アンパンマンはどっこいしょ、とジャムおじさんとバタコさんに抱えられ、鏡台の前までひきずっていかれました。アンパンマンがぼくです、と答えた声は、アンパンマンが自分で思っているようには普通の声に響かず、野生動物のうなり声のようでしかありませんでしたが、状況からしてこの物体がアンパンマンの替わりに出現している以上これがアンパンマンの変化した姿だ、と受け入れるだけの柔軟さはジャムおじさんたちにもありました。
麺棒でぼこぼこにして外から鍵をかけ飢え死にするのを待つ、というのも手っ取り早い手段で、もっとグロテスクな、例えばゴキブリのような姿であればジャムおじさんたちですらそうしたかもしれず、むしろ積極的に殺虫剤を噴霧して閉じ込めたに違いありません。しかし実際にベッドから転げ落ちた痕跡があるこのかつてのアンパンマンと等身大のものは、あろうことか見事に勃起した乳頭そのものでした。脱力した状態ならばそれはもっと張りのないものだったかもしれません。ですがこの乳頭は散々の努力となんとか自力でベッドから転げ落ちた刺激に反応してすっかり硬く勃起しており、仮にこれがアンパンマンのなれの果てではなくてもジャムおじさんとバタコさんの興味をそそってやまないものでした。ただチーズだけが、めいけんの知覚でこれを変化したアンパンマンだと見抜いていたのです。
いったいこれは、見たり聞いたりする能力をもっているのかね?とジャムおじさんはひとりごちました。もしこれがアンパンマンのなれの果てならば、どちらかの一端が頭、もう一端が足にあたるのだろう。チーズや、わかるかい?めいけんチーズの嗅覚は人の数万倍ですから、粘膜の密度が発する匂いからこの辺が顔です、と判別してジャムおじさんに教えました。なるほど。これでは、自分がどうなってしまったのかは当然わかるまいな。そしてバタコや、おいで、とバタコさんを引き寄せると、乱暴かつ手慣れた様子で乳首を露出させ、勃起するまでつまみ上げました。バタコさんの乳首は長く、指の第2関節くらいあるのです。見えるか?そして鏡台の前にアンパンマンを抱え上げ、どうだい同じだろう。アンパンマン、きみは乳頭になってしまったのだぞ、と宣告しました。
アンパンマンはそこでようやく目覚めからの違和感の正体を知るとともに、乳頭になってしまったことの当惑よりも、乳頭として正義を貫く困難へと思いを馳せたのです。