人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(52)

 ばいきんまんはばいきん城の作戦会議室、または居間とも食事室とも言えますが、とにかく部屋の壁一面に広がるモニターの前であまりの事態に唸っていました。何にしろ、これからパン工場に乗り込まなければならんぞ、とばいきんまんは身構えましたが、具体的な作戦は浮かびません。手近にいるのはホラーマンだが、こいつは攻守ともにさっぱり当てにならん。だいたいどちらの味方かもはっきりしない。困っている側の方と一緒に困るのがホラーマンの流儀でした。そして、一緒に困ってくれるからといって何かの役にたつわけでもなく、ホラーマンの分までお荷物が増えるというだけのことなのです。ホラーマンが何を考えて生きているのかと、ばいきんまんはときどき考えることがありました。その結論は、心が、叫びたがっているんだ、ということです。
 ホラホラホラー、おはようごさいますホラー、とその無意味がやって来ましたが、待ちなさいよホラーマン、とドキンちゃんが追ってきたのはばいきんまんには好都合か、さもなくば不幸の前触れでした。ドキンちゃんに限っては、あらゆることがただで済む問題ではないのです。どうしたのドキンちゃん、とばいきんまん。ダイエットゼリーよ、とドキンちゃん、見当たらないのよ、心当たりはホラーマンしかないの、受け取ったのはホラーマンで、ホラーマンしか注文したダイエットゼリーが届いたのは知らないはずなんだから。
 あれがダイエットゼリーだったのか、とばいきんまんは背筋が凍りました。というのは、実験室の冷蔵庫にそんなものが冷やしてあり、オレさまこんなところにおやつを隠してあったっけかな、実験室の冷蔵庫に触れるのはオレさまだけなんだから、きっと仕事中に手っ取り早く手に届くように、台所じゃなくこっちで冷やしておいたんだろう。ばいきんまんはゼリーが好物というわけではなく、決して大食漢でもありませんが、その場にあるものを食べ尽くすまで食べるのが本性なのです。特に発明に没頭中の夜ノバイキンマンの場合は食事などと生ぬるいものではなく、それは侵食とでも呼びようのないすさまじい食い気でした。
 ド、ドキンちゃんおはよう、とぎこちなくばいきんまんはあいさつすると、ンー!?とあからさまに不機嫌な様子のドキンちゃんに、ばいきんまんはどうやってパン工場の異変を相談しようかと混乱のあまりクルクルパーになりましたが、ダイエットゼリーの件よりはマシです。