(人物名はすべて仮名です)
・5月18日(火)晴れ(明後日退院)
(前回より続く)
「結局部屋に戻ると、吉村くんが嬉しそうな顔をしてこれ見てください、と一昨日の日曜付けの近隣のミッション系大学の週報と、母教会からの手紙を見せにくる。嬉しいのはわかるが、一度にいっぺんに二つ渡されても困る、ということが彼にはわからない。吉村くんが一昨日、外出許可をもらって徒歩で片道20分ほどのミッション系大学の学内礼拝に行ってきたのは聞いたが、勝浦くんが退院して同室になったのは昨日の午後からだし、昨日はずっと中里さんの相手をしていたのでこれまで見せるタイミングがなかったのだ」
「入院中は今後も日曜の礼拝出席の許可を主治医にもらえた、と喜んでいるので良かったね、と週報を見せてもらう。日本基督教団系のようだから、違和感はなく出席できるだろう。プロテスタントならだいたいどこも礼拝の手順は同じようなものだ。先方の教会でも歓迎してくれたそうだ。この病院もあちらの大学も歴史は古いらしいから、入院中に礼拝出席にきた患者は吉村くんが初めてではないだろうし、クリスチャンの信条では病者には親切にするのが務めなのだ。吉村くんもそういう環境なら病的な言動はすまい」
「話している間に五時になり、今週の男性の入浴時間なので夕食前に済まそうと浴室に行くともう先客が四人もいる。今日の風呂は皆で冗談を言いあうほどぬるかった。入浴から戻ると入れ違いに吉村くんが入浴に立ったので、日記を少し書き足す。入浴中に気づいたが、河尻という患者が入ってきた。自己紹介は明日の朝の会だろう。夕食後は先日の約束通り降谷智子の灰皿掃除を手伝い(昼も)、それから一応昨日途中までつきあった中里さんの酒歴作成を、今日と明日あればできるけどどうする?ありがとう、自分でできそうよ。だいたい今日一日の出来事はそんな具合だ」
「眠剤時間の後は吉村くんも篠田くんもすぐに眠っていたのでカーテン閉めて昨日の途中の箇所から日記書きに没頭し、11時の最終消灯で時間切れ。喫煙室に寝しなの一服に行き、尾崎さん・島田さんと追加眠剤の話になる。尾崎さんはまだ不眠がひどいらしい。けっこうストレスをためているのだ。島田さんは追加眠剤飲むと日中つらいので今夜は控えるという。尾崎さんは眠れないので、いびきのひどい患者をでかい順に上げてみせた」