続きだ、とばいきんまんは言いました。たぶんこの古文書に謎の鍵があるのだ。
ムーミン谷にレストランが出来たそうだよ、とムーミンパパが新聞から顔を上げると、言いました。今朝のムーミン家の居間には、
・今ここにいる人
・ここにいない人
が共に集まっています。それ程広くもない居間に全員収まるのは、ムーミン谷の住民は人ではなくトロールで融通が利くからです。
そうだ、我が家は食事のふりはずっとして来たが、それは家庭的雰囲気の演出の為であり実際に食事をした事はない。そうだねママ?
そうですよ、とママはおっとりと答えます。
私がパイプを燻らせ安楽椅子で新聞を読むのもそうだ。魁新報ムーミン谷版は半年に一度しか出ない。半年に一度の紙面を年中読むのを新聞と呼べるだろうか。ムーミン谷にはタウン誌という物もないのだ。
ねえパパ、それで新聞にレストランが出来たって載ってたの?と偽ムーミンが無邪気を装って尋ねます。その頃ムーミンは全身を拘束され地下の穴蔵に幽閉されていました。
かなり冷え込み、また拘束のストレスもあり恒温動物なら苦しむ環境ですが、トロールなのでただ動けないだけです。容貌は瓜二つなので、なにか弱みを握るたび偽ムーミンはムーミンを脅して入れ違い遊びを強要しましたが、弱みを握られる側にも落ち度があると考え屈服してしまう卑屈さがムーミンにはありました。
ねえレストラン行くの?と再び偽ムーミン。よく見ると頭部の旋毛の部分からアホ毛が三本生えている事でも偽物だと気づく筈ですが、ムーミン谷の人々は細かい事は気にしません。
そこだよ問題は、とムーミンパパ。レストランに行くには予め幾つかの条件がある。まず正当な連れがいる事、これは問題はない。ムーミン一家だからな。正当な連れ?おかしな組み合わせでレストランに行くと変だという事だよ。例えばママがスナフキンとミイの三人でレストランに行ったらミイをアリバイにした不倫のように見えるだろう?
あなた止めてくださいよ、とムーミンママがおっとりたしなめます。
なら簡単に言おう。ムーミン、きみはお腹が空いたことがあるか?
うん。そうか。でも一家で食卓につくともう空腹ではなくなるだろ?私たちムーミントロールは食事のふりをするだけでいいのだ。だがレストランでは実際に料理を食べなければならないのだぞ。
全然わかんないわよ!?とドキンちゃん、これがいったい何だっていうの!?