人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(32)

 夜のアンパンマンに何があったのかって?とジャムおじさんは呵々大笑しながら答えました、そんなの私だってわからん。カレーパンマンはあまりの無責任さにあきれましたが、しょくぱんまんは素直というか、良くも悪くも白いだけあって順応主義的な面があるので、そうなんですか、とすんなり受け止めている様子でした。頼りにならないなこいつら、とカレーパンマンが落胆するのも当然なくらいパン工場の誰もがこの異常事態に直面して、あまりにのんびりした反応しか示していなかったのです。唯一事態の深刻さを真面目にとらえているのはめいけんチーズだけのようでした。問題は、カレーパンマンとチーズは仲は良いのですが、カレーパンマンのコミュニケーション能力の低さではチーズと正確な対話ができないことで、チーズの側に責任はなくカレーパンマンの頭が悪いからなのですが、各種スパイスのミックスで作られたカレーパンマンはいわば万年スパイス漬けの中毒症なので論理的な思考が苦手なのは仕方がないことでした。
 とりあえずおれたちはどうしたらいいんでしょうか、とカレーパンマンは訊きました、朝のパトロールだけでも済ませてきますか?うむ、そうだなあ、とジャムおじさん、今日はあいにくの悪天候でもある。しょくぱんまんしょくぱんまん号で他のふたりの受け持ち地域も回ってきてくれないか。カレーパンマンは私とバタコを手伝っておくれ。まあ順当だろうな、とカレーパンマンは思いました。
 しょくぱんまんは乳頭になったアンパンマンが気がかりでしたが、食パンの配達とパトロールも大事な仕事です。それにこんな巨大な乳頭は持ち上げるだけでも数人がかりでしょう。はい、としょくぱんまんジャムおじさんに答え、カレーパンマンとよろしく頼むよ、おお、とやりとりして出て行きました。しょくぱんまん号が快調なエンジン音をたてて走り去るまで、カレーパンマンジャムおじさんとバタコさんが黙っているので自分も黙って、さてどうするのかな、と考えていました。
 カレーパンマン、ちょっとそいつを持ち上げて立ててみてくれんかね?こうですか、とカレーパンマンは天地に気をつけて巨大乳頭を床から抱き上げました。
 するとすかさずカレーパンマンは輪にしたロープで乳頭に縛りつけられ、さらに厳重に縛り上げられると床に転がされました。やったあ、戦力分断!とジャムおじさんの変装を解いたばいきんまんが叫びました。