人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Etron Fou Leloublan - 三狂人珍道中 Les Trois Fous perdegagnent (Au pays des…) (Tapioca, 1978)

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Etron Fou Leloublan - 三狂人珍道中 Les Trois Fous perdegagnent (Au pays des…) (Tapioca, 1978) Full Album : https://youtu.be/H7ZRHIi7rRY
Recorded At Studio Tangaraon 8 tracks in November 1977 at Studio Tangara, Toulouse.
Released; 9H 17 Productions, Tapioca 10020, 1978
Textes et musique par Etron Fou Leloublan.
(Face A)
A1. エレベーターがどんなに高く昇ったって、僕らは冷静な判断を失わない L'extravagante Montee Des Ascenseurs, Nous Resterons Fideles A Notre Calme Determination - 5:14
A2. 川とコート Le Fleuve Et Le Manteau - 7:29
A3. 妖精たちの国 衝撃の見聞録 Percutant Reportage Au Pays Des Fees - 0:31
A4. 新聞と眼鏡とパイプとベレー帽を探して(別名) / 13時58分あるいは主任医師に起こったちょっとした出来事の数々 / 君と踊りたい(アルトマンから着想) Recherche Pour Un Journal, Des Lunettes, Une Pipe Et Un Beret (Autres Titres) / 13 h 58, Ou Les Petites Aventures Du Medecin Chef / Je Veux Danser Avec Toi (Artman Inspiration) - 5:19
(Face B)
B1. 哀れな蛇「ピトゥ・ピトン」の悲惨な旅 Le Desastreux Voyage Du Piteux Python - 10:23
B2. P.O.I (内臓腐敗) P.O.I. (Pourissement Des Organes Interieurs) - 6:33
B3. ナヴ・ド・ビテンド Nave De Bilande - 2:26
[ Musiciens ]
Francis Grand - saxophones, guitar, flute, harmonica, melodica, vocaux
Ferdinand Richard - guitare basse ??lectrique, vocaux
Guigou "Samba Scout" Chenevier - batterie, percussion, vocaux
Michel Grezes - vocaux (comme Lewis Carroll rore)

 30秒足らずのSE曲を除けばAB面各2曲の大作ぞろいだったデビュー作に較べれば、A面4曲・B面3曲のこの第2作はまだ聴きやすいかと曲目を見れば、普通の曲だと思うと大まちがいだぞ、と聴く前から威嚇するような曲名が並ぶ。前回デビュー作『大道芸人稼業』1977を取り上げてエトロン・フー1973年~1985年の活動歴の概要は追った。デビュー作はティアックのカセット4chデッキ、第2作でもデモテープ制作がせいぜいの8トラック・デッキと、当時すでに公立高校の放送部でも普及していたような機材で自主制作された初期2作だが、これがヘンリー・カウらの目にとまりカウが主導するRIO国際的反体制ロック運動(RIO/Rock In Opposition)に参加して、ロンドンやミラノでの国際的デビューを経てアメリカ・ツアーが実現する。第3作はニューヨークのスクワット・クラブとコネチカット州立大学のコンサートでライヴ収録された『合衆国へ殴り込み!(ライヴ・イン・N.Y) En Public aux Etats-Unis d'Amerique』1979になった。サックスとギターのクリス・シャネはデビュー作発表前に脱退、第2作ではフランシス・グランがサックスを務める。シャネはバンド創立時からのメンバーでギターの比重も大きかったが(初期エトロン・フーはまだギター入りの曲作りをしていたということだろう)、グランと、グランの次にサックスを務めたベルナール・マシューは管楽器に徹しており、その分リシャールの6弦ベースはデビュー作以上に前面に出るようになった。
 エトロン・フーの双頭リーダーだったリシャールとシュヌヴィエは、後期メンバーだったティリオンともどもエトロン・フー解散後もバンドの音楽性を発展させたさまざまなプロジェクトで活動しているが、本国であるフランス語版ウィキペディアよりも英語版ウィキペディア、イタリア語版ウィキペディアのエトロン・フーの項目の方が詳細で長いのは、どうも国外での活動の方が高く評価されたことの反映らしい。もっともアトールなどもそうで、フランス語版より日本語版ウィキペディアの方が詳しい。ピュルサーあたりでようやく英仏同等の扱いになるが、日本語版には載っていない。マグマやゴング、アンジュあたりの大物こそ各国語版いずれも詳しいが、エトロン・フーは本国フランスでもアンダーグラウンド・シーンの存在なのだろう。メジャー・レーベルからのアルバム発売がない、というのは本国だからこそ、それだけでも相当な格差がつくらしい。ピュルサーの扱いが大きくアトールはアルバム・リストだけ、というのもピュルサーはメジャー、アトールはインディーズのバンドだったからだろう。

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 (Original Tapioca "Les Trois~" LP Face A Label)
 今回は具体的に収録曲全7曲の各曲の構成を聴きとってみた。これは楽理的なアナリーゼではなく(それには和声とリズム構造、旋法の解析が欠かせない)、大まかな曲想のスケッチでしかないが、エトロン・フーの場合はその段階でつまづくリスナーも多いと思われる。曲想の把握自体を拒むような音楽、ということは言えると思う。では始める。
〈A1. エレベーターがどんなに高く昇ったって、僕らは冷静な判断を失わない〉5:14
●バイクが疾走してくる音に野犬の鳴き声のSE、自動車の走行音近づく→●カットインでベースがシャッル系6/8拍子のトニック(基調)ワン・コードのオスティナート(リフ)、イコライジングされたソプラノサックスのシンセ風な全音符、テナーサックスのブロウが被さる→●2度下に転調、シンコペーションする3/4拍子、ワン・コードでテナー・ソロ→●さらにトニックから4度に転調、ワン・コード、7/8拍子でメロディカとのアンサンブル→冒頭の6/8拍子の基調に回帰、多重録音サックスに深いエフェクト→●演奏全体がフェイド・アウトしつつパーカッションだけオンでアドリブのコーダの連打
〈A2. 川とコート〉7:29
●前曲から曲間なしにSE的ピアノの内部奏法(一瞬)→●トニック5/4拍子のシンコペーション・オスティナート(テナーとベース)をバックにしたヴォーカル16小節→●5/4拍子1小節分ブレイク→●5/4拍子ヴォーカル・パート16小節→●5/4拍子1小節分ブレイク→●4/4拍子で2小節分4度のインスト・ブレイク→●5度に移調、比較的平易な3コード・4/4拍子のヴォーカル・パート(ユー・リアリー・ガット・ミー調オスティナート)→●全音符で3小節分ブレイク→●4/4拍子→●ブレイク~2/4拍子で2小節分トニックのヴォーカル・パート→●トニックのまま5/4拍子で2小節分のヴォーカル・パート→●2/4拍子(6/8拍子)のロッカ・バラード風コーダ
〈A3. 妖精たちの国 衝撃の見聞録〉0:31
●チャット→●ベースがフラット7thコードでドラムスと6/8拍子・8小節のアンサンブル
〈A4. 新聞と眼鏡とパイプとベレー帽を探して(別名) / 13時58分あるいは主任医師に起こったちょっとした出来事の数々 / 君と踊りたい(アルトマンから着想)〉5:19
●トニック~4度の往復を多重録音サックスがドローン→●4/4拍子と5/4拍子の多重録音がズレて、サウンドのモアレ効果が発生→●4/4拍子のトニックにまとまるとベースとドラムス入り、4/4拍子・4小節のオスティナートの上をベースのソロ、中盤以降クラッシュ・シンバル多用→●1小節サックス・ブレイク→●4/4拍子で4度・7度のサックス・オスティナート~7度のみのオスティナート→●6/8拍子・4小節のアコースティック・ギター・ブレイク→●チャット、フェイド・アウト

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 (Original Tapioca "Les Trois~" LP Liner Cover)
 以上A面でした。それにしても、これはスーパーのチラシの裏にとったメモから起こしているのだが、いったいどれだけの人がこれを読んでくださるのだろうか(5人くらいか?)、読んだとして音楽の参照にしてくださるだろうか(……)と思うが、B面3曲はA面よりは複雑骨折していないので、続けます。このくらいなら1回聴けば誰にでもわかるだろうか?わかってもエトロン・フーのコピーバンドでもやろうと思わないかぎり、まずメモにとるような人はいないだろう(実はフランスにはけっこういる)。
〈B1. 哀れな蛇「ピトゥ・ピトン」の悲惨な旅〉10:23
●5/4拍子(3/4拍子+2/4拍子)2小節を単位にしたトニック~7度の変則ブギ風サンバ→●中間部から3/8拍子+6/8拍子に変化→●ブレイク(ルバート)、絶叫ヴォーカル→●ルバートのままベースのトレモロ奏法をバックにヴォーカル→●イコライジングされたテナーのみをバックにヴォーカル→ブレイク→4/4拍子のマーチ
〈B2. P.O.I (内臓腐敗)〉6:33
●パーカッション(ガムラン風?)の6/8拍子(シンコペーション、ピチカート、シャッフルの3パターン)にトニックのオスティナート→●ベースがトニックでアルペジオ、4/4拍子でヴォーカルとテナーサックス入る→●4/4拍子のベース・オスティナートでサックス・ソロ(ストップ・タイム入る)→●10/4拍子(3/4拍子+3/4拍子+4/4拍子に分割)のアンサンブル
〈B3. ナヴ・ド・ビテンド〉2:26
●鳴き声→●フリージャズ系テナーブロウ→●ブレイク~ホウィッスル~ブレイク→●リコーダーによるトニックのソロ、6/8拍子のマーチ風スネア・ロール→●そのままテナーサックス・ソロ、ドラムスはフルセットのドラミングに変化→●ブレイク~短いチャット

 ……と、B面もしゃべりで終わった。エトロン・フーのヴォーカルはメロディらしいメロディのない、ブルースでいうトーキング・スタイルのもので、これはアメリカのブルースからの拝借ではなくてもともとフランスの演劇的なシャンソンにも共通する特徴だろう。エトロン・フーの場合も凝った曲名からして相当ひねくれた歌詞を歌って(がなって、という感じだが)いるのだろうが、フランス語学習者ではない筆者のようなリスナーにはタイトルを連呼している部分くらいしかわからない。ただ、メモをとってみて意外と和声進行はシンプルで、I度→IV度→V度→I度の単純な3コード(いわゆるAmen終止)、またはV度で転調感を出す代わりにVII度、ジャズで多用されるII→V(Two-Fiveと呼ばれる)、これくらいしか使われていない。エルヴィスと大差ないのだ。もっともエトロン・フーの場合は、変拍子を優先するあまり他の音楽要素をシンプルにしている、とも思える。これでコード進行やメロディまで複雑では……いや、バート・バカラックなど複雑奇妙なコード進行や美メロに転調と変拍子を両立させたポップスではないか、と言えばそれまでだが。
 またエトロン・フーに限らず白人の変拍子音楽全般に言われることだが、ブルース系の黒人音楽(ブルース、ジャズ、ファンク)の変拍子は複数楽器が異なる拍子を同時演奏することでグルーヴするポリリズム(複合リズム)を生み出すのに対し、白人音楽の変拍子は偶数拍子や奇数拍子の順列加算であり、発想は困難な拍子のユニゾン演奏というトリッキーな効果にとどまる(バカラックのポップスもそれに該当する)。チャールズ・アイヴズ、ジョン・ケージら反アカデミズムの音楽家の系譜にわずかに黒人音楽とは異なるポリリズムの発想が見られる程度になる。変拍子は近代音楽の人工的な発想からでは技法にとどまり、世界各地で見られる伝承音楽(ブルースもその一種)くらい自然発生的なものでないと生命力を持たないようで、アイヴスやケージは虚構のアメリカ土着音楽という発想からユニークな成功例を作り出した。ヘンリー・カウらRIO一派のジャズ/現代音楽etcの変拍子ミクスチャー・ロックは、音楽の発想の水準ではデイヴ・ブルーベックやドン・エリス、フランク・ザッパ、ブレッカー・ブラザースらの劣化コピーでしかない観がある。もちろんバンド各自の持ち味には手法以外の楽しみがあるのも認めた上でだが、RIO一派の変拍子ジャズ・ロックはむしろグルーヴ感を意図的に禁じ手にしているようにも見える。同時代の白人バンドでもイタリアのアレアやアルティ・エ・メスティエリのジャズ・ロックなんかすごいが、RIO一派はアレアやアルティにはあった高揚感もグルーヴ感とともに排除したことになる。