さて私たちは地下室の隠し通路から逃げることには決めたものの、細かい点では意見の相違が生じて足を取られることになりました。私たちが不在なのは必ずしも少女をかくまっていることにはならない、だから極力その痕跡は抹消しておくべきではないか。いや、私たちは逃げるのだから、これは迷い込んできた女の子をかくまっているとバレたも同然ではないか、それなら今さらその痕跡を隠蔽したところで仕方ないではないだろうか。
しかし見たろう、と私は言いました、この子は玄関先にもかなり多量の血痕を残していた、それはまだ嵐に洗い流されきってはいないはずだから、今われわれの家に押しかけて来ている連中はそれに気づかないわけはない、だから……。いや、と私は疑念を呈して、この子の体を拭いていても、何ら創傷らしきものは見当たらなかったのは私たち二人とも確認したはずだ、つまり血痕を認めたところで必ずしもそれをこの子と結びつける根拠はないだろう。何も今から諦めることはあるまい。
吹きすさぶ嵐の物音に混じって、なおも激しくドアを叩く音が廊下越しに響いてきました。私たちの家の廊下はよく響くのです。廊下は汚れていないか?いや、後回しだと思って注意していなかった。他の選択、つまりもっと簡単な選択もあるのには私たち二人とも気づいていました。少女だけを家のどこかに隠す、しかし徹底的に探されたら見つからない保証はないでしょう。または少女を介抱してはいたが、あっさり来訪者(たぶん複数人と思われる)の要求通りにする。それならどうだろう?
どちらも徒労に過ぎないのは目に見えています。明らかにこの少女が迷い込んできた背景には犯罪性が想像され、極端な話、この子が浴びていた血痕は彼女自身が他人に傷害を負わせた可能性すらある。しかしそれにはこの子は幼すぎる。少女の近親者、たとえば親兄弟が殺傷に近い被害に遭い、この子だけが逃げ延びてきた、と想像するのがおそらくいちばん自然で、もしそうなら少女をかくまってしまった私たちにはもう知らぬ存ぜぬで済ませる選択の余地はない、と思われるのです。
そうなると、結局私たちは私たち自身のためにも自衛しないわけにはいかない。逃走であれ迎撃であれ……しかしおそらくこの少女の奪還、またはとどめを刺すだけの決意を秘めてきた連中に私たちが勝てるとは思えません。そう考えると、いっそ恨みはこのいたいけな少女に向かうのでした。