人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(27)

 やれやれ、とジャムおじさんは言いました、これからは専用の巨大オーブンを用意しなければならないねえ。これだけの大きさの乳頭を焼くとなると、今までアンパンマンの顔を焼いてきたオーブンでは入りきらないよ。新しい顔を焼くだけでは駄目ということなんですよねえ、とバタコさん、じゃあどうやって新しいアンパンマンと入れ替えてあげたらいいんでしょうか?うむ、そもそも今やこれをアンパンマンと呼べるのかも疑問だが、とジャムおじさんアンパンマンの顔を投げるのは今までずっとバタコの役目だったしね。ばいきんまんの攻撃で使いものにならなくなったアンパンマンの様子を見たら、私の焼いた新しい乳頭をこれまで通り投げつければ良いのじゃないかね?そうすれば、古い乳頭から新しい乳頭がパワーを回復したアンパンマンになるに違いない……この乳頭をアンパンマンと呼べるとすればだが。
 そうジャムおじさんは言いながら、バタコさんやめいけんチーズと床に転がった人体大の乳頭を堪忍した様子で眺めました。チーズが不安そうにくくーん、と鳴きました。今朝のアンパンマンは遅いねえ、とジャムおじさんとバタコさんが首をひねっていた時、アンパンマンの部屋で何かがばたん、と倒れるような音を聴きつけたのがめいけんチーズで、チーズは何度も床に倒れる仕草をしてはアンパンマンの部屋を指してわわーん、と鳴いて異変を知らせたのです。バタコさんはパン生地をこねるための麺棒を持ったままチーズの先導でジャムおじさんアンパンマンの部屋に向かいましたが、ドアを開けたとたん床に転がった巨大な肉塊に、ぎゃッと麺棒を力まかせに投げつけました。痛ッ!と悲鳴を上げた肉塊に、ジャムおじさんは弾んで床に落ちた麺棒を手に取ると、バタコや、こうした方がいいよ、と棒を振り上げて何度も肉塊を打撲しました。苦痛の声が肉塊から上がり、どうやらこれはまったく無力のようだね、ところでアンパンマンは……そうジャムおじさんとバタコさんが顔を見合わせると、チーズがまだ苦痛に呻いている肉塊に近づいて、くくーん、と訴えかけました。チーズには犬の嗅覚と聴覚でわかるのです。チーズや、これがアンパンマンだというのかい?
 ぼくです、とアンパンマンはようやくのことで返答しました。不意打ちを食らってそれまでまともにしゃべれなかったのです。ぼくはどんな姿になってしまったのでしょうか?
 乳頭、それが答えでした。