人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(56)

 だいたいこの部屋なのだが、とばいきんまんは言いました、ベッドしかないこと自体が不自然だが、一応窓はありカーテンはかかっているから寝室の体裁ではあるのだが……。はっきり言いなさいよ、どこがおかしいのよ!?とドキンちゃんは急かしました、まだるっこしい説明じゃわかんないわよ!?では言うが、とばいきんまんは前置きを言いかけ、慌てて言葉を継ぎました。こんな寝室はないのだ。はあ!?とドキンちゃん、何言ってるのばいきんまん、だってベッドがあるじゃない!?
 そこが虐待を臭わせるのだ、よく見てドキンちゃん、この部屋は四角い3畳間だろう。畳なんてないじゃない!?そうじゃなくて大きさが3畳間の、正方形の部屋だろう、普通3畳間の広さにベッドは入らないのだ。でもベッドがあるじゃない!?そうなのだ、シングルベッドでさえも3畳間に置くには……と、ばいきんまんはモニターを真上に切り替えました。通常真上からモニターする必要はないので、この件を詳細調査するためにばいきんまんはハエ型飛行カメラ端末を特別にあつらえていたのです。観てごらんドキンちゃん
 あらかじめわかっていた通り、部屋は正方形でした。そしてベッドは3畳間の広さぎりぎりに、部屋の対角線に置かれていました。ベッドの左右にできた三角形の片側が窓、片側がドアのある空間でした。空間といっても大半ベッドが対角線に占めていますから、床などろくに物が置けないのがわかります。
 もともとこれは寝室なのではないのだ、とばいきんまん、たぶんロッカールームといったところだろう。それが証拠に無駄に北向きの窓があるのは、換気だけできればいい窓だからだ。こんな部屋に、しかも頭を窓側にしてもドア側にしても落ちつかない対角線置きのベッドで寝起きさせられて、アンパンマンは大事にされていると言えるだろうか。というより、自分の待遇に疑問を持たない奴には常識的な人権意識もなく、そんな野郎が正義を振りかざしてまかり通っているのは何かが腐敗し始めているのではなかろうか。世界の誰もがこんな部屋で寝起きしてもいいと言うのだろうか。
 ですが実際、世界の部屋がみんな北向きで、じめじめしているのを望んでいるのはばいきんまんの方でした。だからこそアンパンマンパン工場で非常識な待遇を受けていることがよけい気に障るのです。家畜以下の扱いでも当然、という相手には、いったいどうやって接すればいいのか?