人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記221

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(人名はすべて仮名です)
・5月12日(水)小雨のち晴れ
(前回より続く)
「そうなの?という婦長の口調には何かこれから嫌味を言いたそうな気配があった。アルコール依存症治療病棟という環境が大きいとは思うが、ここでは看護婦が患者の人格を揶揄したり誹謗したりすることが普通に行われていて、これは今まで入院した一般科の精神病院ではないことだった。ええ、明日の診察で問題がなければ、酒歴発表から一週間~10日を目安に退院するのが妥当だろうと言われています。そして酒歴発表は一昨日済ませたから、あと一週間が目安になる」

「そう?佐伯さんの酒歴は聞いたけど、また飲み始めるんでしょ?ほらきた、と思いながら、酒歴には担当の谷村看護婦に目を通してもらい、これで良いと言われました。ふーん、と婦長は顎をしゃくって、私の経験では佐伯さんみたいな人は九割が半年以内に再入院するわね(註)。怒りが沸いて表情に出そうになったがなんとかこらえた」
(註)アルコール依存症の再入院はその後はない。半年後に別の病院に再入院したが、それは女性関係のトラブルによる双極性障害の症状悪化が原因で、アルコールどころか食事すら摂取していなかった。

「婦長との会話の合間に勝浦くんから抗酒剤のシアナマイドについての質問があり、心臓が止まった人もいます、ロックビンよりは弱いけど、と説明される。まあこないだみたいにコンビニでワンカップ買って店先で飲んで意識不明になった人もいるわけだが、こないだの帰宅外泊ではビールと缶チューハイを五本飲んで多少回りが早く、少し下肢の皮膚がかゆくなったくらいだ。だがそんなことは勝浦くんには言えないので、個人差あるみたいだね、と言いながら後でテキスト赤本を見てみると婦長の説明は逆で、シアナマイドの方が強いとあった。適当言いやがって、と勝浦くん。まあ今に始まったことじゃないさ」

「それより明日主治医の先生にいつ退院したい希望を出すか、が問題になる。勝浦くんはこの四床部屋が、少なくとも彼が退院するまでは空きの二床に新しい患者を移室する予定はない、とわかって安心し、大喜びの様子で、17日に一緒に退院しようぜ!考えとくよ、主治医の診断もまだ明日だしね。この部屋に新規患者を入れないのは勝浦くんがトラブルメイカーと目されている証拠だと思うと可笑しくなる」(続く)