Still Life - Still Life (Vertigo, 1971) Full Album : https://youtu.be/DoXZx2Ta6kU
Recorded at Nova Sound Recording Studios, near Marble Arch, London on the following dates: 1, 2, 5, 6 and 13 October 1970. Mixed on 26 October.
Released by Vertigo Records Vertigo 6360 026, 1971
(Side A)
A1. People in Black (Howells) : https://youtu.be/f_B4dIxJMeI - 8:19
A2. Don't Go (Howells, Cure) : https://youtu.be/LyP9NvbHM2Y - 4:35
A3. October Witches (Howells) - : https://youtu.be/nPkMflfxyEU - 8:02
(Side B)
B1. Love Song No. 6 (I'll Never Love You Girl) (Howells) : https://youtu.be/96K-CkZfiP4 - 6:35
B2. Dreams (Howells, Cure) : https://youtu.be/kuS7fChlXaQ - 7:32
B3. Time (Howells, Amos) : https://youtu.be/qD2OVpYncos - 6:25
[ Still Life ]
Martin Cure - vocal, acoustic guitar
Terry Howells - organ, piano, electric piano
Graham Amos - bass guitar
Alan Savage - drums
このアルバムはかつて1970年代ロック初頭のブリティッシュ・ロックでも最大のヴィンテージ・アイテムのひとつだった。作曲クレジットにはメンバーとおぼしき3名の名前があるが、後は録音・制作クレジットしかジャケットに記載されておらず、肝心のバンド・メンバーの名前と担当楽器の記載がないのだ。当然写真もない。日本発売されたのはアルバムの存在が伝説化した1977年だったらしいが、原盤元のヴァーティゴ・レーベルに問合わせても資料がまったく残っていなかった、と1993年の日本盤CDライナーノーツで、1977年のLP発売時にもライナーを担当した高見博史氏が執筆されている。そして1993年の時点でも当時の音楽誌、ブリティッシュ・ロックの研究文献でもやはりこのバンドについての情報は皆無のままだった。演奏内容から推察すると、ツイン・キーボード、ベース、ドラムスか(キーボードかベース担当者がヴォーカル、アコースティック・ギター、フルート兼任)、ヴォーカル、キーボード、ベース、ドラムス(ヴォーカル、キーボード担当者がアコースティック・ギター、フルート兼任)かと思われる。3人編成ではなさそうだが5人編成ほどギターやフルートが多用されていないので、まず4人編成だろう。
すると2003年にヴィンテージ・ロックの復刻レーベル、AKARMAがついにメンバーの所在をつきとめた。ベーシストは逝去していたが、ヴォーカル、キーボード、ドラムスの各人は現在でも各自でマイペースな音楽活動をしており、ドラマーによるサイトからコンタクトを取って現存メンバー全員からスティル・ライフ結成~解散以降のメンバーの動向(けっこう別バンドでシングルを残したメンバー、別バンドに移って成功したメンバーも多い)が精査され、ヴァーティゴ・レーベルよりスティル・ライフのメンバーの方がよっぽど正確・詳細に録音データを記録・保管していたことがわかった。このアルバムは1曲目からピーター・ハミルそっくりなヴォーカルが出てくるのでまさか本人のゲスト参加か、と憶測されていたが(そこも人気のポイントだった)、1曲目がアコギとフルートも絡んでたまたまヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター風だっただけで、2曲目以降はそれほど似ていない。同じヴァーティゴのクレシダやグレイシャス、高見氏も引き合いに出しているキーボード・バンドのフィールズに似ている。共作を含めて全曲の作者であるキーボードのハウエルズがやはりバンド解散後のソロ・アルバムもある(だが誰も元スティル・ライフとは気づかなかった!)だけあってセンスが光る。当時花形楽器だったメロトロン、シンセサイザーを使わずオーソドックスなピアノ、電気オルガン、電気ピアノだけで渋いサウンドを作っており、花とドクロのジャケット通り一見匿名的ながら地味に聴きこめる良さがある。
(Original Vertigo "Still Life" LP Liner Cover)
(Original Vertigo "Still Life" LP Side A & B Label)
Time Machine: A Vertigo Retrospective 1969-1973 (3CD-BOX, July 12, 2005) Vertigo 982798
キャタピラのアルバム紹介で予告した通り、ヴァーティゴ・レーベルの代表的アルバム40枚から選曲された3CDボックスの出典アルバムをご紹介する。ここに収録されなかった優れたアルバムも多数あり、またスタンリー・キューブリックの近未来ディストピア映画『時計じかけのオレンジ』1972のレコード店のシーンではヴァーティゴのレーベル・デザインがディスプレイしてあったように、ヴァーティゴは当時のアンダーグラウンド・カルチャーの音楽面の象徴的レーベルだった。
(Disc 1)
1. Colosseum - The Kettle (4:27) from the Album "Valentine Suite" (1969)
・英最重要バンド。ヴァーティゴ第1弾アルバムでレーベルを代表し、時代を象徴するミクスチャー・ロックだった。アルバム全英15位。
2. Juicy Lucy - Who Do You Love? (3:02) from "Juicy Lucy" (1969)
・ボ・ディドリーのカヴァーでスマッシュ・ヒットの硬派本格派R&Rバンド。これもヴァーティゴ。アルバム先行シングル全英14位。
3. Clear Blue Sky - My Heaven (5:01) from "Clear Blue Sky" (1971)
・天才少年ギタリスト率いる全員18歳のトリオの唯一作。ハード&プログレッシヴかつ陰鬱な作風がいかにもヴァーティゴらしい。
4. Manfred Mann Chapter Three - Travelling Lady (5:51) from "Manfred Mann Chapter Three" (1969)
・ビート・グループからサイケ・ポップ、そして本作では「第3章」の通りジャズ・ロックにシフト。マンは才人だが流行に流れる面も。
5. Black Sabbath - Behind the Wall of Sleep (3:41) from "Black Sabbath" (1970)
・レーベル最大のセールスを誇りコロシアムと並ぶ2大バンド。アルバムは全英8位を記録。サバスなしにヴァーティゴなし、逆もまた。
6. Cressida - To Play Your Little Games (3:21) from "Cressida" (1970)
・ラヴとドアーズ影響下の情感に富んだ作風で落ち着いた演奏、濡れたヴォーカル、楽曲が魅力。第2作『Asylum』も人気の高い傑作。
7. Gracious! - Introduction (5:55) from "Gracious!" (1970)
・クレシダに似てもっとアクの強いハードなサイケ=プログレ。シニカルな個性的ヴォーカルも魅力。第2作『This is…』でレーベル移籍。
8. Affinity - Three Sisters (4:59) from "Affinity" (1970)
・ヴァーティゴ屈指の人気アイテムで女性ヴォーカル&オルガン・ロック代表作。実はアルバム制作のみの企画バンドだったらしい。
9. Bob Downes - Walking On (5:01) from "Electric City" (1970)
・プロデューサーが本職の人がニュークリアス(後出)をバックに制作したフリーキーなジャズ・ロック作。ヴォーカルはかなり本格的。
10. May Blitz - I Don't Know (4:50) from "May Blitz" (1970)
・元ジェフ・ベック・グループのトニー・ニューマン率いるヘヴィ・ロック・トリオ。アルバム2作あり。この第1作の方が高評価か。
11. Nucleus - Torrid Zone (8:43)? from "Elastic Rock" (1970)
・ブリティッシュ・ジャズ・シーンからのジャズ・ロックへの挑戦、そのトップ・グループ。リーダー、イアン・カーの才能が光る。
12. Rod Stewart - Handbags and Gladrags (3:57) from "An Old Raincoat Won't Ever Let You Down" (1970)
・スティームパケット~ジェフ・ベック・グループを経てフェイセズ加入当時のファースト・ソロ作。この時期が最高と言う人も多い。
13. Gentle Giant - Nothing at All (9:10) from "Gentle Giant" (1970)
・ジェントル派といえるスタイル創始者と言える究極のテクニカル・プログレッシヴ・ロック。このデビュー作ですでに個性確立。
14. Ben - The Influence (10:05) from "Ben" (1971)
・これが唯一作になる素人くさいジャズ・ロックだが、そのぎこちなく垢抜けない味にアンダーグラウンドな魅力あり。全曲インスト。
(Disc 2)
1. Dr. Z - Evil Woman's Manly Child (4:47) from "Three Parts to My Soul" (1971)
・メンバーの素姓もほとんど謎の極悪黒魔術ピアノ(チェレスタ)・トリオ・ロック。ヴォーカルも楽曲も稚拙で邪悪な禍々しさが横溢。
2. Jade Warrior - Borne on the Solar Wind (3:02) from "Last Autumn's Dream" (1972)
・レイト60'sのサイケ・ポップバンドJulyの後身。80年代まで活動した息の長いインストバンドでエキゾチックなサウンドが特徴。
3. Patto - The Man (6:16) from "Patto" (1970)
・熱唱シンガー、パトゥと天才ギタリスト、オリー・ハルソールのコンビのブルース・ロックとジャズ・ロックの融合、隠れた至宝。
4. Juicy Lucy - Thinking of My Life (4:27) from "Lie Back and Enjoy It" (1970)
・元々アメリカ人メンバー創設だけにアルバム第2作もブリティッシュ離れした南部系骨太ロック。今回もアルバム全英53位と健闘。
5. Jimmy Campbell - Half Baked (4:43) from "Half Baked" (1970)
・ビート・ブーム時代からリヴァプールで活動したマージーズ出身ロッカーのソロ作。フォーキーかつ正統派ロックで、これはレア!
6. May Blitz - For Madmen Only (4:15) from "Second of May" (1971)
・ソリッドで悪くはないがファーストよりは楽曲、アレンジとも平凡。だが2作しかアルバムがないバンドならこれで十分ではないか。
7. Tudor Lodge - The Lady's Changing Home (4:36) from "Tudor Lodge" (1970)
・スパイロジャイラ、メロウ・キャンドルと並ぶフォーク系女性ヴォーカル3種の神器と名高いが男女混声とトラッド風味が中途半端。
8. Beggars Opera - Time Machine (8:07) from "Water of Change" (1971)
・いかにもいなたいブリティッシュ・プログレ。だがこれはオリジナル曲の名曲。ヴァーティゴに4枚、ドイツのみのLPが3枚ある。
9. Colosseum - Bring Out Your Dead (4:19) from "Daughter of Time" (1971)
・専任実力派ヴォーカル、クリス・ファーロウ加入が痛し痒しの充実作。インスト曲の方が良いとは……。アルバムは全英23位の名盤。
10. Warhorse - Mouthpiece (8:44) from "Red Sea" (1972)
・第1期ディープ・パープルをクビになったニッキー・シンパー(ベース)のバンド。この選曲はあえてプログレ・インストを採択したか。
11. Uriah Heep - Lady in Black (4:44) from "Salisbury" (1971)
・サバスに次ぎメジャー進出成功の元祖HR/HMバンド。この選曲はあえて渋い裏名曲。本国はノーヒットだがフィンランドでは1位に。
12. Freedom - Through the Years (4:24) from "Through the Years" (1971)
・プロコル・ハルム出身のドラマー率いるバンドで仏独先行デビュー後本国デビュー。評価は悪くなかったようだがそれほどでも……。
13. The Sensational Alex Harvey Band - Midnight Moses (4:26) from "Framed" (1972)
・1959年デビュー、1982年急逝(47歳)のロートル・ロッカー扱いで色物的存在だったが音楽は本格的。ちょっとエアロスミスっぽさも。
14. Magna Carta - Lord of the Ages (10:02) from "Lord of the Ages" (1973)
・アシッド・トラッド・プログレッシヴ・フォークというか、これも当時のブリティッシュ・アンダーグラウンドの典型的サウンド。
(Disc 3)
1. Atlantis - Living at the End of Times (9:07) from "Atlantis" (1972)
・ドイツの女性ヴォーカル・バンド、フランピーの後身バンド。インガ・ランプのヴォーカルが強力なオルガン・ハードの本格的力作。
2. Ramases - Life Child (6:37) from "Space Hymn" (1971)
・ラマサスとセル夫妻による古代文化復興新興宗教布教アルバム、バックバンドは10cc(!)という怪作。1975年に第2作あり。マジ?
3. Beggars Opera - MacArthur Park (8:22) from "Pathfinger" (1972)
・アルバムは満場一致の代表作、このカヴァーも秀逸だが、曲は第2作の「Time Machine」の勝ち?この第3作はアルバム・トータルで。
4. Nucleus - Song for the Bearded Lady (7:23) from "We'll Talk About It Later" (1970)
・ロック側からのジャズ・ロックがソフト・マシーンならジャズ側の回答がこのバンド。イアン・カーのトランペットが素晴らしい。
5. Gentle Giant - Pantagruel's Nativity (6:51) from "Acquiring the Taste" (1971)
・超絶技巧プログレにポップさが加わるのは4作目『Octpus』で、この第2作ではまだ実験性が強い。とらえどころのない不思議な楽想。
6. Gravy Train - (A Ballad Of) A Peaceful Man (7:12) from "(A Ballad Of) A Peaceful Man" (1971)
・セカンド・アルバム表題曲。ベガーズ・オペラをさらに重く泥臭くした典型的ヴァーティゴ調だが、ロック的な推進力がある。
7. Ronno - Powers of Darkness (3:34) from A-side of single (1971)
・このコンピ一番のレア曲。ミック・ロンソンがセッションマンからデイヴィッド・ボウイのギタリストになる直前の唯一のシングル。
8. Status Quo - Paper Plane (2:53) from "Piledriver" (1972)
・ブリティッシュ最高のブギ・バンドといえばステイタス・クオ。AC/DCもヴァン・ヘイレンもステイタス・クオの前では子供バンド。
9. Ian Matthews - Little Known (2:55) from "If You Saw Thru My Eyes" (1971)
・フェアポート・コンヴェンション創設メンバーがフェアポート2作、マシューズ・サザン・コンフォート3作に続き発表した初ソロ作。
10. Vangelis Papathanassiou - Let It Happen (4:14) from "Earth" (1973)
・1972年頃からヴァーティゴも外国レーベル原盤作品の配給が増える。このレア盤はヴァーティゴ原盤だが実質原盤買い取りに近い。
11. Jade Warrior - Mwenga Sketch (8:36) from "Suck It and See" (V.A.1973)
・これもレア、ヴァーティゴのオムニバス・アルバム提供曲。翌年のアイランド移籍後以降のフュージョン化の前兆を示した作風に。
12. Aphrodite's Child - The Four Horsemen (5:55) from "666" (1972)
・説明不要の国際的大ヒット作だが、親会社マーキュリーのフランス制作のイギリス配給をヴァーティゴが担当しただけとも言える。
13. Black Sabbath - Spiral Architect (5:31) from "Sabbath Bloody Sabbath" (1973)
・これで締めますか!第1期サバス(この後活動休止、次作は2年後に)のラスト作のクロージング・ナンバーで必殺の名曲。そして……。
上記40枚以外のアルバムにも、全盛期のヴァーティゴ作品にはFairfield Parlour『From Home to Home』1970、Dr. Strangely Strange『Heavy Petting』(ゲイリー・ムーア参加作品)1970、Graham Bond『Holy Magick』1970、Still Life『Still Life』1971、Catapilla『Changes』1971、Assagai 『Assagai』1971、Nirvana(England)『Local Anaesthetic』1971、Jackson Heights『5th Avenue Bus』1972、Brave New World『Impressions on Reading Aldous Huxley』1972などが注目作とされている。
ヴァーティゴがほとんどのアルバムを自社原盤で制作・リリースしていたのは1972年までで、1973年にはかなり他社(海外のマーキュリー系列)からの原盤配給が増えてくる。クラフトワーク、ルシファーズ・フレンド、アジテーション・フリー(ドイツ)、マグマ(フランス)、アーント・マリー(ノルウェー)などはレーベル・カラーにも合っているが、ジム・クロウチ(アメリカ)となると首をかしげる。そしてオイル・ショックのあおりを受けて、配給のみの作品を合わせても1969年4作、1970年31作、1971年35作、1972年42作、1973年37作、1974年29作、1975年25作と1974年からは減少傾向をたどっていく。コンピレーション『Time Machine: A Vertigo Retrospective 1969-1973』が創立1969年~1973年にヴァーティゴの真髄を絞った所以はそこにあるだろう。日本の愛好家の好みからはややズレた選曲だが、ヴァーティゴ・レーベルとは何だったのかを簡潔にまとめた選集として一貫した姿勢は感じられる。ただしブックレットに間違いがかなり多い。それに気づく人にはあまり教わることの少ないアンソロジーでもある。
Recorded at Nova Sound Recording Studios, near Marble Arch, London on the following dates: 1, 2, 5, 6 and 13 October 1970. Mixed on 26 October.
Released by Vertigo Records Vertigo 6360 026, 1971
(Side A)
A1. People in Black (Howells) : https://youtu.be/f_B4dIxJMeI - 8:19
A2. Don't Go (Howells, Cure) : https://youtu.be/LyP9NvbHM2Y - 4:35
A3. October Witches (Howells) - : https://youtu.be/nPkMflfxyEU - 8:02
(Side B)
B1. Love Song No. 6 (I'll Never Love You Girl) (Howells) : https://youtu.be/96K-CkZfiP4 - 6:35
B2. Dreams (Howells, Cure) : https://youtu.be/kuS7fChlXaQ - 7:32
B3. Time (Howells, Amos) : https://youtu.be/qD2OVpYncos - 6:25
[ Still Life ]
Martin Cure - vocal, acoustic guitar
Terry Howells - organ, piano, electric piano
Graham Amos - bass guitar
Alan Savage - drums
このアルバムはかつて1970年代ロック初頭のブリティッシュ・ロックでも最大のヴィンテージ・アイテムのひとつだった。作曲クレジットにはメンバーとおぼしき3名の名前があるが、後は録音・制作クレジットしかジャケットに記載されておらず、肝心のバンド・メンバーの名前と担当楽器の記載がないのだ。当然写真もない。日本発売されたのはアルバムの存在が伝説化した1977年だったらしいが、原盤元のヴァーティゴ・レーベルに問合わせても資料がまったく残っていなかった、と1993年の日本盤CDライナーノーツで、1977年のLP発売時にもライナーを担当した高見博史氏が執筆されている。そして1993年の時点でも当時の音楽誌、ブリティッシュ・ロックの研究文献でもやはりこのバンドについての情報は皆無のままだった。演奏内容から推察すると、ツイン・キーボード、ベース、ドラムスか(キーボードかベース担当者がヴォーカル、アコースティック・ギター、フルート兼任)、ヴォーカル、キーボード、ベース、ドラムス(ヴォーカル、キーボード担当者がアコースティック・ギター、フルート兼任)かと思われる。3人編成ではなさそうだが5人編成ほどギターやフルートが多用されていないので、まず4人編成だろう。
すると2003年にヴィンテージ・ロックの復刻レーベル、AKARMAがついにメンバーの所在をつきとめた。ベーシストは逝去していたが、ヴォーカル、キーボード、ドラムスの各人は現在でも各自でマイペースな音楽活動をしており、ドラマーによるサイトからコンタクトを取って現存メンバー全員からスティル・ライフ結成~解散以降のメンバーの動向(けっこう別バンドでシングルを残したメンバー、別バンドに移って成功したメンバーも多い)が精査され、ヴァーティゴ・レーベルよりスティル・ライフのメンバーの方がよっぽど正確・詳細に録音データを記録・保管していたことがわかった。このアルバムは1曲目からピーター・ハミルそっくりなヴォーカルが出てくるのでまさか本人のゲスト参加か、と憶測されていたが(そこも人気のポイントだった)、1曲目がアコギとフルートも絡んでたまたまヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター風だっただけで、2曲目以降はそれほど似ていない。同じヴァーティゴのクレシダやグレイシャス、高見氏も引き合いに出しているキーボード・バンドのフィールズに似ている。共作を含めて全曲の作者であるキーボードのハウエルズがやはりバンド解散後のソロ・アルバムもある(だが誰も元スティル・ライフとは気づかなかった!)だけあってセンスが光る。当時花形楽器だったメロトロン、シンセサイザーを使わずオーソドックスなピアノ、電気オルガン、電気ピアノだけで渋いサウンドを作っており、花とドクロのジャケット通り一見匿名的ながら地味に聴きこめる良さがある。
(Original Vertigo "Still Life" LP Liner Cover)
(Original Vertigo "Still Life" LP Side A & B Label)
Time Machine: A Vertigo Retrospective 1969-1973 (3CD-BOX, July 12, 2005) Vertigo 982798
キャタピラのアルバム紹介で予告した通り、ヴァーティゴ・レーベルの代表的アルバム40枚から選曲された3CDボックスの出典アルバムをご紹介する。ここに収録されなかった優れたアルバムも多数あり、またスタンリー・キューブリックの近未来ディストピア映画『時計じかけのオレンジ』1972のレコード店のシーンではヴァーティゴのレーベル・デザインがディスプレイしてあったように、ヴァーティゴは当時のアンダーグラウンド・カルチャーの音楽面の象徴的レーベルだった。
(Disc 1)
1. Colosseum - The Kettle (4:27) from the Album "Valentine Suite" (1969)
・英最重要バンド。ヴァーティゴ第1弾アルバムでレーベルを代表し、時代を象徴するミクスチャー・ロックだった。アルバム全英15位。
2. Juicy Lucy - Who Do You Love? (3:02) from "Juicy Lucy" (1969)
・ボ・ディドリーのカヴァーでスマッシュ・ヒットの硬派本格派R&Rバンド。これもヴァーティゴ。アルバム先行シングル全英14位。
3. Clear Blue Sky - My Heaven (5:01) from "Clear Blue Sky" (1971)
・天才少年ギタリスト率いる全員18歳のトリオの唯一作。ハード&プログレッシヴかつ陰鬱な作風がいかにもヴァーティゴらしい。
4. Manfred Mann Chapter Three - Travelling Lady (5:51) from "Manfred Mann Chapter Three" (1969)
・ビート・グループからサイケ・ポップ、そして本作では「第3章」の通りジャズ・ロックにシフト。マンは才人だが流行に流れる面も。
5. Black Sabbath - Behind the Wall of Sleep (3:41) from "Black Sabbath" (1970)
・レーベル最大のセールスを誇りコロシアムと並ぶ2大バンド。アルバムは全英8位を記録。サバスなしにヴァーティゴなし、逆もまた。
6. Cressida - To Play Your Little Games (3:21) from "Cressida" (1970)
・ラヴとドアーズ影響下の情感に富んだ作風で落ち着いた演奏、濡れたヴォーカル、楽曲が魅力。第2作『Asylum』も人気の高い傑作。
7. Gracious! - Introduction (5:55) from "Gracious!" (1970)
・クレシダに似てもっとアクの強いハードなサイケ=プログレ。シニカルな個性的ヴォーカルも魅力。第2作『This is…』でレーベル移籍。
8. Affinity - Three Sisters (4:59) from "Affinity" (1970)
・ヴァーティゴ屈指の人気アイテムで女性ヴォーカル&オルガン・ロック代表作。実はアルバム制作のみの企画バンドだったらしい。
9. Bob Downes - Walking On (5:01) from "Electric City" (1970)
・プロデューサーが本職の人がニュークリアス(後出)をバックに制作したフリーキーなジャズ・ロック作。ヴォーカルはかなり本格的。
10. May Blitz - I Don't Know (4:50) from "May Blitz" (1970)
・元ジェフ・ベック・グループのトニー・ニューマン率いるヘヴィ・ロック・トリオ。アルバム2作あり。この第1作の方が高評価か。
11. Nucleus - Torrid Zone (8:43)? from "Elastic Rock" (1970)
・ブリティッシュ・ジャズ・シーンからのジャズ・ロックへの挑戦、そのトップ・グループ。リーダー、イアン・カーの才能が光る。
12. Rod Stewart - Handbags and Gladrags (3:57) from "An Old Raincoat Won't Ever Let You Down" (1970)
・スティームパケット~ジェフ・ベック・グループを経てフェイセズ加入当時のファースト・ソロ作。この時期が最高と言う人も多い。
13. Gentle Giant - Nothing at All (9:10) from "Gentle Giant" (1970)
・ジェントル派といえるスタイル創始者と言える究極のテクニカル・プログレッシヴ・ロック。このデビュー作ですでに個性確立。
14. Ben - The Influence (10:05) from "Ben" (1971)
・これが唯一作になる素人くさいジャズ・ロックだが、そのぎこちなく垢抜けない味にアンダーグラウンドな魅力あり。全曲インスト。
(Disc 2)
1. Dr. Z - Evil Woman's Manly Child (4:47) from "Three Parts to My Soul" (1971)
・メンバーの素姓もほとんど謎の極悪黒魔術ピアノ(チェレスタ)・トリオ・ロック。ヴォーカルも楽曲も稚拙で邪悪な禍々しさが横溢。
2. Jade Warrior - Borne on the Solar Wind (3:02) from "Last Autumn's Dream" (1972)
・レイト60'sのサイケ・ポップバンドJulyの後身。80年代まで活動した息の長いインストバンドでエキゾチックなサウンドが特徴。
3. Patto - The Man (6:16) from "Patto" (1970)
・熱唱シンガー、パトゥと天才ギタリスト、オリー・ハルソールのコンビのブルース・ロックとジャズ・ロックの融合、隠れた至宝。
4. Juicy Lucy - Thinking of My Life (4:27) from "Lie Back and Enjoy It" (1970)
・元々アメリカ人メンバー創設だけにアルバム第2作もブリティッシュ離れした南部系骨太ロック。今回もアルバム全英53位と健闘。
5. Jimmy Campbell - Half Baked (4:43) from "Half Baked" (1970)
・ビート・ブーム時代からリヴァプールで活動したマージーズ出身ロッカーのソロ作。フォーキーかつ正統派ロックで、これはレア!
6. May Blitz - For Madmen Only (4:15) from "Second of May" (1971)
・ソリッドで悪くはないがファーストよりは楽曲、アレンジとも平凡。だが2作しかアルバムがないバンドならこれで十分ではないか。
7. Tudor Lodge - The Lady's Changing Home (4:36) from "Tudor Lodge" (1970)
・スパイロジャイラ、メロウ・キャンドルと並ぶフォーク系女性ヴォーカル3種の神器と名高いが男女混声とトラッド風味が中途半端。
8. Beggars Opera - Time Machine (8:07) from "Water of Change" (1971)
・いかにもいなたいブリティッシュ・プログレ。だがこれはオリジナル曲の名曲。ヴァーティゴに4枚、ドイツのみのLPが3枚ある。
9. Colosseum - Bring Out Your Dead (4:19) from "Daughter of Time" (1971)
・専任実力派ヴォーカル、クリス・ファーロウ加入が痛し痒しの充実作。インスト曲の方が良いとは……。アルバムは全英23位の名盤。
10. Warhorse - Mouthpiece (8:44) from "Red Sea" (1972)
・第1期ディープ・パープルをクビになったニッキー・シンパー(ベース)のバンド。この選曲はあえてプログレ・インストを採択したか。
11. Uriah Heep - Lady in Black (4:44) from "Salisbury" (1971)
・サバスに次ぎメジャー進出成功の元祖HR/HMバンド。この選曲はあえて渋い裏名曲。本国はノーヒットだがフィンランドでは1位に。
12. Freedom - Through the Years (4:24) from "Through the Years" (1971)
・プロコル・ハルム出身のドラマー率いるバンドで仏独先行デビュー後本国デビュー。評価は悪くなかったようだがそれほどでも……。
13. The Sensational Alex Harvey Band - Midnight Moses (4:26) from "Framed" (1972)
・1959年デビュー、1982年急逝(47歳)のロートル・ロッカー扱いで色物的存在だったが音楽は本格的。ちょっとエアロスミスっぽさも。
14. Magna Carta - Lord of the Ages (10:02) from "Lord of the Ages" (1973)
・アシッド・トラッド・プログレッシヴ・フォークというか、これも当時のブリティッシュ・アンダーグラウンドの典型的サウンド。
(Disc 3)
1. Atlantis - Living at the End of Times (9:07) from "Atlantis" (1972)
・ドイツの女性ヴォーカル・バンド、フランピーの後身バンド。インガ・ランプのヴォーカルが強力なオルガン・ハードの本格的力作。
2. Ramases - Life Child (6:37) from "Space Hymn" (1971)
・ラマサスとセル夫妻による古代文化復興新興宗教布教アルバム、バックバンドは10cc(!)という怪作。1975年に第2作あり。マジ?
3. Beggars Opera - MacArthur Park (8:22) from "Pathfinger" (1972)
・アルバムは満場一致の代表作、このカヴァーも秀逸だが、曲は第2作の「Time Machine」の勝ち?この第3作はアルバム・トータルで。
4. Nucleus - Song for the Bearded Lady (7:23) from "We'll Talk About It Later" (1970)
・ロック側からのジャズ・ロックがソフト・マシーンならジャズ側の回答がこのバンド。イアン・カーのトランペットが素晴らしい。
5. Gentle Giant - Pantagruel's Nativity (6:51) from "Acquiring the Taste" (1971)
・超絶技巧プログレにポップさが加わるのは4作目『Octpus』で、この第2作ではまだ実験性が強い。とらえどころのない不思議な楽想。
6. Gravy Train - (A Ballad Of) A Peaceful Man (7:12) from "(A Ballad Of) A Peaceful Man" (1971)
・セカンド・アルバム表題曲。ベガーズ・オペラをさらに重く泥臭くした典型的ヴァーティゴ調だが、ロック的な推進力がある。
7. Ronno - Powers of Darkness (3:34) from A-side of single (1971)
・このコンピ一番のレア曲。ミック・ロンソンがセッションマンからデイヴィッド・ボウイのギタリストになる直前の唯一のシングル。
8. Status Quo - Paper Plane (2:53) from "Piledriver" (1972)
・ブリティッシュ最高のブギ・バンドといえばステイタス・クオ。AC/DCもヴァン・ヘイレンもステイタス・クオの前では子供バンド。
9. Ian Matthews - Little Known (2:55) from "If You Saw Thru My Eyes" (1971)
・フェアポート・コンヴェンション創設メンバーがフェアポート2作、マシューズ・サザン・コンフォート3作に続き発表した初ソロ作。
10. Vangelis Papathanassiou - Let It Happen (4:14) from "Earth" (1973)
・1972年頃からヴァーティゴも外国レーベル原盤作品の配給が増える。このレア盤はヴァーティゴ原盤だが実質原盤買い取りに近い。
11. Jade Warrior - Mwenga Sketch (8:36) from "Suck It and See" (V.A.1973)
・これもレア、ヴァーティゴのオムニバス・アルバム提供曲。翌年のアイランド移籍後以降のフュージョン化の前兆を示した作風に。
12. Aphrodite's Child - The Four Horsemen (5:55) from "666" (1972)
・説明不要の国際的大ヒット作だが、親会社マーキュリーのフランス制作のイギリス配給をヴァーティゴが担当しただけとも言える。
13. Black Sabbath - Spiral Architect (5:31) from "Sabbath Bloody Sabbath" (1973)
・これで締めますか!第1期サバス(この後活動休止、次作は2年後に)のラスト作のクロージング・ナンバーで必殺の名曲。そして……。
上記40枚以外のアルバムにも、全盛期のヴァーティゴ作品にはFairfield Parlour『From Home to Home』1970、Dr. Strangely Strange『Heavy Petting』(ゲイリー・ムーア参加作品)1970、Graham Bond『Holy Magick』1970、Still Life『Still Life』1971、Catapilla『Changes』1971、Assagai 『Assagai』1971、Nirvana(England)『Local Anaesthetic』1971、Jackson Heights『5th Avenue Bus』1972、Brave New World『Impressions on Reading Aldous Huxley』1972などが注目作とされている。
ヴァーティゴがほとんどのアルバムを自社原盤で制作・リリースしていたのは1972年までで、1973年にはかなり他社(海外のマーキュリー系列)からの原盤配給が増えてくる。クラフトワーク、ルシファーズ・フレンド、アジテーション・フリー(ドイツ)、マグマ(フランス)、アーント・マリー(ノルウェー)などはレーベル・カラーにも合っているが、ジム・クロウチ(アメリカ)となると首をかしげる。そしてオイル・ショックのあおりを受けて、配給のみの作品を合わせても1969年4作、1970年31作、1971年35作、1972年42作、1973年37作、1974年29作、1975年25作と1974年からは減少傾向をたどっていく。コンピレーション『Time Machine: A Vertigo Retrospective 1969-1973』が創立1969年~1973年にヴァーティゴの真髄を絞った所以はそこにあるだろう。日本の愛好家の好みからはややズレた選曲だが、ヴァーティゴ・レーベルとは何だったのかを簡潔にまとめた選集として一貫した姿勢は感じられる。ただしブックレットに間違いがかなり多い。それに気づく人にはあまり教わることの少ないアンソロジーでもある。