また飛行機が飛んでいるな。今、空は何色に染まっているんだい?朝焼け色?夕焼け色?それとも墨でも流したような灰色?
夕焼け色かな、とサルは答えました。たっぷりダイオキシンや副生成物を含んでいそうだよ。テトラクロロソジベンゾ……。
エージェント・オレンジ、とカッパが歌うようにつぶやきました、エージェント・ブルー、エージェント・ホワイト。まるで詩の文句みたいじゃないか。空が朝焼けのように染まり、夕焼けのように燃え、雷雨の前触れのように曇る。だがそれは自然現象ではない。
何のために?とイヌ。何のために?とサル、昔は戦争の本質は領土拡張と支配と略奪だった。早い話が強盗さ。奪うため、儲けるためにするのが戦争だったのだから、戦うのも死ぬのも軍人だけで良かったはずなんだ。民間人を殺傷してしまうのは玉子を生む鶏の首を絞めるのと同じことで、最良の手段は恐怖と圧政で支配して一定の租税や物資を搾取することだった。だから殺してしまうのは無意味だった。
軍人の他は?
軍人の他は。もっとも抵抗勢力が出てきたら民間人でも危険だから、これは武力で鎮圧する必要がある。ただし、だ……。
空はオレンジ、赤、そして黒く染まり、それら色鮮やかな煙を散布する飛行機が旋回していました。いつまで続けるのだろう?
いつまで続けるのだろう、こんなの一文の得にもならないはずじゃないか。かえって持ち出しになっているんじゃないか?
得とか損ではないんだろう、とカッパ、意地とかメンツとか、そういうものを賭けて戦っている時が一番始末が悪いんだ。
損得ではなく優劣だね、とサル、そうなるとどちらかが音をあげるまで泥仕合は続くことになる。ほら、また枯れ葉剤が来たぞ。
3匹はガスマスクをつけ直すと、野営戦のために根城にしている洞穴の中に逃げ込みました。洞穴の奥にはうまい具合に光りの差し込む縦穴があり、さらに小さく澄んだ湧き水もあって、携帯用の兵糧とこの水があればなんとか餓えずに済みました。
とにかくこれはそういう種類の戦争なんだ、とサル。戦いが続く限りこの状況は続く。おれたちは味方からも敵からも殺される……おれたちを殺しにくる味方を味方と呼べるなら。だがおれたちは殺さないで、殺しにくる奴らから隠れ通し、逃げおおすだけだ。
上手くいくかな、と不安げにイヌ。まあ駄目になったら死ぬだけだしさ、とカッパは鼻歌を歌いながら飯盒を火にかけました。