人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Charles Mingus - Mingus Ah Um (Columbia,1959)

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Charles Mingus - Mingus Ah Um (Columbia,1959) Full Album and Bonus Tracks : http://youtu.be/cOHlYNR13D4
Tracks 1, 6, 7, 8, 9 and 10 recorded on May 5, 1959; tracks 2, 3, 4, 5, 11 and 12 recorded on May 12, 1959. All tracks recorded at Columbia 30th Street Studio, New York City.
Released by Columbia Records CL-1370, September 14, 1959
(1979 Restore Running Time/Original Edit Version Time)
(Side 1)
A1. Better Git It in Your Soul - 0:00 (7:19)
A2. Goodbye Pork Pie Hat - 7:19 (5:44/4:46)
A3. Boogie Stop Shuffle - 12:59 (5:02/3:41)
A4. Self-Portrait in Three Colors - 18:01 (3:10)
A5. Open Letter to Duke - 21:12 (5:51/4:46)
(Side 2)
B1. Bird Calls - 27:00 (6:17/3:12)
B2. Fables of Faubus - 33:17 (8:13)
B3. Pussy Cat Dues - 41:30 (9:14/6:27)
B4. Jelly Roll - 50:43 (6:17/4:01)
[Bonus Tracks] :
1. Pedal Point Blues - 56:58 (6:30)
2. GG Train - 1:03:30 (4:39)
3. Girl of My Dreams - 1:08:07 (4:08)
All songs composed by Charles Mingus, except 12, composed by Sonny Clapp.
[ Personnel ]
Charles Mingus - leader, bass, piano (with Parlan on track 10)
John Handy - alto sax (6, 7, 9, 10, 11, 12), clarinet (8), tenor sax (1, 2)
Booker Ervin - tenor sax
Shafi Hadi - tenor sax (2, 3, 4, 7, 8, 10), alto sax (1, 5, 6, 9, 12)
Willie Dennis - trombone (3, 4, 5, 12)
Jimmy Knepper - trombone (1, 7, 8, 9, 10)
Horace Parlan - piano
Dannie Richmond - drums

(今回も昨年1月に単発掲載したアルバム紹介を部分的に加筆訂正して再掲載する。手前味噌だがなかなかうまくまとまった紹介になっており、書き直してもこれ以上のことは書けそうにない。今作については、モダン・ジャズの基本アルバムとして上位に入ることを強調したい)。
★★★★★ Review by Steve Huey
 Charles Mingus' debut for Columbia, Mingus Ah Um is a stunning summation of the bassist's talents and probably the best reference point for beginners. While there's also a strong case for The Black Saint and the Sinner Lady as his best work overall, it lacks Ah Um's immediate accessibility and brilliantly sculpted individual tunes. Mingus' compositions and arrangements were always extremely focused, assimilating individual spontaneity into a firm consistency of mood, and that approach reaches an ultra-tight zenith on Mingus Ah Um. The band includes longtime Mingus stalwarts already well versed in his music, like saxophonists John Handy, Shafi Hadi, and Booker Ervin; trombonists Jimmy Knepper and Willie Dennis; pianist Horace Parlan; and drummer Dannie Richmond. Their razor-sharp performances tie together what may well be Mingus' greatest, most emotionally varied set of compositions. At least three became instant classics, starting with the irrepressible spiritual exuberance of signature tune "Better Get It in Your Soul," taken in a hard-charging 6/8 and punctuated by joyous gospel shouts. "Goodbye Pork Pie Hat" is a slow, graceful elegy for Lester Young, who died not long before the sessions. The sharply contrasting "Fables of Faubus" is a savage mockery of segregationist Arkansas governor Orval Faubus, portrayed musically as a bumbling vaudeville clown (the scathing lyrics, censored by skittish executives, can be heard on Charles Mingus Presents Charles Mingus). The underrated "Boogie Stop Shuffle" is bursting with aggressive swing, and elsewhere there are tributes to Mingus' most revered influences: "Open Letter to Duke" is inspired by Duke Ellington and "Jelly Roll" is an idiosyncratic yet affectionate nod to jazz's first great composer, Jelly Roll Morton. It simply isn't possible to single out one Mingus album as definitive, but Mingus Ah Um comes the closest.
(allmusic.com)
 (Original Columbia "Mingus Ah Um" LP Liner Notes)

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 1959年がモダン・ジャズ史上転回点となったのはマイルス・デイヴィス『Kind of Blue』(3月・4月録音)、ジョン・コルトレーン『Giant Steps』(5月、12年月録音)、オーネット・コールマン『The Shape of Jazz to Come』(5月録音)だけではない。チャールズ・ミンガスがついに大手コロンビアから全国区のメジャー・デビューを果たした『Mingus Ah Um』(5月録音)は前記の3枚と並んでジャズ以外のジャンルにも(後述)60年代もっとも影響力の大きなアルバムとなった。特に英米圏では初めてミンガスが広く認知されたアルバムでもあり、今でもミンガスの代表的傑作とされる。
 イギリスでも後にロックに向かったジャズ出身のミュージシャンたちに最大の影響を与えたアルバムは『Kind of Blue』と『Mingus Ah Um』だった、という証言がある。確かに潤沢な予算案と優れた録音、粒ぞろいの楽曲と良く練られたアレンジ、演奏で『Mingus Ah Um』はメジャー・レーベル作品ならではのスケール感があるが、ヨーロッパや日本では中小インディーズからのミンガスの諸作もメジャー・レーベル作品と分け隔てなく聴かれていたので、『Mingus Ah Um』を特別視する風潮はなかった。かえって翌年の『Charles Mingus Presents Charles Mingus』が弱小インディーズのキャンディドから出ると、メジャーのコロンビアではなし得なかったむき出しの反逆性が高く評価されたほどだった。「Fables of Faubus (フォーバス知事の寓話)」はインディーズ盤では本来のヴォーカル曲に戻され、後のプレ・パンク的な時期のレゲエを予告するような攻撃性を強調されていた。マイルス、コルトレーン、オーネットと同様に、ミンガスもまたロックの父とも言うべき強い個性を持ったジャズマンだった。
 (Original Columbia "Mingus Ah Um" LP Side 1 Label)

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 日本ではミンガスの傑作では『Pithecanthropus Erectus』1956を筆頭とするアトランティックの諸作、キャンディドの『Charles Mingus Presents Charles Mingus』1960、ミンガス史上最強メンバーと名高い『The Great Concert of Charles Mingus』1964、70年代の晩年近くの『Mingus at Carnegie Hall』1975、『Cumbia & Jazz Fusion』1977が上げられることが多い。だが前述の通り英米ではミンガスといえば何を置いても本作で、アメリカ版ウィキペディアでの引例でも、
●Professional ratings :
・Allmusic★★★★★
・Popmatters★★★★★★★★★★
・About.com★★★★★
・Rolling Stone★★★★★
 と、各媒体で満票を獲得しているアルバムであることを強調している。allmusic.comのレヴューは先に引用したが、本作に匹敵する傑作と引き合いに出しているのは『The Black Saint and the Sinner Lady (黒い聖者と罪ある女)』1964で、これもメジャーのMCA傘下のジャズ・レーベルであるインパルスからのアルバムだった。ミンガス作品の3分の2はインディーズ・レーベルからのリリースで、アトランティックをワーナー傘下のメジャー・レーベルとすれば3分の1がメジャーからのリリースになるが、アメリカ本国や隣国イギリスではメジャー・レーベル作品しか聴かれていないのではないか。

 もちろん本作も素晴らしい出来だが、メジャー・レーベル作品を意識して曲をコンパクトにまとめた感は否めない。LPではA面5曲・B面4曲で46分あった。現行CDでは復原されているが、LPではA1、A4、B2以外の6曲は1分~2分のカットがあり、B1などは3分のカットで元の半分の長さになっていた。コロンビア作品では編集によるカットが多く、マイルス・デイヴィスは積極的に作品の完成度を高めるために編集に関わっていたが、セロニアス・モンク作品などは明らかに収録曲を増やすためのカットがある。モンクは自作の編集など関わるタイプではないだろう。ただし編集が上手くいっている場合もモンク作品では多い。
 ミンガスはアマチュア時代からレコードの自主制作をしており、編集には積極的だったから、『Mingus Ah Um』についてもLP時代のカットはアーティスト自身の意向によると見てよい。だが現行CDで全長版がリリースされるとやはりカットがない方がいい、ということになった。『Pithecanthropus Erectus』も『Charles Mingus Presents Charles Mingus』もAB各面2曲ずつしか収録されていない。ミンガスはビバップハードバップ世代だが、作曲や編曲は構想が大きく、平均10分の演奏時間を費やすサウンド作りが常套だった。『Mingus Ah Um』はあえてコンパクトにして、ミンガス音楽のショーケースを狙ったものと思える。
 (Original Columbia "Mingus Ah Um" LP Side 2 Label)

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 ミンガス自身が立ち会ったと思われるオリジナル短縮版と現行CDの復原版では本来ならもっと問題にされても良いことだが、本来このアルバムはボーナス・トラック不要な統一性ある作品なので、未発表曲を加えた時点でオリジナル短縮版に固執する必要もなくなったとも言える。ミンガスがこのアルバムに込めたのは先人たちへのオマージュと、ブラック・ミュージックとしてのジャズの主張だろう。
 各曲解説はallmusic.comのレヴューに詳しく、アメリカ版ウィキペディアでもほぼ同内容の解説があり、日本版ウィキペディアでも『Mingus Ah Um』には独立したアルバム解説項目がある(ただしほとんど全文がアメリカ版ウィキペディアからの翻訳だが)。A1は熱狂的なゴスペル、A2はレスター・ヤングへの追悼曲で、この2曲はミンガス屈指の名曲とされカヴァーも多い。A3はブギウギ・ピアニストたちへの賛歌、A4とA5はミンガスがもっとも敬愛するデューク・エリントンへのオマージュ。B1はチャーリー・パーカーへのオマージュ、B2は学園紛争に武力介入したフィーバス知事への批判、B3は再びジャズの黒人性の主張、B4はジャズの父ジェリー・ロール・モートンへの賛歌。以上のようになっている。このような構成にもメジャー・リリースで集大成的アルバムを、というミンガスの意志が表れているだろう。
 本作最高のプレイは「Goodby Pork Pie Hat」のジョン・ハンディのテナーソロだろう。「ポーク・パイ・ハット」とは、ヤングのトレードマークだった山高帽を意味する。G♭のペンタトニック・スケールからなるテーマ・メロディがE♭を中心に前後する半音進行のコード進行でアドリブに展開し、旧メンバーのシャフィ・ハディと新メンバーのジョン・ハンディはどちらもアルトとテナーの持ち替えができるサックス奏者だが、この曲では2人ともテナーのユニゾンで沈鬱なテーマを奏でている。これは史上最高のテナー奏者に捧げられた葬送曲なのだ。
 この曲はスタンダード・ナンバーとなり、ジャズ界ではローランド・カークギル・エヴァンスマーカス・ミラー綾戸智絵などがカバー。他ジャンルでは、ペンタングル『Sweet Child』1968、ジェフ・ベック『Wired』1976、ジョニ・ミッチェル『Mingus』1979等もで取り上げられている。それもB級ジャズマン、ハンディ一世一代の表現力豊かな渾身のテナーソロによるところが大きい。セカンド・コーラスでフラッタータンギングを駆使した独創的なアドリブは、バップ直系のハディからは出てこずR&Bバンド出身者のハンディならではの発想だった。ハンディはやがてエリック・ドルフィーに席を譲り、ドルフィーの演奏をハンディは批判して止まなかったほどで、器量の大きい奏者とは言えないメンバーだった。だがミンガスはその意味でも、器の大きく見識と統率力のあるバンド・リーダーだった。