ただぼくがひとつだけ心配なのは、としょくぱんまんは自信なさげに、これは今までのぼくたちとはあまりに変わりすぎていて……いや、見た目はこれまでのぼくたちと変わりはないわけですが、変わらないからこそ妙に思われて敬遠される、ということはないでしょうか。たとえばカレーパンマンに助けられた人は、当然いつものカレーパンを期待します。それはアンパンマンでもそうだし、ぼくが助けた相手は焼きたてのプレーンな食パンを期待するでしょう。もし最初からリキッドタイプの栄養食が望ましいなら、ぼくたちの存在意義だってなくなってしまいます。そうよそうよ、とドキンちゃん。そんなもんかねえ、とばいきんまん。ばいきんまんは悪さやアンパンマンたちの邪魔をするのがいわば公務ですので、アンパンチやトリプルパンチをくらってばいきんUFOごとばいきん城までぶっ飛ばされて帰ってくるのが日課ですから、アンパンマンたちの容姿や働きよりも正義の救援活動さえしてくれていればいいのです。または善良な市民や子どもたちの楽しみの邪魔をしているところにアンパンマンたちが駆けつけてくれば、来たな、お邪魔虫とばいきんメカで戦って負ける。なぜ無尽蔵の資源と最高の科学力を持っている自分がいつも負けてしまうのか、本来ならその根本の理由をばいきんまんも考えるべきでした。いや、これまでだってアンパンマンたちに何度もとどめを刺す機会はありましたし、事実上とどめを刺したことも一度や二度ではないのです。
根本の理由はアンパンマンたちがいくらでも再生産のきく複製品、不死の存在であることにもよりました。ジャムおじさんは人間ですから寿命もあり、また限界もありますが、世界各地の津々浦々にアンパンマンとジャムおじさんがいて、ジャムおじさんはもう何代にも渡って代替わりしているのです。ですから、ばいきんまんが狙うべきはジャムおじさんの遺伝子の根絶なのですが、アンパンマンの生まれてくることのない世界で、ばいきんまんは何をして生きていけばいいのでしょう?
私は考えたんだよ、とジャムおじさんはさり気なく話題を逸らして、私はこれまで味覚だけを追求してきた。ただし人は味覚だけで満足していけるものだろうか。どういうことですか、とバタコさんがサクラ代わりに訊きました。つまり味覚とはすべての感覚の本質でなければならぬ、ということだ。それには、性感以外に何があろうか?
第一章完。