人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Continuation (Saturn, 1970)

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Sun Ra - Continuation (Saturn, 1970) Full Album
Recorded at Choreographers Workshop, 1968. Side A recorded 1963, not 1968, at the Arkestra house in New York & Side B live at the Choreographer's Workshop (where they made the great 'Cosmic Tones for Mental Therapy').
Released by El Saturn Records ?ESR 520, 1970
All Composed by Sun Ra
(Side A)
A1. Biosphere Blues : https://youtu.be/3XjTO-ntVXA - 5: 06
A2. Intergalactic Research : https://youtu.be/auEoMTLNmUg - 8: 14
A3. Earth Primitive Earth : https://youtu.be/fPwRkUGwyUc - 3: 15
A4. New Planet (Complete Version) : https://youtu.be/tPobaZlUVEc - 4:52 (Originally Edited Version ; 3:08)
(Side B)
B1. Continuation To Jupiter Festival : https://youtu.be/phYHTuXI6js - 20:01
[ Sun Ra and His Astro-Infinity Arkestra ]
Sun Ra - Piano, Keyboards
Walter Miller - Trumpet
Ali Hasaan - Trombone
Marshall Allen - Alto Saxophone, Oboe, Percussion
Danny Davis - Alto Saxophone, Clarinet, Percussion
John Gilmore - Tenor Saxophone, Clarinet, Percussion
Pat Patrick - Baritone Saxophone, Clarinet, Percussion
Robert Cummings - Bass Clarinet
Ronnie Boykins - Bass
Tommy Hunter - Drums, Percussion
Art Jenkins - Vocals, Percussion

 サン・ラのアルバムを録音順にご紹介しているこのシリーズも、そろそろ第2期の締めくくりが見えてきました。第1期のサン・ラ・アーケストラはシカゴを拠点に活動していた時期で、ニューヨーク巡業の際に録音したアルバム(13)をきっかけにアーケストラはニューヨーク移住に動くことになります。アーケストラのアルバムで(1)~(13)のうち録音即発売されたのは(1)(2)(6)(13)の4枚しかなく、全米的にはまったく無名のローカル・バンドでした。
[ Sun Ra and His Arkestra 1956-1961 Album Discography ]
1. Jazz by Sun Ra (Sun Song) (Transition, rec.& rel.1956)
2. Super-Sonic Jazz (El Saturn, rec.1956/rel.1957)
3. Sound of Joy (Delmark, rec.1956/rel.1968)
4. Visits Planet Earth (El Saturn, rec.1956-58/rel.1966)
5. The Nubians of Plutonia (El Saturn, rec.1958-59/rel.1966)
6. Jazz in Silhouette (El Saturn, rec.& rel.1959)
7. Sound Sun Pleasure!! (El Saturn, rec.1959/rel.1970)
8. Interstellar Low Ways (El Saturn, rec.1959-60/rel.1966)
9. Fate In A Pleasant Mood (El Saturn, rec.1960/rel.1965)
10. Holiday For Soul Dance (El Saturn, rec.1960/rel.1970)
11. Angels and Demons at Play (El Saturn, rec.1956-60/rel.1965)
12. We Travel The Space Ways (El Saturn, rec.1956-61/rel.1967)
13. The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy, rec.1961/rel.1961)
 ニューヨークに移住したサン・ラ・アーケストラは共同生活しアルバイトで生計を立てながら発表のあてのない自主制作アルバムを次々と録音、やがて中心メンバーへの注目からライヴ活動が少しずつ活発化し、1964年~1966年のライヴ活動がフリー・ジャズの興隆とあいまって話題になり、1965年のアルバム『The Heliocentric Worlds of Sun Ra』で国際的な注目を集めます。1970年からはヨーロッパのレーベルからも新作の依頼が寄せられるバンドになるので、1969年まででニューヨーク進出の第2期は目的を達成したと言えるでしょう。
[ Sun Ra and His Arkestra 1961-1969 Album Discography ]
1. (14) Bad and Beautiful (El Saturn, rec.1961/rel.1972)
2. (15) Art Forms of Dimensions Tomorrow (El Saturn, rec.1961-1962/rel.1965)
3. (16) Secrets of the Sun (El Saturn, rec.1962/rel.1965)
4. (17) What's New? (El Saturn, rec.1962/rel.1975)
5. (18) When Sun Comes Out (El Saturn, rec.1963/rel.1963)
6. (19) Cosmic Tones for Mental Therapy (El Saturn, rec.1963/rel.1967)
7. (20) When Angels Speak of Love? (El Saturn, rec.1963/rel.1966)
8. (21) Other Planes of There (El Saturn, rec.1964/rel.1966)
9. (22) Featuring Pharoah Sanders & Black Harold (El Saturn, rec.1964/rel.1976)
10. (23) The Heliocentric Worlds of Sun Ra (ESP-Disk, rec.1965/rel.1965)
11. (24) The Magic City (El Saturn, rec.1965/rel.1966)
12. (25) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two (ESP-Disk, rec.1965/rel.1966)
13. (26) Nothing Is (ESP-Disk, rec.1966/rel.1970)
14. (27) Strange Strings (El Saturn, rec.1966/rel.1967)
15. (28) Batman and Robin - The Sensational Guitars of Dan and Dale (Tifton, rec.1966/rel.1966)
16. (29) Monorails and Satellites, volumes 1 (El Saturn, rec.1966/rel.1968)
17. (30) Monorails and Satellites, volumes 2 (El Saturn, rec.1966/rel.1967)
18. (31) Continuation (El Saturn, rec.1963, 1968/rel.1970
19. (32) A Black Mass (Jihad Productions, rec.1968/rel.1968)
20. (33) Atlantis (El Saturn, rec.1967-1969/rel.1969)
(Original El Saturn "Continuation" LP Liner Cover)

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 本作をご紹介すれば第2期サン・ラはあと2枚なのですが(前記リストのうち企画盤『Batman and Robin』は数曲しかご紹介できないため割愛しました)、サン・ラの場合データが不明だったり矛盾していたりで位置づけに困るアルバムも多いのです。日本語文献で書籍になっているのはジョン・F・ファディス『サン・ラー伝』、湯浅学『てなもんやサン・ラー伝』の2冊がありますが、どちらも巻末のディスコグラフィーは『てなもんやサン・ラー伝』の著者作成で、この2冊は索引も年表もない非常に不便な作りです。このブログは海外サイトではallmusic.com、discogs.com、rateyourmusic.comを参照しており、各サイトでは整合性がありますが別のサイトと照合すると矛盾が多く、結局英語版ウィキペディアを基準にしています。この『Continuation』は1968年録音のアルバムとされていますが、ウィキペディア自体にはアルバム解説が設けられておらず、アルバムの重要度の低さよりもアルバムのデータの信憑性や録音・リリースに諸説あることからアルバムの解説項目を見送ったと思われます。アルバムは1970年に、1968年録音作品として発売されたようです。だがメンバーや演奏からは少なくともアルバムA面は1963年録音のアウトテイクではないか、という説が立てられました。第2期アルバムの(5)~(7)、通算では(18)~(20)に当たる時期で、トミー・ハンター(ドラムス)の在籍が決め手になります。ではアルバムB面を占める大作「Continuation To Jupiter Festival」はどうかと言えば、ライヴ録音ということもあって『The Heliocentric Worlds~』以降のアブストラクトなサウンドよりライヴ盤『Nothing Is』の豪快な音に近く、スタジオ盤では1962年にはすでに『Nothing Is』につながっていくサウンドを確立させていました。
 CD化が遅れていた本作ですが、2013年には完全未発表曲をCD1枚分収めた完全版というべきエディションが発売されました。ディスク1はオリジナル盤の復刻、ディスク2にはアルバム1枚分の未発表曲を収め、録音年月日は1963年3月10日とはっきり特定しています。ではオリジナル盤が1963年録音のままかというと、リリース段階で曲の差し替えやリミックス、編集が行われている可能性は否定できない。おそらく1968年作品という根拠はそこで、1963年録音の未発表テイクからアルバム用のマスター・テープに編集したのが1968年なのでしょう。このアルバムはB面の大作はもちろん、A面の4曲もどこかしら編集で細工されたような唐突な展開が聴けます。A4などリンクは4分52秒の未編集版ですが、オリジナル・アルバムでは3分08秒に編集されているのです。
Continuation (2CD Reissue)
Released by Corbett vs. Dempsey CvsD CD009, 2013
Disk One / Original Album
Disk Two / Unreleased Tracks
Recorded March 10th, 1963, Choreographer's Workshop, New York City.
1. Blue York : https://youtu.be/WJTaHnKgSsI - 2:49
2. Meteor Shower : https://youtu.be/Wc-ZiSuCFxg - 3:30
3. The Myth : https://youtu.be/lPBjYjjiA7U - 4:05
4. Ihnfinity : https://youtu.be/clFzTOC4B5I - 2:49
5. Conversation Of The Universe : https://youtu.be/EDrBv1E9Hgw - 3:56
6. The Beginning Of : https://youtu.be/n_1HivqOZ_E - 3:43
7. Endlessness - 4:37 *no links
8. Red Planet Mars - 4:54 *no links
9. Cosmic Rays / The Next Stop Mars : https://youtu.be/283gspeqhqw - 9:45
 また、本作はサターン・レーベル作品中でも別ジャケットの異様な多さで知られます。記事冒頭に上げたのがもっとも正式なジャケットらしいのですが、以下代表的な別ジャケット(もっとあるらしい)を列挙してみましょう。
(Original El Saturn "Continuation" Alternate LP Front Cover)

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(Original El Saturn "Continuation" LP Side A & B Label)

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 60年代サン・ラ・アーケストラのアルバムでは復刻が遅れたこと、またアルバムの位置をどの年度に置いて聴くべきかいまだに混乱していることもあり、本作の評価は定まっていません。A面は基本的に4ビート・ジャズでバリトンサックスがグロウルするブルースのA1はピアノまで酒場風ですが、A2では一転してヴォイスとパーカッション・アンサンブルにスペーシーなノイズ・オルガンとエレクトリック・ピアノが鳴り響き、アヴァンギャルドな演奏に聴こえますがこれも4ビートが底流に流れています。アート・ジェンキンス(ヴォイス)参加ならば1968年録音か、ヴォイスのみオーヴァーダビングかもしれません。楽器不明のスクラッチ音をパーカッションにしてピッコロ(マーシャル・アレンでしょう)がエキゾチックなオブリガードを吹くA3はそのままバス・クラリネットとの二重奏にパーカッシヴなピアノのオスティナート、リズム・ブレイクには過剰にエコーをかけたピアノが鳴り響くA4に続きます。このA面の流れは非常にスムーズで、絶頂期の名作にひけをとらず、1965年~1966年の実験的アルバムの後でなければ4ビートへの回帰も気づかなかったかもしれないくらいです。
 B面はおそらく非常に細かく編集されたライヴ音源で、ホーン全員のトゥッティからピアノのピックアップ・ソロになり、トランペットのソロからはベースとドラムスが4ビートを刻みますがアクセントが不規則で、ホーンのアンサンブルの後でブレイクしベースのピックアップ・ソロになりますが明らかに編集の痕があります。ベース・ソロの後半からメンバー全員による曲名(「Jupiter Festival」)の短い合唱があり、さらにブレイクしてテナーサックス・ソロになりますがテンポは維持しながら4ビートそのものは完全に崩しており、サン・ラのピアノもアグレッシヴでサックスとピアノのバトル状態になります。サン・ラが引っ込みテナー・ソロが締めると無伴奏のサックス陣のトゥッティになり、サン・ラがピアノで先に合唱されたバンド・テーマを提示するとメンバー全員による集団即興による終結部がヴォリュームを上げながら迫ってきてパルス・ビートが続き、唐突に終わります。オリジナルLPではベース・ソロのブレイクまでを「Continuation To」8:42、後半を「Jupiter Festival」11:07と2曲に分けているプレスもあるようです。こうしてアンサンブル・オーダーを追って聴くと良いアルバムじゃないかと感心してしまいますが、B面の大作は60年代サン・ラの掉尾を飾る名作『Atlantis』B面全面のタイトル曲の原型で、『Atlantis』の高評価のため割を食った観はあります。こういう埋もれたアルバムもさりげなく秀作だったりするからサン・ラは油断がなりません。