人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Atlantis (Saturn,1969) (旧稿)

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Sun Ra - Atlantis (Saturn,1969) Full Album : http://youtu.be/uVWlA01u-7I
Recorded in between 1967 to 1969
Released by El Saturn Records ESR-507, 1969
Reissued by ABC Records/Impulse! AS-9239, 1973
All Compositions by Sun Ra
(Side A) :
A1. Mu - 4:30
A2. Lemuria - 5:02
A3. Yucatan - 5:27
A4. Bimini - 5:45
(Side B) :
B1. Atlantis - 21:51
[ Sun Ra and his Astro-Infinity Arkestra ]
Sun Ra - Solar Sound Organ (Gibson Kalamazoo Organ & Clavione) (B1), Solar Sound Instrument (Hohner Clavinet) (A1-4)
John Gilmore - Tenor Saxophone (A1-2), Percussion (A3-4, B1)
Pat Patrick - Baritone Saxophone, Flute,Percussion (A4, B1)
Marshall Allen - Alto Saxophone, Oboe,Percussion (A4, B1)
Danny Thompson - Alto Saxophone, Flute (B1)
Bob Barry - Drums, Lightning Drum (A1-4, B1)
Wayne Harris - Trumpet (B1)
Ebah - Trumpet (B1)
Carl Nimrod - Space Drums (B1)
James Jacson - Log Drums (A4, B1)
Robert Cummins - Bass Clarinet (B1)
Danny Davis - Alto Saxophone (B1)
Ali Harsan - Trombone (B1)

 これは今続けているサン・ラ全アルバム紹介に先立って1年半前に掲載した単発のアルバム紹介の再録です。1960年代サン・ラの掉尾を飾る名盤『Atlantis』は1961年末のニューヨーク進出以来ほぼ20作目に当たり、1956年のアルバム・デビューからはほぼ30作目~35作目になります。ほぼ、というのは60年代までのサン・ラのアルバムは自主レーベルのサターンからの発売(後にメジャー傘下のインパルスより再発)が多く、録音年度が不確かだったり後年の発掘作や企画盤的性格も多いので正確に制作・発売順を特定できないのです。
 確かなのはこの『Atlantis』で60年代のサン・ラは総決算を仕上げ、1970年からのアルバムに入ることで、本作でひとまず「シカゴ時代・1956-1961」と「ニューヨーク進出時代・1961-1969」は締めくくられます。再録する拙文はまだサン・ラの本作までの歩みを十分に咀嚼しておらず、サン・ラの楽歴における『Atlantis』の位置に焦点が絞れていません。30作あまりをご紹介した現在改めて書き直したいと思いますが、それは次回で新規に『Atlantis』を取り上げることとし、今回は旧稿を再録して概説を再検討するよすがにしました。事実誤認は訂正しましたが基本的には再録ですので、次回の新規書き下ろし紹介文に免じてご容赦いただければ幸いです。
(Original El Saturn "Atlantis" LP Alternate Front Cover)

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 チャールズ・ミンガスの音楽が受け入れられるようになったのはアメリカ本国では数年間の活動休止期間を経た1970年代になってからで、60半ばまでのミンガスは難解な実験ジャズとしてジャズクラブからは敬遠され、ライヴの場はフェスティヴァル出演や自主コンサート、大学の学園祭くらいしかなかった。ミンガスの音楽はレコードを通して熱心に聴かれていたヨーロッパや日本での人気の方が高く、64年のヨーロッパ・ツアーはほぼ全公演がラジオやテレビ放送用に録音記録があるほどだったが、この時のミンガスのレギュラー・バンドはアメリカでは自主コンサートと学園祭出演しか果たせなかった。ミンガスのロサンゼルスからニューヨークの進出は1953年だったが、第一線の一流ジャズマン=バンドリーダーと認知されるまでは20年近くを要したのだった。
 一方、シカゴでは地元だけを活動範囲に絶大な支持を集め、ローカルのカリスマ・バンドになっている謎の集団があった。アルバムも1956年から毎年のように出している。奇しくもミンガス最初の傑作アルバムはアトランティックからの56年作『Pithecanthropus Erectus』だった。ただしシカゴのバンドは地元から出てこないし、アルバムは出るたびに異なる弱小インディーズからの発売で実態がよくわからない。シカゴはニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ大都市だから、ニューヨークやロサンゼルスのジャズマンたちもシカゴにツアーに行く。するとシカゴの黒人ファンが口を揃えて主張するには、最高のバンドはサン・ラ・アーケストラだ、という。それでシカゴ滞在中にサン・ラのライヴを見てきたジャズマンの間でいつしかサン・ラは伝説的存在になった。
(Original El Saturn "Atlantis" LP Liner Cover)

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 サン・ラ(太陽神)、本名ハーマン・ブロウント(1914~1993)はシカゴでメンバーたちのコミューン生活に君臨するバンドリーダーでピアニスト=作曲家であり、ジャズマンとしての初録音は1933年にさかのぼる大ヴェテランだった。芸名をサン・ラと名乗り、ビッグバンドはノアの箱舟(アーク)とかけてアーケストラとする。サン・ラ・アーケストラは宇宙音楽を演奏するバンドであって、宇宙規模の視点では地球人に白人も黒人もない、というメッセージがサン・ラを黒人リスナーのヒーローにした。サン・ラ自身は自分の音楽の政治性は重要ではないとするが、ジェイムズ・ブラウンパーラメント、ナイジェリアのフェラ・クティ、白人ロックだがフランク・ザッパなどは組織的レベル(Rebel/反体制的)・ミュージックとしてサン・ラの同時代人、または後継者になる。サン・ラがいなくてもJBやザッパは出てきただろうが、フランスのマグマや日本の渋さ知らズなどは直接的影響下にある。
 サン・ラのバンドがニューヨークに進出してきたのは1961年で、オーネット・コールマンの登場でいわゆる「フリー・ジャズ」に耳目が集まったことによる。だがフリー・ジャズとは特定の音楽傾向を表すものではなく、サン・ラの音楽はオーネットとはずいぶん違っていた。統率された集団即興としてはミンガスと比較されるが、サン・ラはミンガスよりも10歳近く年長になる。だが70年代にはむしろサン・ラの存在感の方がより若々しかった。
(Reissued ABC Records/Impulse "Atlantis" LP Alternate Front Cover & Liner Cover)

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 サン・ラはライヴ会場の手売りや通販に自主レーベル「サターン」を持ち、軽く100枚を越えるアルバムには同一音源の編集版と完全版があったり、曲がりなりにもインディーズであれば録音記録くらいは残っているのだがサターンからの自主制作盤は録音日時も発売日も不明になっているものが多い。アメリカ版ウィキペディアによると、この『アトランティス』旧B面全面を占めるタイトル曲は1967年のアフリカ文化会館、通称オラトゥンジ(ナイジェリア出身の黒人思想家・社会活動家・民族音楽家)の黒人文化会館でのコンサートからで、このオラトゥンジ会館の設立に尽力したのが晩年のジョン・コルトレーンで、こけら落としに演奏した1967年4月23日がコルトレーンの最後の演奏になり、3か月後コルトレーンは胃癌の急速な悪化で逝去する。コルトレーンはサン・ラに敬意を払っていたが、サン・ラに言わせればコルトレーンはサン・ラ・アーケストラの音楽的アイディアをパクったそうだからなにをか言わんや。コルトレーンの最後のライヴは30年経って録音テープがCD化されたが、まさかサン・ラの出演と同日だったりはしないだろうか。当時の注目からすれば少なくともコルトレーンも観客だったのは間違いない。
 この出演は大変好評で、70年代にサン・ラがアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(人脈的にはサン・ラの弟子筋だがコンセプトははっきり実験的なバンドだった)や、やや遅れるがフェラ・クティらとともにヨーロッパ各国のジャズ・フェスティヴァルに常連で招聘される足がかりになった。アート・アンサンブルやフェラ・クティはサン・ラより25歳近く若いのだから、サン・ラは一世代遅れてトップランナーになった、あまり他に例のないタイプのミュージシャンとも言える。
(Original El Saturn "Atlantis" LP Side A & Side B Label)

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 サン・ラの代表作はデビュー作『Jazz by Sun Ra』1956、ニューヨーク進出に伴い本格的にアーケストラの方向性を打ち出した『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1961、新興フリー・ジャズ・レーベルESPからのリリースで一層大胆なサウンドに踏み込んだ『The Heliocentric Worlds of Sun Ra』1965とライヴの熱狂をとらえた『Nothing Is』1966、70年代には代表曲で固めエレクトリック色を増して完成度が高い『Space Is The Place』1972、『Cosmos』1976があり、遺作『プレイアデス』は享年1993年のリリースだった。アメリカ版ウィキペディア引用の作品評価はロック系はローリング・ストーン誌に、ジャズ系はallmusic.comに丸なげの感があるが、同サイトの評価では上記の作品はすべて★★★★1/2以上のアルバムになる。
 サン・ラ全アルバムで★★★★★は『The Heliocentric Worlds~』と『Atlantis』『Space Is The Place』の3作が上げられている。もっともallmusic.comの評価は日本での評価とはかなり異なり、ミンガスなどは日本では屈指の傑作とされる『Charles Mingus Presents Charles Mingus』1960がインディーズ作品だからか★★★、ミンガスの★★★★★は『Pithecanthropus Erectus』、『The Clown」1957、『Blues & Roots』1959、『Mingus Ah Um』1959と『Mingus Oh Yeah!』1961、『Tijuana Moods』1962、『Black Saint and Sinner Lady』1963、『Mingus Mingus Mingus Mingus Mingus』1963に『The Great Concert of Charles Mingus』1964で、このうちインディーズ作品は3枚組のライヴ大作『The Great Concert~』が例外的に高い評価を受けている他はメジャーからの作品で占められている。アメリカ本国で広くインパクトを与えたのはやはりメジャー流通作品なんだな、と思わせられる。
 この『Atlantis』は1969年にサターン・レーベルから発売された後、1973年にメジャーのABCレコード傘下のジャズ・レーベル、インパルスから再発売された。その際「Yukatan」1曲がショート・ヴァージョンに差し替えられている。アナログ盤A面はエレクトリック・ピアノ、テナーサックス、ハンド・ドラムスのトリオで(4曲目のみパーカッション増員)、こんなに変なエレクトリック・ピアノの音は聴いたことがない。ハープシコード系の音色をプリセットしてあるのだろうが、下手くそなギターのように聞こえる。テナーのギルモアのプレイも異常なピッチとフレーズを形成しないフレーズでこれまでにないスタイルを打ち出しており、ジャズのサックス演奏でリスナーが予想するあらゆるパターンから逸脱しているのがすごい。フリー・ジャズ風ですらない。
 B面はエレクトリック・オルガンの乱れ弾きが延々続き、終わり近くになって管楽器が4音の下降フレーズをモチーフにして荒れ狂う。やがてオルガンのフレーズをきっかけに管楽器が止み、オルガン伴奏でメンバーたちによる短い唱和があり、タイトル曲は終わる。
 A面もB面の手法は違うが、方法としてはミニマリズムになるだろう。後にサン・ラはそれをディシプリンと呼ぶ(キング・クリムゾンより10年早い!)のだが、ミニマリズムがファンクと近いのはフェラ・クティの音楽にも現れているし、トーキング・ヘッズの『Remain In Light』1980やキング・クリムゾン『Discipline』1981につながっていく。ただしフェラ・クティジェイムズ・ブラウンのファンク~ブラック・ロックからの影響力がはるかに強く、『Atlantis』だけ聴いてロックとの音楽的関連は感じられないかもしれない。ただしタイトル曲終盤の合唱パートを聴いてフランスのカルト・バンド、マグマを連想しないリスナーはいないだろう。最後に★★★★★をつけた音楽サイトから要領をえた解説を引用して参考にしたい。

allmusic.com rating ★★★★★
Review by Lindsay Planer
Featuring the Astro Infinity Arkestra, Atlantis reveals two very distinct sides of Sun Ra's music. The first consists of shorter works Ra presumably constructed for presentation on the Hohner clavinet. Not only is the electric keyboard dominantly featured, but also it presumably offered Ra somewhat of a novelty as it had only been on the market for less than a year. The second side consists of the epic 21-minute title track and features an additional seven-man augmentation to the brass/woodwind section of the Astro Infinity Arkestra. Tracks featuring the smaller combo reveal an almost introspective Arkestra. The stark contrast between the clavinet -- which Ra dubbed the "Solar Sound Instrument" -- and the hand-held African congas on "Mu" and "Bimini" reveal polar opposite styles and emphasis. However, Ra enthusiasts should rarely be surprised at his experiments in divergence. "Mu" is presented at a lethargic tempo snaking in and around solos from Ra and a raga-influenced tenor sax solo from John Gilmore. "Bimini" is actually captured in progress. The first sound listeners hear is the positioning of the microphone as a conga fury commences in the background. Likewise, on "Yucatan (Impulse Version)" a doorbell quickly impedes what might have been a more organic conclusion to the performance. The original issue of Atlantis was on the small independent Saturn label. Thus the composition titled "Yucatan (Saturn Version)" appeared on that pressing. When the disc was reissued in 1973 on Impulse!, the track was replaced by a completely different composition -- as opposed to an alternate performance of the same work. The second side contains one of Ra's most epic pieces, which is free or "space" jazz at its most invigorating. While virtually indescribable, the sonic churnings and juxtaposed images reveal a brilliant display of textures and tonalities set against an ocean of occasional rhythms. Its diversity alone makes this is an essential entry in the voluminous Sun Ra catalog.