人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Pink Floyd - The Man and The Journey. live at Concertgebouw (September 17, 1969)

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Pink Floyd - The Man and The Journey. live at Concertgebouw (September 17, 1969) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLCAkKZORPupKVuuI8j3R24DKrWg528_zM
Recorded live at Concertgebow, Amsterdam, September 17, 1969
Released by Great Dane Records(Italy, unofficial) GDR 9207, January 1992
Reissued by Shout-To-The-Top, STTP207/208, 2002
[ The Man ]
1. Introduction & Daybreak (Grantchester Meadows/R.Waters) - 9:12
2. Work (R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 3:54
3. Teatime (R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 3:35
4. Afternoon (Biding My Time/R. Waters) - 5:14
5. Doing It (The Grand Vizier's Garden Party/N.Mason) - 4:04
6. Sleep (Quicksilver/R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 4:38
7. Nightmare (Cymbaline/R.Waters) - 9:15
8. Daybreak (part ll, Instrumental Reprise) - 1:22
[ The Journey ]
1. The Begining (Green is the Colour/R.Waters) - 4:56
2. Beset By The Creatures Of Deep (Careful with That Axe, Eugene/R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 6:28
3. The Narrow Way (The Narrow Way Part III/D.Gilmour) - 5:13
4. The Pink Jungle (Pow.R.Toc.H/S.Barrett, R.Waters, R.Wright, N.Mason) - 4:48
5. The Labyrinths Of Auximenes (Let There Be More Light//instrumental middle section from A Saucerful of Secrets/R.Waters//R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 6:39
6. Behold The Temple Of Light (R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 5:32
7. The End Of The Beginning (A Saucerful of Secrets, Pt. IV/R.Waters, D.Gilmour, R.Wright, N.Mason) - 6:55
(The Man And The Journey Run-Through Edition)
1. Pink Floyd - The Man (live at Concertgebouw, Amsterdam. September 17, 1969) - 41:07
2. Pink Floyd - The Journey (live at Concertgebouw, Amsterdam. September 17, 1969) - 40:27
[ Pink Floyd ]
David Gilmour - electric and acoustic guitars, percussion, vocals
Roger Waters - bass guitar, acoustic guitar, percussion, vocals
Richard Wright - organ, piano, mellotron, vibraphone, vocals
Nick Mason - drums, percussion

ピンク・フロイド幻の未発表アルバムのうち『The Man and The Journey』1969はもっとも初期のものでLP2枚組を想定した40分ずつの2部構成・組曲形式のコンセプト・アルバムであり、しかもバンド自身による完全版ライヴ全編が最上の演奏と音質でラジオ放送用音源に残されているので発掘レーベル各社からLP~CDリリースされている。ピンク・フロイドにとって組曲形式は初の試みで、『The Dark Side of the Moon』1973.3までここまで徹底した作品はなかった。その点でも、1980年代末~90年代初頭にオランダのラジオ局の再放送から明らかになった『The Man and The Journey』は多くのリスナーに驚きを与えた。
フロイドの未発表アルバムは4作、ないし3作あり、他は『The Dark Side of the Moon』発表後同年10月~12月にスタジオ録音されたが未完成に終わったミュージック・コンクレート(楽器を使わないサウンド・エフェクト作品)『Household Objects』(2011年の『The Dark Side of the Moon』『Wish You Were Here』Collector's Boxに1曲ずつ収められている)、海賊盤業者による1974年の11月19日公演から『Wish You Were Here』1975.9と『Animals』1977.1の発表前先行ライヴ音源をアルバム化した『British Winter Tour 1974』(15万枚の売り上げを記録)、本来『Final Cut』1983.3収録曲も含んで構想されたオリジナル・コンセプト版『The Wall』1979.11といったところだが、『Household Objects』は頓挫したのも無理のない発想だったし『British Winter Tour 1974』は単に大ヒットした海賊盤ライヴにすぎず、『The Wall』と『Final Cut』の分離が成功だったのは歴史が証明している。では、ライヴ完全演奏まで完成しながら未発表になった『The Man and The Journey』とはどういうアルバムだったのか。
(Unofficial Great Dean "Pink Floyd - The Man and The Journey. live at Concertgebouw" CD Liner Cover)

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 この『The Man and The Journey』は1969年4月14日のロンドン公演で初演され、リンクを引いた同年9月17日のオランダ公演の後は部分的に解体されて1970年1月公演までは組曲形式の痕跡を残すことになる。組曲は時間的都合から『The Man』からは抜粋・『The Journey』は完奏や、『The Man』『The Journey』とも抜粋の場合も多く、最後の完奏公演だったオランダ公演がラジオ局によって録音されていなければ完全版は後世に残らなかった可能性もある。フロイド側が放送用録音を許可したのは完全版を残す意図もあったのかもしれない。アナログ盤でちょうど2枚組相当に構成された『The Man and The Journey』だが、ライヴでは演奏しても当時はアルバム化の企画は通らない理由があった。バンド側の意図は組曲形式のコンセプト・アルバムだったが楽曲単位では既発表、または発売予定アルバムに分散収録されたものが大半だったことによる。1969年9月時点で既発表、または発売予定アルバムは、
*The Piper at the Gates of Dawn (1967.8)
**A Saucerful of Secrets (1968.6)
***More (soundtracks, 1969.6)
****Ummagumma (2LP, 1969.11)
*****Zabriskie Point (soundtracks, 1970.3)
******Relics (early compilation including unreleased tracks, 1971.5)
これを『The Man and The Journey』収録曲で見ると、以下のようになる。
"The Man" Suite
1. Daybreak (Grantchester Meadows)****
2. Work (musique concrete) unreleased
3. Teatime (musique concrete) unreleased
4. Afternoon (Biding My Time)******
5. Doing It (The Grand Vizier's Garden Party / Up the Khyber / Heart Beat, Pig Meat)****/***/*****
6. Sleep (Quicksilver)***
7. Nightmare (Cymbaline / including musique concrete)***
8. Daybreak / Part Two (instrumental reprise / The Grand Vizier's Garden Party)****/****
"The Journey" Suite
1. The Beginning (Green Is the Colour)***
2. Beset By The Creatures Of The Deep (Careful with That Axe, Eugene)******
3 . The Narrow Way / Part Three (The Narrow Way: Part 3)****
4. The Pink Jungle (Pow R. Toc H.)*
5. The Labyrinths Of Auximenes (Let There Be More Light / instrumental section)**
6. Befold The Temple Of Light (The Narrow Way: Part 2 / instrumental section)****
7. The End Of The Beginning (A Saucerful of Secrets, Pt. IV)**
(Unofficial Shout-To-the-Top "The Man Works Before the Afternoon" CD Front Cover)

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 1969年4月がこの組曲の初演というと『The Piper at the Gates of Dawn』1967.8、『A Saucerful of Secrets』1968.6の初期2作は発表済みであり、『More』(soundtracks, 1969.6)もサントラという性質上録音を急いだ(1969年2月~5月)ので、『The Man and The Journey』用の曲を『More』に転用したかその逆か、どちらにせよ新曲の成立時期は同じになる。『Ummagumma』(2LP, 1969.11)に収録されることになった曲はアルバム先行ライヴになったわけだが、『Ummagumma』は1枚がライヴ、スタジオ録音の1枚がA面をリック・ライトとロジャー・ウォーターズ、B面をデイヴ・ギルモアとニック・メイソンがアルバムの1/4ずつソロ曲を持ち寄ってできた作品で、ライヴ盤は好評だがスタジオ盤は不評な異色作ながら全英5位を記録、次作『Atom Heart Mother』1970.10で初の全英No.1を獲得する布石になっている。凝りに凝った完成度の高いアルバムからは意外にも思えるが、ピンク・フロイドの人気はヘヴィな実験的ロックのライヴ・アクトというパフォーマンス面からの話題が大きく、ほとんど休みなしにアメリカ、ヨーロッパ諸国をツアーしながら国内ツアー中にニュー・アルバムを制作する慌ただしさで、『The Dark Side~』は全曲、『Meddle』1971.11や『Wish You Were Here』や『Animals』も主要曲はライヴ先行演奏で練り上げられたものだった。
フロイドは海賊盤先行流出を警戒して(現在はほとんどの大物バンドがそうしている)『The Wall』以降新曲のアルバム先行ライヴ演奏はしなくなる。が、フロイドの場合それはバンド内の力関係に悪く作用し、次作『Final Cut』はウォーターズが独断で解散アルバムと決めたものになり、ライヴも行われなかった。ウォーターズは40歳を期にソロ・アーティストへの転向を目指しており、同時期にミック・ジャガーローリング・ストーンズの活動を休止してソロ活動を試みている。ミックは5年後にストーンズの活動を再開したが、フロイドはといえば5年後にはウォーターズ抜きのメンバーがフロイドを復活させて、ウォーターズと泥沼の訴訟合戦を繰り広げることになった。『The Wall』制作中のライヴのブランク期間にウォーターズと他のメンバーの乖離が決定的になっていたのが原因だが、突然ライヴをやらなくなったのがバンドの結束を崩壊させたとも思える。
(Unofficial Shout-To-the-Top "The Man Works Before the Afternoon" CD Liner Cover)

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 この組曲を当時イギリスのロック界で流行したロック・オペラのひとつとしても、最大の成功をおさめたザ・フーの『Tommy』が1969年5月発売、それに先がけたボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドの『Gorilla』が1967年10月、スモール・フェイセズの『Ogdens' Nut Gone Flake』が1968年5月(全英No.1/アルバム片面)、ザ・プリティ・シングスの『S.F.Sorrow』が1968年11月(アルバム全編)で、この『S.F.Sorrow』が『Tommy』に決定的な影響を与えたとザ・フーピート・タウンゼント本人の証言がある。もっともブリティッシュ・ロック初のロック・オペラ曲はザ・フーのセカンド・アルバム『A Quick One』1966.12収録曲「A Quick One, While He's Away」で、9分11秒の6部構成の組曲になっている。ザ・フーは後続バンドにビートルズストーンズに次ぐ影響力を誇り、初期ピンク・フロイドにもザ・フーからの楽曲・アレンジ・演奏面での影響がうかがえる。またデイヴ・ギルモアはプリティ・シングスと親しく、1998年のプリティ・シングスの『S.F.Sorrow』の全曲再演スタジオ・ライヴ盤『Resurrection』にも参加しており、先行作として『Ogdens' Nut Gone Flake』や『S.F.Sorrow』を意識せずに『The Man and The Journey』のアイディアを得たとは考えづらい。
より直接的にはムーディ・ブルースの『Days of Future Passed』1967.11がコンセプト上の先例にもなっている。『Ogden』が一夜の男の夢の中の冒険、『S.F.Sorrow』が数奇な運命に生まれた男の成長(『Tommy』も同様)なら、『Days of Future Passed』はある男の一日を描いたコンセプト・アルバムだった。『The Man and The Journey』は第1部『The Man』である男の一日を描き、一日を終えて悪夢に迷い込むまでを描く。第2部『The Journey』は男が悪夢の中をさまよい続けるさまを描いて『Ogden』や『S.F.Sorrow』に近い趣向になる。時間的制約のあるステージでは『The Journey』の完全演奏を優先し『The Man』からは数曲の抜粋になるのが多かったというのは、音楽性はまったく違うが『The Man』はコンセプト上『Days of Future Passed』に似すぎていたからでもあるだろう。既発表曲のライヴ1枚・新曲のスタジオ盤1枚なら『Ummagumma』も『The Man and The Journey』と大差ないのだが、本格的なコンセプト・アルバムは『The Dark Side of the Moon』まで見送られた。だが『The Man~』で試みられたアルバム構成はより緊密なコンセプトで『The Dark Side~』に生きている。さすがだ。そして『The Dark Side~』はロックのコンセプト・アルバムの頂点に立っている。その原点がここにある。