人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(32)

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最初、人びとはスナフキンの存在に気がつきませんでした。あるいは、気がつかないふりをしていました。気づくとはすなわちその存在を認めることであり、認めてしまえばそれは間違いだ、認識の違いだと言ってもあとの祭りです。
ですが認識の違いにも種類はあり、たとえばカップルの一方が関係に倦怠を感じて商売女、あるいはホストに入れ上げた場合、
・この浮気者
と責めるのと、
・本気じゃないからm*_m
と詫びるのは同一事件をめぐる混乱ですが、
・解釈の相違!
と追い打ちをかけるのはどちらにも可能で、ならば両者は修辞上意見の一致をみたはずです。でも実際はそれで治まる男女関係とは現実ではごく稀で、針の穴からラクダを覗いて、
・針の穴からラクダが通るぞ!
と主張するようなものですが、ムーミン谷には現在ラクダはいないのです。一応現在と断るのは、ムーミン谷はどうやら極度に高度な発達をとげた文明の跡地に拓けた谷らしく、過去の文明の痕跡もまた現代のムーミン谷に属するとすればラクダがいなかった、とは断言できない。ただし現在はラクダはいない、ラクダに類似したトロールもいないというわけです。
いないものを例にあげていいのなら、クジラの場合はどうなるでしょう?ラクダを覗くにも六畳一間の対角線くらいの距離はとらねばなりませんが、この際だからモビー・ディックくらいはでかいクジラを想定したいと思います。白鯨というくらいですからシロナガスクジラを指すとして、シロナガスクジラは絶滅種の恐竜などを含めても、地球上最大の体長を誇る生物として知られています。観測された最大の個体は34メートルの体長に及んだそうですから、確かに陸地で生きるには不向きでしょう。
ラクダを覗いた要領でクジラ、それもシロナガスクジラを針の穴から覗くとなると、普通に両眼の視野に収めるにも相当の距離をとらなければなりません。ですがムーミン谷とはどのくらいの幅と長さを持つ地勢なのか、これまで多くの試みが素人によってなされましたが、全長ボート大から長野県大までさまざま、まちまちでした。市民プール大ではシロナガスクジラ自体が入らず、ムーミン谷以外の場所で試みてもそれはムーミン谷の真実にはならないのです。
そこで測量技師が呼ばれました。名前はスナフキン、ですがスナフキンが着いた頃には、依頼は忘れられていたのです。