人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Jeff Beck - 1971 Final BBC On The Air (June 29th, 1972)

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Jeff Beck - 1971 Final BBC On The Air (June 29th, 1972) Full Album : https://youtu.be/cy7FA0HXA_Q
Recorded at BBC In Concert, Paris Cinema, London, U.K., June 29th, 1972
Released by Scarecrow, SCARECROW001(unofficial), date unknown; possibly '90s
*London BBC 1971 (miscredited)
01. 00:00 Ice Cream Cakes (Jeff Beck) - 6:49
02. 06:49 Definitely Maybe (Jeff Beck) - 7:37
03. 14:26 Ain’t No Sunshine (Bill Withers) - 4:29
04. 18:55 Morning Dew (Bonnie Dobson) - 5:07
05. 24:03 Keyboard Solo - Going Down (Don Nix) - 4:11
06. 28:14 New Ways (Jeff Beck) - Plynth (N.Hopkins, R.Wood, R.Stewart) - Train Train (Jeff Beck) - 7:44
07. 35:58 Got The Feeling I (Jeff Beck) - 12:05
*‘71 BBC Studio Session (date unknown)
08. 48:03 Going Down - 3:35
09. 51:38 Got The Feeling II - 5:04
*Rare Version (TV on air / date unknown)
10. 0:56:42 Got The Feeling III - 4:48
11. 1:01:30 Situation - 5:05
[ Jeff Beck Group ]
Jeff Beck - guitar
Bob Tench - vocals
Max Middleton - keyboards
Clive Chaman - bass
Cozy Powell - drums

 ジェフ・ベックの傑作ライヴと言えばこれ。イギリス国営放送局BBC名物のイン・コンサートはレコード・デビューしたほとんどのイギリスのバンドが出演しているが、第2期ジェフ・ベック・グループのこれほど名演と聴きつがれ語りつがれてきた音源はないだろう。その点ではキング・クリムゾン1973年11月23日のオランダ・アムステルダム・コンセルトヘボウ公演を収録したBBCイン・コンサートと双璧をなし、NHK-FMからのエア・チェック・テープは人から人へとコピーされてきた。80年代になっても70年代音源を周期的に再放送していたBBCイン・コンサートはもとよりアナログ時代からブートの定番だったが、90年代になるとCDでより良い音質・編集のものが出回るようになった。そこでキング・クリムゾンやホークウィンドからキリング・ジョークに至るまでかなりのアーティストがBBCイン・コンサート音源を公式発売し、ほとんど最後の砦だったローリング・ストーンズまで限定版公式発売したのだが、それでも出さないアーティストと言えばピンク・フロイドジェフ・ベックになる。70年代からブート発売された回数、各種レーベルからの発売を総合するなら並みの中堅アーティストの人気作くらいの枚数売り上げには余裕で達しているのではないか。
 アナログ時代に初めて買ったブートもこのジェフ・ベック・グループのBBCイン・コンサートだった。JBG#2のスタジオ盤2枚は中学生同士の貸し借りで聴いていたが、NHK-FMの再放送でまだベックを聴く機会はなかった(クリムゾンは強烈に覚えている)。印刷の汚い黄色い紙を表に貼り付けただけのジャケットにも参ったが(アナログ・ブートはそんなものだった)、ライヴなのはジャケットでわかるとして中古盤屋で安く買ってきてぶっとんだ。そもそも安いから買ったのと、ストーンズのライヴ盤『Got Live If You Want It』で音質がひどかろうがライヴ盤ならではの魅力はあるのを知ったからでもあり、ザ・フーの『Live at Leeds』やディープ・パープルの『Made in Japan』、クリムゾン『USA』よりストーンズ『Got Live~』やザ・ドアーズ『Absolutely Live』、フリー『Free Live』、レッド・ツェッペリン『The Song Remains the Same』みたいにどこか破綻している方が好きだった。さてアナログ・ブートはジャケットも粗悪だがレコードの材質やプレスも粗悪で、要するに物理的に粗悪だったために、現在CDブートで聴ける正規盤でも通用するBBC制作のマスターテープのエア・チェック版をマスターに使っているにしても客席ラジカセ録り、しかも左チャンネルのギターがやたらでかく、他の4人のメンバーの音が束になってもギターの音がさらにでかい、という冗談のようなバランスになっていた。だがJBG#2のスタジオ盤2作よりもBBCのライヴは素晴らしかったのだ。誰もが通る必聴音源と知ったのは、もっと後になってからだった。
(Unofficial Scarecrow "1971 Final BBC On The Air" CD Liner Cover & CD Label)

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 第2期ジェフ・ベック・グループの2枚のアルバム『Rough and Ready』1971、『Jeff Beck Group』1972は最高のメンバーとこれまでにないベックのオリジナル曲の多さでコンテンポラリーなソウル・ミュージックにハードなロック的アプローチを試みた意欲作だったが、ロッド・スチュワート(vo)、ロン・ウッド(b)、ニッキー・ホプキンス(key)を擁した第1期ジェフ・ベック・グループの2作『Truth』1968、『Cosa Nosta Beck-Ola』1969ではブルース、ジャズ、ロックン・ロールが未消化なまま力業でバンド・サウンドにごった煮状態で完成度は低かったとはいえ、テンションには凄まじいものがあった。第2期JBGのメンバーはプロフェッショナルすぎて演奏にゆとりと円熟は感じるが、どこかスタジオ盤では力を出し切っていない様子があった。『Jeff Beck Group』発売翌月(リンク先の「71」はミスで、1972年6月が正しい)の、第1期と第2期のJBGの代表曲を網羅してさらにビル・ウィザースのカヴァーを含んだBBCイン・コンサートを聴けば、JBG#2のスタジオ盤2作はこのメンバーにとってデモテープ程度の演奏だったのがわかる。
 もちろんライヴだから不安定な箇所もなくはない。「New Ways / Plynth / Train Train」のメドレーではベックが合図になるアドリブ・フレーズを弾くまで様子見ムードになるし、名曲「Got the Feeling」で顕著だがボブ・テンチのヴォーカルのピッチが全体的に低い。楽器だったらチューニングをちょっと上げたいくらい微妙に低い。CDになってオリジナル音源はギターも実際は適正なバランスだったのが判明した。さすがBBCイン・コンサートだけあって録音もミックスも当時の正規ライヴ・レコーディングで通用するが、アナログ・ブートがギターの振られた左チャンネルをブーストしていたのもわかるようで、演奏メンバーのうまい演奏がピアノ、ベース、ドラムスとも分離の良い録音ではっきりとらえられていて、自然で好ましいミックスだがもう少しメリハリがついていたらなお良かった、と欲も出る。具体的にはコージー様のドラムスをもっとラウドにしてもベースやピアノとはかぶらなかったのではないか、とリクエストしたくなる。それと主役のベック様のギターだが、このライヴほど繊細さと暴力性、豪快さと抒情味の相反する要素が一気に爆発した演奏はスタジオ盤にはない。それはアナログ・ブートの極悪ミックスの方が良く出ていたように思える。なお現在このBBCイン・コンサートを聴くには、他2回の放送音源とカップリングした『Flying High』 (Grexit Records, GREX033, 2015)が最新で音質最高、データも正確でラジオ放送されなかった2曲も含んだ完全版になっている。ジャケットと1972年6月29日BBCイン・コンサートの全曲はこうなる。曲順もマスターテープによればこれが正しいらしい。

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Jeff Beck Group - Flying High (Grexit Records, GREX033, 2015)
Complete BBC In Concert, Paris Cinema, London, U.K., June 29th, 1972
1. Introduction
2. Ice Cream Cakes
3. Morning Dew
4. Going Down
5. Definitly Maybe
6. Tonight I'll Be Staying Here With You (Bob Dylan)
7. New Ways / Plynth / Train Train
8. Ain't No Sunshine
9. Got The Feeling
10. Let Me Love You (Jeffrey Rod aka Jeff Beck & Rod Stewart)

 ザ・フーの『Live at Leeds』やストーンズの『Get Yer Ya-Ya's Out』のように海賊盤が出回ったので正規ライヴ盤が発売された例は1970年代初頭からあり、1980年代末にフランク・ザッパの『Beat the Boots!』シリーズや、1990年代初頭のボブ・ディランの『The Bootleg Series』のように長いキャリアを持つアーティストが海賊盤と競ってアーカイヴ音源をリリースするのはごく一般的になっているが、ローリング・ストーンズジェフ・ベックピンク・フロイドなどのようにほとんど発掘音源を公式リリースしないアーティストもいる。この場合アンオフィシャル・リリースが膨大なのに公式リリースしない比率が高いほどリスナーの飢餓感は高くなるので、ベックの場合はストーンズやフロイドほどはブート音源は音源自体が少ないため比較的少ないのだが、ベックのブートの中には楽屋でギター練習している音源まである(カヴァーデイル-ペイジの来日公演からはローディがセッティングとサウンドチェックする様子をブート化したものまであったが)。BBCイン・コンサートなどは出しても構わなそうだが、ジェフ・ベックのアーカイヴ音源というと3枚組アンソロジー『Beckology』に数曲入っているくらいだろう。
 とにかく『Rough and Ready』と『Jeff Beck Group』が一気に霞むほど演奏のテンションが違う。名手マックス・ミドルトンやクライヴ・チェアマンなどスタジオ盤の「Got the Feeling」ではリハーサル録音レヴェルの演奏しかしていなかったのがわかる。何でこれほどのポテンシャルを持ったバンドがしょぼい(とあえて言う)スタジオ盤2枚しか残さなかったのか。それはジェフ・ベックがJBGでアルバム2枚作ったら解散してベック・ボガート&アピスをやるんだ、とさっさとかたづけたかったからだが、ライヴでは本気の演奏をしていたのがわかる。あと今さらだが、ベックのアメリカや日本での大人気はマイナー(短調)の曲が多いからだ。このライヴでも半数以上がそうで、普通短調の曲は1~2割しかないしジャズでもソウルでもロックでもポップスでも短調の曲ばかりやるのはださいのだが、ベックの場合は湿っぽくならないのでださくない。運動神経と感覚に優れているからだろうが、ベック級のスーパー・ギタリストでもついついギターを泣かせてしまうところを、そうはならない。もっとも90年代以降のベックはどんどん情感を削ぎ落とす方向に行って、70年代の適度な抒情味が懐かしくなりもする。しかしやはり、ベックほど前向きなアーティストはアーカイヴ音源など出さない見本なのだろう。前ばかり向いていないでたまには過去の業績も整理してほしいと思うが。