凝らしているのは尋常と思えず、同じ視線の先を見つめました。
見つめるうちにムーミンもハッと気づきました。
つられてスノークも見つめました。つられてフローレンも見つめました。つられてヘムレンさんも見つめました。つられてヘムル署長も見つめました。つられてミムラも見つめました。つられてちびのミイも見つめました。スナフキンすらつられて見つめました。
その間にムーミンは、またトイレで偽ムーミンと入れ替り、そしらぬ顔で戻ってきたのです。