人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

テッド・カーソン Ted Curson - ドルフィーに捧げる涙 Tears for Dolphy (Fontana, 1965)

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テッド・カーソン・カルテット Ted Curson Quartet - ドルフィーに捧げる涙 Tears for Dolphy (Fontana, 1965) (Ted Curson) : https://youtu.be/MxXkbgQWx3c - 8:32
Recorded on August 1, 1964
Released by Fontana Record Netherlands as the album "Tears For Dolphy", 888 310, 888 310 ZY, 1965
[ Ted Curson Quartet ]
Ted Curson - trumpet, Bill Barron - tenor saxophone, Herb Bushler - bass, Dick Berk - drums

 同年6月29日のエリック・ドルフィー(1928-1964)の単身ツアー先のベルリンでの急逝の訃報を受けて、元チャールズ・ミンガス(1922-1979)のバンドの同僚だったテッド・カーソン(1935-2012)が急遽当時ヨーロッパ・ツアー中だった自身のカルテットで同曲をタイトル曲にしたドルフィー追悼アルバムを制作した、そのタイトル曲です。ミンガスはアルバム・アーティストとしてはトップ・クラスの評価を受けていましたが、ミンガスのバンドは拠点ニューヨークではライヴ活動から閉め出されていたため(音楽が難解、ミンガスが演奏中に観客に会話飲食禁止を命令する、などの理由で)、ライヴ活動はもっぱらロサンゼルスやボストン、シカゴなどの国内ツアー、海外のジャズ・フェスティヴァルに呼ばれたついでのヨーロッパ・ツアーに限られていました。ジャズのレコードは高く評価され売れても数百枚、1,000枚を越えればヒット作で、数万枚も売れるアーティストは大手レコード会社専属のひと握りしかいません。レコード印税はリーダーにしか入らないのでメンバーはライヴ活動がないと食っていけない。ほとんどライヴの機会がないミンガスのバンドは門弟で固定メンバーのドラムスのダニー・リッチモンド(1931-1988)以外は頻繁にメンバーが変わりましたが(ミンガスのアルバムに参加した実績はメンバーのステイタスになったので、赤貧覚悟でメンバーになる意欲的な実力派ジャズマンには欠きませんでした)、ドルフィーはミンガスと同郷のロサンゼルス出身でロサンゼルス時代から親交があったので準レギュラー的存在でした。テッド・カーソンがミンガスのバンドに参加したのは1960年の1年間だけで、同年7月のフランスのジャズ・フェスティヴァルではテナーサックスのブッカー・アーヴィン(1930-1970)が加わったクインテットのライヴ音源が1974年に発掘発売されましたが、この年のミンガスのバンドはピアノレスの2ホーン・カルテットが基本で、カーソン(トランペット)とドルフィー(アルトサックス、バスクラリネット、フルート)がフロント、ミンガスとリッチモンドという最小編成によるバンドです。

 カーソン在籍時のミンガスのスタジオ録音アルバムは『Charles Mingus Presents Charles Mingus』(Candido)、『Mingus』(Candido)、『Pre-Bird』(Mercury)があり、いずれも'60年録音・'61年発売ですが、『Mingus』(1曲のみ『Charles Mingus Presents~』のアウトテイク)と『Pre-Bird』はビッグバンド作品なので'60年のミンガスのピアノレス・カルテットの純粋なアルバムは『Charles Mingus Presents Charles Mingus』1作と言ってよく、これは前'59年10月にアルバム『ジャズ来るべきもの(The Shape Of Jazz To Come)』で華々しくメジャー・デビューし(先に地元ロサンゼルスで2枚のアルバムがありましたが)、翌月からのニューヨークのジャズ・クラブ出演が異例のロングラン公演となり次作『世紀の転換(Change Of The Century)』'60.6発売の頃までつづいてセンセーショナルな新人だったオーネット・コールマン(1930-2015)のピアノレス・カルテットと同じ編成を意識したものでした。ドルフィーはロサンゼルス時代にオーネットとも親交があり、ミンガスはカーソンとドルフィーをオーネットのライヴの偵察に出し「同じようにできるか?」と訊いたのをのちミンガスの没後にカーソンが証言しています。ミンガスはリハーサル中特定のメンバーだけを集中して苛めてバンドをしごくタイプのリーダーで、旧友で頼もしいドルフィーや忠実な門弟のリッチモンド以外というとカーソンしかいないのでミンガスのバンド在籍中カーソンは何度辞めようと思ったかというくらい苛められたそうですが、『~Presents Charles Mingus』の出来は素晴らしいもので、カーソン自身がミンガスのバンド契約満期脱退後に組んだピアノレス・カルテットも同アルバムの音楽性を継承したものでした。

 ドルフィーへの追悼曲「ドルフィーに捧げる涙」は沈鬱な葬送曲の楽想とテンポで奏でられる楽曲で、この曲を筆頭に全6曲中カーソンのオリジナル4曲(テナーサックスのビル・バロンのオリジナル2曲)はその後もカーソンの代表曲となり、何度も再演されることになります。「ドルフィーに捧げる涙」はパゾリーニの映画『テオレマ』'68を始め映画への使用頻度も高い曲になりました。この曲はテンポやチェンジの設定ではカーソン参加のミンガスのアルバムでは「ホワット・ラヴ」が発想源になっていると思われ、同曲はアルバム録音に先立つフランスでのライヴ音源でもアーヴィンを外したカルテットでのちのスタジオ録音にほぼ忠実に演奏されていることから、厳密にスコアに起こしてほぼ半年間のリハーサルを積んだ録音で、スタンダード曲「What Is This Thing Called Love」と「You Don't Know What Love Is」(ともにビリー・ホリデイの名唱、ミンガスとドルフィーの愛奏曲です)の主旋律をモザイク状に組み合わせリハーモナイズした難曲です。このミンガスの難曲からすっきりと明快な悲しみの伝わる名曲「ドルフィーに捧げる涙」を生み出したカーソンのセンスと手腕は、ミンガスのバンドでの苦汁をなめただけはあるという気がします。

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Charles Mingus Quartet - What Love (Charles Mingus) (Candido, 1961) : https://youtu.be/amTa_k8E_gI - 15:20
Recorded at Nora's Penthouse Studio, October 20, 1960
Released by Candido Records as the album "Charles Mingus Presents Charles Mingus", CJS 9005, 1961
[ Charles Mingus Quartet ]
Charles Mingus - bass, Ted Curson - trumpet, Eric Dolphy - bass clarinet, Dannie Richmond - drums

Charles Mingus Quartet - What Love (Atlantic, 1976) : https://youtu.be/oR5Z8N2PfLY - 13:34
Recorded live at Antibes, France, July 13, 1960
Originally Released by BYG Records as the album "Charles Mingus Live With Eric Dolphy", BYG Japan YX7009, 1974 (Not Include "What Love")
Reissued by Atlantic Records as the album "Mingus In Antibes", Atlantic SD2-3001, 1976
[ Charles Mingus Quartet ]
Same Personnel above.