人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(31)

 第四章。
 わかりました、としょくぱんまんはあまりの話に腕組みをしそうになりましたが、スマートなぼくには似つかわしくないな、と思い額に手を当てました。少しうつむき加減のそのポーズは山型パンの輪郭にばっちりきまっていたので、こいつこんな時にでも格好つけだけは忘れやしないんだな、とカレーパンマンのしゃくに障るのに十分でした。きっと家でも全身鏡が置いてあって、その前で決めポーズの研究とかしていやがるに違いない。
 というのは、いつぞや自分たちも3人組で登場ポーズと決め口上をそろえるトレーニングをしよう、としょくぱんまんが言い出したことがあったからです。カレーパンマンは何で今さら、だってアンパンマンには「元気100倍、アンパンマン!」がもうあるし、カレーパンマンには「辛さ100倍、カレーパンマン!」がある。ちなみにジャムおじさんのパン生地をこねる呪文は「美味しくな~れ……美味しくな~れ……」だ。そうか、食パンのやつには決め台詞がないんだ、そんなの自分で勝手に決めればいいじゃないか、と思うのですが、食パンが言うには立ち位置を決めてひとりますま決めポーズと名乗りを上げる、それから3人で組み合わせたポーズを決めて全員で声をそろえる。シルエットだけでも芸術的に美しくなければならない、たとえば?中央のひとりが片膝を着いて片腕を突き出し、向かって右側が左腕を斜めに上げたポーズで右手を中央の肩にかけ、向かって左側は多少アシンメトリーにからだ全体を外側にのけぞらせるようなポーズで、イメージとしては3人組で翼型のポーズになるような感じで……。それで?イメージカラーに基づいた名乗りを決めます。どんなだよ?……赤いハートはあんこの印し、甘さたっぷりアンパンマン!とか、白いマントは正義の証し、さわやかハンサムしょくぱんまん!とか……。おれは?……黄色いスーツはウコンの香り、スパイスどっさりカレーパンマン!なんてどうでしょう?カレーパンマンはよほどこの食パンには虫が湧いてるぞと違反報告してやろうかと思いましたが、こいつはもともとこういうやつなんだ、と大人の態度で、そんなことよりパトロールの時間だぞ、あっそうですねえ、とその話題はそれきりでした。
 そんなことよりジャムおじさんにはなぜこんなことになったのか、わかっているのだろうか?どうもそうではなさそうだ。ならば夜のアンパンマンに何が起こったんだろうか?