人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Lennie Tristano - New York Improvisations/Manhattan Studio (Elektra, 1983/Jazz Records, 1996)

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Lennie Tristano - New York Improvisations (Elektra/Musician, 1983)/Manhattan Studio (Jazz Records, 1996) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PL0bpETmJ32vDbCczow-bqri2eyL1LoepX
Recorded 1955-1956, at East 32nd Street, New York, N.Y., Lennie Tristano
's Manhattan Studio
1. Manhattan Studio (L.Tristano) : https://youtu.be/YzzdXImZtYw - 3:40
2. My Melancholy Baby (Burnett-Norton) : https://youtu.be/4jSVW6XoED4 - 6:30
3. Lover Man (Davis-Ramirez-Sherman) : https://youtu.be/Ow_zM94OIbw - 3:42
4. I'll See You In My Dreams (Jones-Kahn) : https://youtu.be/ocBzfBTfHNM - 3:06
5. There Will Never Be Another You (Gordon-Warren) : https://youtu.be/-xyYqBefFaM - 3:45
6. Momentum (L.Tristano) : https://youtu.be/RXpoaKElklY - 6:37
7. Mean To Me (Ahlert-Turk) : https://youtu.be/BR9oskr3wMQ - 4:54
8. All The Things You Are (Hammerstein-Kern) : https://youtu.be/a4505JfvXX8 - 6:31
9. I'll Remember April (DePaul-Johnston-Raye) : https://youtu.be/ZJtqMgocuO0 - 3:29
[ Personnel ]
Lennie Tristano - piano
Peter Ind - bass
Tom Weyburn - drums
*
Lennie Tristano - Note To Note (Jazz Records, 1994)
1. It's Personal : https://youtu.be/irEUoM1jNmQ - 7:51
Recorded at New York, around 1965
Lennie Tristano - piano
Sonny Dallas - bass
Carol Tristano - drums (overdubbed)
*
All compositions by Lennie Tristano except as indicated.

 レニー・トリスターノ(1919~1978)がなかなか全体像が見えないジャズ・ピアニストなのはこういう録音があるからでもある。前回も触れたが、トリスターノの楽歴の前半生はSP(シングル)レコード時代だったので、LPレコード時代になって生前にみずから発表したフルアルバムは3枚、『Lennie Tristano』Atlantic,1956(rec.1954-1955)、『The New Tristano』Atlantic, 1962(rec.1961)、『Descent into the Maelstrom』East Wind, 1977(rec.1951-1966)で、このうち『Descent into the Maelstrom』は未発表曲集だから新録音としてアルバム発表したのはアトランティックからの2枚しかない。1945年に始まるプロ・ミュージシャンとしてのキャリアでこの3枚しかアルバムを出さなかった(SPレコード時代の録音は後からLPレコード、また現在はCDでアルバム化されたが)。
 また、トリスターノがモダン・ジャズ史上の巨匠という評価は1950年までのSPレコード時代にすでに確立しており、1946年~1949年のソロ、トリオ、カルテット、クインテットセクステット録音は白人ジャズマンで唯一当時の黒人ビ・バップに対抗しうる爆発的創造力を示し、この時期のトリスターノの業績が直接・間接的にその後の白人ジャズマン全体に切り開いた方法は、ビ・バップでチャーリー・パーカーが黒人・白人問わず圧倒的な影響力を誇った業績に見事に斬り込んでいる。
  (Jazz Records "Manhattan Studio" CD Front Cover)

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 仮にトリスターノが上記3アルバムを発表しなくてもSP時代の録音だけですでに革新的な仕事は成し遂げていた。早逝していたら伝説化は肥大していたかもしれない。だがトリスターノは反商業主義から活動を縮小し、極端な寡作ジャズマンになり、晩年10年間(最後のライヴは1968年だった)は人前での演奏活動もせず未発表録音の整理と個人指導の音楽教室運営に専心し、最晩年まで熱心なリスナーからカムバックを期待する声にも応えず世を去った。
 トリスターノのキャリアは、まるで自分から陰棲したような晩年だったし、実際インタビューには応じてもそれをきっかけにライヴ活動や新録音を再開する、ということはなかった。ところが、トリスターノが逝去するとトリスターノ自身によって編集された未発表アルバムが次々と発見された。年代順に並べると、
・Live at Birdland 1949 (Jazz Records JR1-CD)
Lennie Tristano Sextet : Wow (rec.50, Jazz Records JR9-CD)
・Live in Tronto 1952 (Jazz Records JR5-CD)
・The Lennie Tristano Quartet (rec.55, Atlantic SD2-7006)
・Manhattan Studio (rec.1955-1956, Jazz Records JR1-CD)
・Continuity (rec.58&64, Jazz Records JR6-CD)
・Note To Note (rec.65, Jazz Records JR10-CD)
・Concert in Copenhagen (rec.65, Jazz Records JR12-CD)
・Betty Scott Sings With Lennie Tristano (rec.65,71&74, Jazz Records JR13-CD)

 年代に偏りがあり、集中的に録音を残している時期と空白期があるのはトリスターノの特徴かもしれない。それでは商業ベースの音楽活動はできないだろう。これだけの録音を適度な間隔を置いて出していたら寡作ながら生前に全体像が少しずつ見えてきていただろうし、SPレコード時代・1950年以降のトリスターノの音楽の変遷も十分とまではいかないまでもたどることができただろうが、上記の「Jazz Records」はトリスターノの遺族と門下生の運営しているインディーズで、アルバムを廃盤にしないのはいいが再プレスが15年周期という会社でもあり、直販ならともかく通販サイトでも入手に苦労する。大手通販サイトは初回入荷分が完売するとこんなマイナー・インディーズには追加発注をかけないからだ。トリスターノ音源はまだまだ埋もれていて、昨2014年にも、
・Chicago April 1951 (Uptown Records UPCD27.78/27.79)
 が発売されて話題を呼んだ。音質最上、2CDで105分、当然完全新発見で、遺族や門下生らJazz Records関係者の名前がSpecial Thanksに上げてあるからJazz Recordsはこれに関してはUptown Records(40~50年代のジャズ未発表音源発掘レーベルとしてこれまでもとんでもない実績がある)に譲ったのだろう。アトランティックからの2枚のアルバムよりトリスターノ音楽の精髄はこちらの方にある。Uptown RecordsのCDなら大手通販サイトも常備しているだろうから、お薦めできる。
 (Jazz Records "Note To Note" CD Front Cover)

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 没後、トリスターノが筐底に秘めていた音源のうち55年のカルテットは『Lennie Tristano』収録ライヴの完全版で、マスター・テイクを選んだものだったからすんなりアトランティックから発売された。また55年~56年のピアノ・トリオはアトランティックの系列レーベルのエレクトラが『New York Improvisations』として発売し、後にジャズ・レコーズから『Manhattan Studio』として発売される。トリスターノは音楽教室のためにスタジオを持っていた。この平易なピアノ・トリオなど、生前のうちに発売されていたらどれほど評価され、トリスターノの名を広めただろうか。
 一方『Note To Note』はピアノとベースだけのデュオ録音が残されており、リリースするならドラムスをオーヴァーダビングすること、と添え書きされていた。1993年にようやくトリスターノ令嬢キャロルがドラムスの追加録音を完了し発売されたが、このアルバムはトリスターノがこれまでにないコンセプトでスタンダードの解釈に向かった、謎めいたアルバムだった。1曲引いたが、これはスタンダード曲「Out of Nowhere」から、コード進行ともリズム・パターンともテーマのメロディ音形とも特定できない楽曲の構成要素を自由に出入りしながらインプロヴァイズしている。アルバム全曲にその手法が使われており、これも生前発表されたらトリスターノ再評価の声が必至だったろう。だがトリスターノは生前に発表することを望まなかったのだった。