第3章。
ウサギが素早く生け垣の下のウサギ穴に飛び込むのをぎりぎり見とどけたアリスは、一瞬の躊躇もせずに自分も穴に飛び込んだのでした。もちろん後先考えず、出る時はどうするのかも考えずにです。
ウサギ穴はしばらくのうちはトンネルのように真横に延びていましたが、突然真下になりました。本当に突然だったのでアリスは迷う暇もなく、ものすごく深い井戸のような穴に落ちていたのです。
井戸がとほうもなく深いのか、落ちる速度がよほど遅いのか、そのどちらかのようでした。というのは、アリスは落ちながら周りを見渡したり、これから私どうなるのなどと考える余裕があったからで、まっ先に落ちていく先を見てみましたがまっ暗で何も見えません。それではと周りの壁をじっくり見ると食器棚や本棚が並んでいるのが見えました。それにあちこちに地図や絵が釘から吊してありました。アリスは壺をひとつ手に取ってみましたが、オレンジ・マーマレードとラベルにあるのに中身は空っぽでがっかりしました。ですが壺を落として穴の底にいる人の頭に当たって死んでしまったらえらいことになるので、落ちながら別の棚にちゃんと戻しておきました。
こんなに深い穴に落ちたんだもの、とアリスは考えました、これからは階段くらい転げ落ちたって大したことないわ!家じゅうのみんなから強い子ちゃんて褒められるわ。屋根の上から落ちたって文句は言わせないわよ!
そりゃそうでしょうね、とドジソン先生、下へ、下へ、さらに下へ。いつまで落ちていくんでしょうか?
私どのくらい落ちたのかしら、とアリスは声に出して言いました、たぶん地球の中心に届くくらいだわ。てえことは、とアリス、学校の授業で習ったのは400マイル、メートル法なら1600キロメートル、と誰も聞いていないのに声に出すまでもありませんが、ちょっとした練習のようなものです。そう、だいたいそのくらいの距離になるはずよ。でもここは、緯度とか経度とかはどうなっているのかなあ(もちろんアリスには緯度も経度もちんぷんかんぷんですが、とドジソン先生、アリスは難しいことばを使いたい年ごろなのです)。
このまま落ちていったら、地球の裏側に出ちゃうのかしら、とまたアリスはつぶやきました。そしたら頭が下向きの人たちの中から飛び出しちゃうんだわ、地球の対極圏で良かったんだっけ?(誰も聞いていなくて良かったわ、対極圏なんて何か変だもの)。