Recorded at El Saturn studio, Chicago, March 6, 1959
Released by El Saturn Records LP5786, May 1959
All tracks written by Sun Ra, except where noted
Side A: (originally Side B)
A1. Enlightenment (Hobart Dotson, Ra) - 5:02
A2. Saturn - 3:37
A3. Velvet - 3:18
A4. Ancient Aiethopia - 9:04
Side B: (originally Side A)
B1. Hours After (Ra, Everett Turner) - 3:41
B2. Horoscope - 3:43
B3. Images - 3:48
B4. Blues at Midnight - 11:56
[ Sun Ra and His Arkestra]
Sun Ra - Piano, celeste, gong
Hobart Dotson - Trumpet
Marshall Allen - Alto sax, flute
James Spaulding - Alto sax, flute, percussion
John Gilmore - Tenor sax, percussion
Bo Bailey - Trombone
Pat Patrick - Baritone sax, flute, percussion
Charles Davis - Baritone sax, percussion
Ronnie Boykins - Bass
William Cochran - Drums
こんなアルバムもサン・ラにはある。内容はちゃんとサン・ラの音楽なのだが、サン・ラのパブリック・イメージとは微妙にずれている。アーティスト名を知らされず、また50年代のサン・ラのアルバムを聴いたこともないリスナーが、ブルー・ノート50年代末に未発表作になっていた幻の中規模ビッグバンドの名盤、と言われて聴かされたら信じてしまうのではないだろうか。ブルー・ノートにはソニー・クラーク『Cool Struttin'』1958、ドナルド・バード『Fuego』1959、ウォルター・デイヴィスJr.『Davis' Cup』1959、ケニー・ドリュー『Undercurrent』1960、デューク・ジョーダン『Flight To Jordan』1960などやたらとキャッチーなハード・バップ作品の系列があり、上記アルバムおよびアーティストは日本やヨーロッパのリスナーに発表当時から熱愛されてきたが、アメリカ本国ではビ・バップの低俗化として酷評され、セールスも振るわなかったものだ。
諸外国での好評から再評価が進んで、現在はこれらのアルバム(とアーティスト)はアメリカ本国でも愛好されているが、要するにブルー・ノートのハード・バップ作品は敷居の低いわかりやすさが売りだった。編成は2ホーン+ピアノ・トリオの標準クインテット(前記アルバムもすべてクインテット・アルバム)、楽曲もオリジナル主義でキャッチーなのがブルー・ノートの制作方針だったのだが、その方針が当時の本国では通好みの批評家とリスナーの反感を買った。ところでサン・ラは1956年~1960年までにアルバム12枚分の録音があるが、50年代のうちに発売されたのはそのうち3枚だけだった。短命インディーズ・レーベルのトランジションからの『Jazz by Sun Ra(Sun Song)』1956、サン・ラのマネジメント自身の自主レーベル・サターンからの『Super-Sonic Jazz』1957、そしてこの『Jazz in Silhouette』1959で、次に発売されるサン・ラのアルバムはニューヨークに進出して老舗レーベルのサヴォイに録音した『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1961になる。50年代の未発表アルバムがサターンから次々発売されるのは1965年以降になったので、発表作品からだけだとサン・ラのオリジナリティはいまひとつ明確ではなかった。
(Original Transition "Jazz by Sun Ra" LP Front Cover)
初回プレスと再発盤以降ではA面とB面を逆転して収録され、CDでも改訂されたA面・B面の順に収録されている。これはかなりアルバムの印象を変えるもので、各面の完結感が強いために「Enlightenment」から始まり「Ancient Aiethopia」で終わるA面から聴くか、「Hours After」から始まり「Blues at Midnight」で終わるB面から聴くかでアルバム全体の構成まで変わってしまう。簡単に言うとA面はビッグバンド・サイド、B面はブルース・サイドで、各面ラストに10分前後の大作を持ってきているためなおのこと完結感が強い。1959年の初回プレスでは逆でA面がブルース・サイド、B面がビッグバンド・サイドだったことになる。
(Reissued Impulse! "Jazz in Silhouette" LP Front Cover)
また、「Ancient Aiethopia」はサターンで制作された未発表アルバム『Nubians of Plutonia』では「Aiethopia」として収録されている。録音年月日不明だがアレンジの完成度から察するに「Aiethopia」が先行する、おそらく初演だろう。『Jazz in Silhouette』に先立つアルバムからですらこれだけ重複・錯綜しているし、さらに『Jazz in Silhouette』録音と同日にはさらに『Jazz in Silhouette』とダブらない5曲が録音され、ミニアルバム程度の収録時間なので「Enlightenment」の同一ヴァージョンが使い回されている。また「Velvet」はニューヨーク進出直前の1960年6月に再録音され『We Travel the Space Ways』に再収録されるが、これだけ他のアルバムとダブる選曲だけあって『Jazz in Silhouette』の出来はすこぶる良い。改訂版A面の4曲は名曲ぞろいだし、改訂版B面のブルース・サイドも好調で、冒頭で触れたとおりニューヨークのブルー・ノートやリヴァーサイドら丁寧な制作に定評あるインディーズからのアルバムとして出れば、セールスはともかくちょっと毛色の違ったハード・バップ・アルバムとして一般的な名盤ガイドにも紹介される秀作として迎えられただろう。
(Reissued Impulse! "Jazz in Silhouette" LP Liner Cover)
ただしニューヨークを本拠地にしたモンク、ミンガス、ホレス・シルヴァーらほど注目を集められなかったのは、アーケストラの活動があくまでもシカゴのジャズ・シーンに縄張りを限定していたからなのは確かなことで、シカゴのレギュラー・バンドなら10人編成のバンドを維持できたが激戦区ニューヨークでは10人編成の中規模ビッグバンドの運営は困難であり、それがサン・ラのニューヨーク進出を遅らせたのは間違いない。シカゴ在住のままでもニューヨークのレーベルからアルバム発売がされれば全国的注目を集められる可能性はあったが、当時はニューヨークでもロサンゼルスでも第一線級ジャズマンが供給過剰なほど溢れていた。アーケストラのジョン・ギルモアにはクリフォード・ジョーダンとの2テナー・アルバムがブルー・ノートにあり(1957年)、やはりアーケストラのアルト奏者ジェームス・スポールディングは60年代のフレディ・ハバード(トランペット)のブルー・ノート作品の常連になる。アーケストラのメンバーは全米第3の大都市シカゴでも生え抜きの凄腕が揃っていた。12分の長丁場があっという間の「Blues at Midnight」などあまりに見事なソロの応酬に笑ってしまうが、何しろトランペット、トロンボーン、5サックス(アルト、テナー、バリトン随時持ち替えでフルート、パーカッション兼任)と管だけで7人もいる上、ベースとドラムスもソロの取れる腕前で、その上サン・ラがエレクトリック・ピアノをチェレスタ風の音色で弾く。『Jazz in Silhouette』はすこぶる出来は良いが、サン・ラとしてはもっともハード・バップに近づいたアルバムだから次に他の代表作を聴くと落差に愕然とするかもしれないし、ジャズは何よりハード・バップという人が聴くと濃厚すぎてすっきりしない。もしブルー・ノートで制作されたとしてもやはり幻の未発表アルバムになっていたかもしれないと思うと、ここまで歩み寄ってもサン・ラのジャズはまだまだニューヨークのジャズとは相容れないものだったということになる。