人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

追悼『想像されたウェスタンのテーマ』

ベーシスト/ヴォーカリスト・作曲家のジャック・ブルースが過ぎる10月25日に亡くなった。享年71歳。10年前にはすでにガン闘病を公表し、その告知を受けるように長年の不仲が知れ渡っていたエリック・クラプトンジンジャー・ベイカーとクリームの再結成コンサートが行われた。クラプトンはプロ活動引退宣言の直後でもあり、クリームの再結成コンサートを成功させた後はスティーヴ・ウィンウッドとの実質的なブラインド・フェイス再結成コンサートも成功させている。クラプトンは青年時代から政界・財界の支援が篤く、この時期にイギリス王室から爵位を授けられている(他にはポール・マッカートニーエルトン・ジョン、ロッド・ステュアートなど)。クリームはクラプトンに世界的な名声をもたらしたバンドだが、バンドとしてのリーダーはジンジャー・ベイカーであり、音楽的イニシアティヴはジャック・ブルースが握っていた。クリームの作曲とリード・ヴォーカルは八割方ジャック・ブルースによるものだった。
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『アイ・フィール・フリー』『サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ』『ホワイト・ルーム』などクリーム時代の名曲は多いが、ジャック・ブルースを代表する名曲というと"Theme For An Imaginary Western"が真っ先に浮かんでくる。1969年8月発売のアルバム"Songs For A Taylor"で発表されたものだ。邦題は『想像されたウェスタンのテーマ』で知られているが、つまり空想上のアメリカ西部の情景、という意味のタイトルになる。歌詞はクリーム時代から作詞を委託している詩人のピート・ブラウンによるもので、雄大な曲想に合った見事なものだ。西部劇映画で言えばラウォール・ウォルシュやジョン・フォードの快活な西部ではなく、サム・ペキンパーの陰鬱で惨めな西部を連想させられる。
ジャック・ブルースがクラプトンに較べて渋い評価にとどまるのは、この曲が一歩手前まで近づいてしまったようなプログレッシヴ・ロック的な大仰さにもあり、ジャック・ブルースの良さはその大仰さ一歩手前のスリルにもあるので難しいところだ。
ジャック・ブルースのヴァージョンはリード・ヴォーカルとベース、キーボードが本人、ギターがクリス・スペディング、ドラムスがジョン・ハイズマンというクリームにも負けない最強トリオで録音されている。プロデュースはクリーム時代から引き続いてフェリックス・パパラルディが担当しており、ジャック・ブルースを軸に見ればブルースとパパラルディ以外のメンバーを一新したクリームのアルバムとも言える。アルバム・テイクがサイト上にないので近年のWDR(ドイツ国営放送)制作のヴィデオ・クリップを掲載する。

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Jack Bruce-"Theme For An Imaginary Western "
https://www.youtube.com/watch?v=D2GKT_P2Yro&feature=youtube_gdata_player
Lyrics:
When the wagons leave the city
For the forest, and further on
Painted wagons of the morning
Dusty roads where they have gone
Sometimes traveling through the darkness
Met the summer coming home
Fallen faces by the wayside
Looked as if they might have known
Oh the sun was in their eyes
And the desert that dries
In the country towns
Where the laughter sounds

Oh the dancing and the singing
Oh the music when they played
Oh the fires that they started
Oh the girls with no regret
Sometimes they found it
Sometimes they kept it
Often lost it on the way
Fought each other to possess it
Sometimes died in sight of day

Songwriters: BRUCE, JACK / BROWN, PETER CONSTANTINE
Theme For An Imaginary Western lyrics ? Warner/Chappell Music, Inc.
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さて、フェリックス・パパラルディはニューヨークのミュージシャンでクリームのプロデュースはセカンド・アルバムから手がけたが、その"Disraeli Gears"(『カラフル・クリーム』1967年11月発表)はロックのみならずポピュラー音楽のレコードのミキシングの概念を決定的に変革させることになった。それまでステレオのミキシングは楽器・歌手単位で左右に振り分けられていたのだが、パパラルディのミキシングはすべての楽器を音域的に分割し、左右均等に配置し直すことで擬似的にライヴと同様な音像の遠近感を作り出した。クリームのセカンド・アルバム発表以降に制作されたアルバムを聴くと、瞬く間にパパラルディのプロデュース技術の影響がポピュラー音楽全般に浸透したのがわかる。
パパラルディは本来ベーシストで、ニューヨークの若手バンドではハッスルズのビリー・ジョエル、ザ・ヴェイグランツのレスリー・ウエストらと下積み時代を共にしていたが、先にプロデューサーとして成功したので、クリームの解散後はニューヨークのNo.1ギタリスト/ヴォーカリストだったレスリー・ウエストをフロントマンにマウンテンを結成し、ベーシストに戻る。マウンテンは1969年8月15日~17日のウッドストック・ロック・フェスティバルに早くも起用されており、発表は1971年になったが16日の出演からオムニバス・ライヴ盤『ウッドストック2』に2曲収録されているうちの1曲が『想像されたウェスタンのテーマ』で、ジャック・ブルースのアルバム発売前になる。
Mountain-"Theme For An Imaginary Western"live at Woodstock,1969
https://www.youtube.com/watch?v=GNOzw8ufhxE&feature=youtube_gdata_player
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マウンテンのスタジオ録音は"Climing!"(『勝利への登頂』1970年3月発表)に収録されているが、ウエストから強い影響を受けたのがマイケル・シェンカーで、このスタジオ・テイクのソロの構成と美しい音色はウエストのベスト・プレイと言える。ソロの最後を一世一代のピッキングハーモニクスで決めるところなどたまらない。ウッドストックで翌日出演だが会場入りしていたジミ・ヘンドリクスが楽屋にやって来て、パパラルディにおれより上手いギタリスト見つけたな、とほめていったそうだが、ジミは若手ギタリストにはみんなそう言っていたようだから話半分としても、ザ・フーが『フーズ・ネクスト』1971を途中までレスリー・ウエストをリード・ギターに迎えたスタジオ・ライヴで制作していたのは音源も残っている。
マウンテンはブリティッシュ・ロックみたいに重厚な音を出すアメリカでは珍しいバンドで、プログレッシヴ・ロックハード・ロックをうまくブレンドさせた存在だったが商業的成功はいまいちだった。パパラルディは1983年に浮気が原因で奥さんに射殺された。マウンテンのアルバムのアートワークやオリジナル曲の作詞がこの奥さんだったので、まだまだメンバーは現役なのに全盛期マウンテンのロゴや曲は使いたくない、という気の毒なバンドでもある。

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Mountain-"Theme For An Imaginary Western"1970
https://www.youtube.com/watch?v=0l_x0xH9fLM&feature=youtube_gdata_player
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ジャック・ブルースはもともとジャズ出身で、ジンジャー・ベイカーもそうだからクリームというのは元ジャズマン二人がブルース・ロックのギタリストを迎えて大暴れしたバンドだった。クリーム最高の演奏は、解散記念アルバム『グッドバイ』収録の『アイム・ソー・グラッド』ライヴ・テイクだろう。三人全員同時進行でインプロヴィゼーションに突入し、10分間行きっぱなしの壮絶な演奏が堪能できる。
コロシアムはクリームの成功に刺激されてドラマーのジョン・ハイズマンが始めたバンドで、ベイカーやブルースとも元々親交があった。コロシアムはクリーム以上にジャズのフォームを残したままロックに発展させたスタイルで、発想としてはプログレッシヴ・ロックに近い。最初の二作ではインストルメンタル曲か、メンバーがヴォーカルを兼任していたが、1970年12月発表のサード・アルバム"Daughter of Time"では60年代半ばから実力派として知られたクリス・ファーロウを専任ヴォーカリストに迎えた。ハイズマンはジャック・ブルースのオリジナル・ヴァージョンのドラマーでもあるのだが、このコロシアム・ヴァージョンでのクリス・ファーロウの激唱はすごい。オリジナルのメロディがほとんど残っていない。LP時代ではB面冒頭というおいしい位置にあるのだが、この曲はコロシアムの最終ラインナップのメンバーでディック・ヘクトール=スミス(サックス)、デイヴ・グリーンスレイド(キーボード)、デイヴ・クレムソン(ギター)、マーク・クラーク(ベース)、そしてファーロウにハイズマンと、全員がリーダー級の超人集団がオレがオレがの自己主張をやっており、先に上げたクリームの爆走演奏と似たようなことになった。本来ならばじっくり聴かせるバラードなのだが、このウェスタンはマカロニ的に暑苦しい(欧米ではスパゲティ・ウェスタンと呼ぶそうだが)。

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Colosseum-"Theme For An Imaginary Western"1970
https://www.youtube.com/watch?v=SV05Zk1gNbI&feature=youtube_gdata_player
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最後はボーッと聴いていたらこの曲と気づかないようなヴァージョン。コロシアム解散後にキーボードのデイヴ・グリーンスレイドがヴォーカル/キーボードのデイヴ・ロウソンと組んだ、管楽器どころかギタリストもいないバンドでその名もグリーンスレイド、1974年8月発表のサード・アルバム"Spyglass Guest"の最終曲でカヴァーしている。デイヴ・ロウソンは良いオリジナル曲を書くしヴォーカルも味があるのだが、ファースト・アルバムとセカンド・アルバムで力を出し切ってしまったか、良いアルバムを発表したのに売り上げはいまいちだったからか、名曲のカヴァーでアルバムを締めるという弱気を見せてしまった。その上この曲はジャック・ブルースレスリー・ウエスト、クリス・ファーロウら喉の強いヴォーカルのイメージがついてしまっていて、軽みに良さがあるデイヴ・ロウソンには合わない。メロディは崩していないのにキーボード・サウンドの洪水に歌が埋もれてしまって、情けないウェスタンになった。こういうへなちょこヴァージョンもあるから面白い。以上、ジャック・ブルース追悼の意を込めて『想像されたウェスタンのテーマ』特集でした。

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Greenslade-"Theme For An Imaginary Western"1974
https://www.youtube.com/watch?v=capEN7MzQE8&feature=youtube_gdata_player