人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・NAGISAの国のアリス(47)

 そんな具合にアリスはちょっとこれはやばいんじゃないの、と焦ってもいい状況になりましたが、小人の数は多く見積もって7人、そのうち両手両足を押さえている小人がいて、髪をつかんで頭を押さえている小人がいて、その小人がさっきまでアリスの顔を照らしていたランタンを手渡し、今それを掲げている小人がいてということは、手が空いている小人は1人いるかいないかになります。その1人はたぶんさっき道具箱を引きずってきた小人でしょうが、手足を押さえていた小人と交替しているかもしれず、その小人はスカートの中を覗きながら休憩しているかもしれません。
 それにアリスが暴れようものなら、押さえつけるだけでも小人たちには手一杯になるはずで、アリスとしては何も警戒する必要はなさそうでした。本当に危険が迫ってきたら勝ち目はたぶんアリスにあります。大したことないわ、とアリスはまた口に出しそうになって、今はおとなしく様子をうかがうことにしました。なにしろ深い深い穴の中を長い長い時間をかけて落ちてきましたから、落ちるがままに落ちてきただけですけれど、長い長い川を流されてきたように体はだるく、それに退屈でやる気もなくなって、早い話が自分から何かするのはおっくうな気分でしたから、どうせその気になれば払いのけられる小人たちなど放っておいて、行きがかりは行きがかりで楽しんでみよう、と余裕の態度でした。そこらへんはさすがにアリスも階級制度にあぐらをかいた19世紀のイギリス人令嬢だけありました。動物の前で肌をさらしても人は羞恥心を感じませんが、アリスの属する白人中産階級にとっては有色人種ですら家畜動物と同等かそれ以下ですから、こんな地底人の小人など畜類以下の爬虫類や両棲類、昆虫並みですらあるでしょう。
 ですがアリスがあなどっていたのはアリスにとって小人が畜類以下なら小人にとってはアリスはでっかい獲物なわけで、おたがい話してわかりあえる可能性はまったくないわけです。頭の悪いアリスでも何だか嫌な予感がしたのは、コツンコツンとハンマーの音がし始めたからでした。アリスはハッと気がつきました。この音は地面に杭を打っている音だわ!アリスが油断して放心状態になっていた隙に、小人たちはてきぱきとアリスの手足を地面に張りつけにしていました。
 しまった、とアリスはガリバーのお話を思い出しました。小人は見つけた人間を張りつけにするものなのです。