●9月1日(木)
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『出稼ぎ野郎』(西ドイツ'69)
・かつての悪評が近年劇的に逆転したのも当然という気がする。感覚が瑞々しく才気に溢れ、しかもこの頽廃した逼塞感は21世紀にようやく観客に届いたということだろうか。
●9月2日(金)
ヴェルナー・シュレーター『ボンバーパイロット』(西ドイツ'70)
・演劇出身のファスビンダー、またダニエル・シュミットがこの同年生まれの生粋のインディペンデント映画作家に触発されたのがよくわかる。キャストまで共通している。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『悪の神々』(西ドイツ'70)
・初期3作『愛は死より冷酷』『出稼ぎ野郎』『悪の神々』は半年間の作品だが、24歳でこの3部作の作風確立はやはりすごい。
●9月3日(土)
アラン・タネール『どうなってもシャルル』(スイス'70)
・無字幕輸入DVDしか手に入らなかったが学生時代に英語字幕版で観た記憶で追える。スイスのゴダール、タネール長編第1作の秀作。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『アメリカの兵隊』(西ドイツ'70)
・初期3部作をさらに荒唐無稽に推し進めた快作にして怪作。60年代鈴木清順映画みたい。
ジョン・ヒューストン『マルタの鷹』(アメリカ'41)
・いつの間にか地上波はカラー映画しかやらなくなってしまった。テレビ放映で観た記憶では大した印象はなかったが、観直すとさすが大器ヒューストン監督デビュー作。一躍ハンフリー・ボガートの出世作になったのも当然か。
●9月4日(日)
ロベルト・ロッセリーニ『アモーレ』(イタリア'47/'48)
・アンナ・マニャーニの演技は圧倒的だが本作は特に宗教的題材が日本人の膚に合わないイタリア映画の観あり。フェリーニ脚本エピソードはもろ『道』の原型なのが見どころ。
ジャン・コクトー『オルフェ』(フランス'50)
・文学が本職ならではの気取りはあるが演出も玄人はだし、ちゃんと娯楽映画になっている。
エドウィン・L・マリン『拳銃の町』(アメリカ'44)
・ジョン・ウェインが好演のミステリ味もある西部劇の快作で監督の手腕も上乗、封切り当時日本で大ヒットしたのも納得の痛快活劇。
●9月5日(月)
ジョージ・ローン・タッカー『暗黒街の大掃蕩』(アメリカ'13)
・1913年はアメリカ映画の長編化元年で、タッカーは現存作品がこれ1本しかないサイレント期の鬼才。北欧系移民の人身売買という題材で大ヒットしたらしい。ドキュメンタリー的迫力が生々しい犯罪スリラーで、他作品の散佚が口惜しい。
ハワード・ホークス『赤い河』(アメリカ'48)
・貫禄の名作で、牛の運搬西部劇が面白くならない訳ないが、ジョン・ウェインとモンゴメリー・クリフトの世代交代ドラマ部分はやや冗漫な印象で、人間ドラマか西部開拓史に焦点を絞ってあればなお良かった。
E・A・デュポン『ヴァリエテ』(ドイツ'25)
・志賀直哉の短編「范の犯罪」と同じ話。サイレント表現主義の過剰演出を免れたシンプルな佳作だが、志賀直哉の勝ち。
ジェームズ・エドワード・グラント『拳銃無宿』(アメリカ'47)
・これもジョン・ウェイン西部劇で水準はクリアしているが『拳銃の町』よりは落ちるか。
●9月6日(火)?
D・W・グリフィス『散り行く花』(アメリカ'19)
・古典中の古典。その割には60分版、75分版、90分版の3種が乱発され初めて90分版を観たが、短縮部分は冒頭30分に集中しているのを確認。75分版の編集が適度だと思うが、画質は90分の完全修復版が抜群に良い。もっとも90分版は序盤がかなり冗長なのが痛し痒し。
チャールズ・グッゲンハイム/ジョン・スティックス『セントルイス銀行強盗』(アメリカ'59)
・スティーヴ・マックイーンの初期主演作でドキュメンタリー風犯罪サスペンスの佳作。地味だが丁寧な演出でなかなかの観応え。
ジョン・ヒューストン『黄金』(アメリカ'48)
・ヒューストンは格で言えば黒澤明と同等くらいの監督と思うが、黒澤に稀薄でヒューストンに豊富なのは乾いたユーモアだろう。この作品も殺伐とした話なのに嫌みがない。
●9月7日(水)
ジョン・フォード『アパッチ砦』(アメリカ'48)
・いわゆる「騎兵隊3部作」の第1作で、ジョン・ウェインとヘンリー・フォンダが競演。フォンダが憎まれ役なのが珍しい。
F・W・ムルナウ『最後の人』(ドイツ'24)
・ドイツの表現主義サイレント映画の到達点。技巧は驚異的だが老人の悲哀という題材は夭逝の天才監督とはいえ観念的で掘り下げが浅い感じもするが、さすがにそこまでは無理か。
ハワード・ホークス『紳士は金髪がお好き』(アメリカ'53)
・マリリン・モンローと同格の主演はジェーン・ラッセル。ローレン・バコールが相方で原作の出来が勝る分モンロー映画では『百万長者と結婚する方法』(ジーン・ネグレスコ, 1953)の方がバコールとの対照が生きている。
●9月8日(木)
トーマス・H・インス/レジナルド・バーカー『イタリア人』(アメリカ'15)
・プロデューサーのインスのクレジットのみで監督バーカーはノン・クレジットのサイレント長編創始期のリアリズム映画。イタリア系移民一世の労働者を描いて、初期サイレント長編(1910年代!)には移民ものというジャンルに観客のニーズがあったのが興味深い。
ルパート・ジュリアン『オペラ座の怪人』(アメリカ'25)
・監督ジュリアンはシュトロハイム『グリード』1923の短縮版編集に関わったほどで職人監督の手腕を買われた人らしく、本作もコンパクトなまとまり。DVDは75分版と107分版、部分カラー撮影版(舞踏会シーンの10分間)と完全B/W版、サウンド版と完全サイレント版が乱発されており、これは部分カラー版(1925年のカラー映像!)でないと感じが出ない。
ジョン・フォード『三人の名付親』(アメリカ'48)
・何度も再映画化されている定番ネタで善良な悪漢という設定は古風だが、同じ西部劇でもフォード同時期の騎兵隊ものより親しみやすい。
●9月9日(金)
D・W・グリフィス『アッシリアの遠征(ベッスリアの女王)』(アメリカ'14)
・公開が2年遅れたグリフィスの初長編は次作・次々作『国民の創生』『イントレランス』の原型とも習作とも言えてプロットも単純、単独作品としてはまだ物足りない。
ジョン・フォード『黄色いリボン』(アメリカ'49)
・騎兵隊もの中珍しいカラー作品なのが嬉しい。今回の作風は割と淡泊。
マーク・ロブスン『チャンピオン』(アメリカ'49)
・カーク・ダグラスの出世作で低予算映画のヒット作。ロブスンは意外にゴダールが賞賛していたりする堅実で小粒な監督で、戦後デビューならではの刹那感もある。
●9月10日(土)
ジョセフ・フォン・スタンバーグ『紐育の波止場』(アメリカ'28)
・同年のムルナウ『サンライズ』にちょっと似ている。トーキー第1作『嘆きの天使』1930、第2作『モロッコ』1930と同じ監督とは思えないくらい毎回作風が異なるのが面白い。
ジョン・フォード『リオ・グランデの砦』(アメリカ'50)
・騎兵隊3部作は好きずきだろうがドラマ性は後になるほど薄れる感じ、その代わり本作はアクション度が高いのが特色。好みなら『アパッチ砦』だが、一般的には『黄色いリボン』、次いで本作だろう。
ジョン・ヒューストン『アスファルト・ジャングル』(アメリカ'50)
・無名時代のマリリン・モンローがチョイ役出演。ヒューストンのこの辺の作品は初期のキューブリックにつながる。そういえば最初から悪党の仲間割れ劇が上手いのも世代が若い。
●9月11日(日)
ロベルト・ロッセリーニ『火刑台上のジャンヌ・ダルク』(イタリア/フランス'54)
・ドライヤー『裁かるるジャンヌ』1928、ブレッソン『ジャンヌ・ダルク裁判』1962とつい比較してしまうが、本作はあくまでアルチュール・オネゲルの同名オラトリオの映画化。これはついていける観客が少ないだろうと心配になる映画で、今なお不人気なのではないか。
溝口健二『祇園の姉妹』(第一映画'36)
・現存プリントは2割方カットされているらしいが気にならない。日本映画の頂点に立つ圧巻の名作。冒頭の横移動長回しから全編息が抜けないが、このレヴェルの作品が溝口には10本以上あるのだから凄まじい。
フランク・ボーゼージ『戦場よさらば』(アメリカ'32)
・ヘミングウェイの原作が大した作品とは思わないが、原作のメロドラマ的大筋のみを抽出したシナリオ。これではゲーリー・クーパー主演も魅力がない。もっとも原作通りの人物像だったらなおさら反感を買うキャラクターだが。
●9月12日(月)
D・W・グリフィス『世界の心』(アメリカ'18)
・第1次世界大戦を早くも描いた力作でストーリーは図式的だが、リリアン・ギッシュの魅力で佳作になっているのが見所。グリフィス映画の場合はそれで十分。
ロベルト・ロッセリーニ『殺人カメラ』(イタリア'48/'52)
・イタリア版『DEATH NOTE』で、撮した相手を殺せるカメラを入手した写真館主人が田舎町の悪人を浄化していく話。こんな変な映画も作るからロッセリーニは喰えない。
溝口健二『浪華悲歌』(第一映画'36)
・こちらが『祇園の姉妹』より先で甲乙つけ難い。プロットの直進性と訴求力では本作、多層性と哀感では『祇園の姉妹』か。山田五十鈴のヒロイン像は本作の方が印象強い。
●9月13日(火)
溝口健二『名刀美女丸』(松竹京都'45)
・溝口は敗戦直前の昭和20年前半には本作と『宮本武蔵』があるが、ボロボロの『宮本武蔵』と較べると本作はまだしも見所あり。その分、苦し紛れにまとめた感じもなくはないが。
ウィリアム・ワイラー『探偵物語』(アメリカ'50)
・巧みな室内劇で、全編が警察署の1室で展開される。そつない所が唯一の欠点と言えるほど。昔の映画は死亡フラグの立て方が小癪なほど上手く、映画の手本みたいなものか。カーク・ダグラスなんか出てきただけで死亡フラグが立っている。
大島渚『飼育』(パレスフィルム/大宝'61)
・今年初め観たばかりだがまた観たくなった。大江健三郎原作だがシナリオは武田泰淳的。三國連太郎が良い所をみんな持って行き、原作の設定が形骸化した。作り手の意図から外れて異色作になった際どい成功作。
●9月14日(水)
D・W・グリフィス『幸福の谷』(アメリカ'19)
・犯罪サスペンス的なサブプロットがあったのをすっかり忘れていたので、記憶との違いにとまどう。グリフィスはそのつもりだろうが、これってハッピーエンドと言えるのだろうか?
大島渚『天草四郎時貞』(大映京都'62)
・以前観て全然駄目だったからなるべく好意的に観たが、力作はわかるが考えすぎの失敗作、しかも大失敗なのには同情する。また間を置いて観るつもり。
ウィリアム・A・ウェルマン『男の叫び』(アメリカ'53)
・ジョン・ウェイン主演の遭難サヴァイヴァル映画。ウェルマンはジョン・フォードよりハワード・ホークスに近いが、本作は特にホークスっぽく満足度も高い。
エドガー・G・ウルマー『鎖につながれた女たち』(アメリカ'43)
・B級映画の帝王による先駆的な女囚映画(正確には更生施設で、ヒロインは女性教員だが)。70分程度の尺数をきびきび進む展開が小気味良く低予算がまるで気にならない。
エドガー・G・ウルマー『青ひげ』(アメリカ'44)
・10年越しの企画だったという変質的連続殺人鬼(美女専門)のサイコ・サスペンスでウルマー代表作の一つ。優男かつ殺人鬼役のジョン・キャラダインが抜群にはまった名演。
●9月15日(木)
エドガー・G・ウルマー『奇妙な幻影』(アメリカ'45)
これもサイコ・サスペンスの一種か。妄想と正夢から近親者の犯罪に気づく青年に迫る危機。ヒッチコック『白い恐怖』と同年の作品だが悪夢度はこちらに分があるかも。
ジョン・フォード/グレッグ・トーランド『真珠湾攻撃』(アメリカ'41)
・フォードが専属カメラマンのトーランドと共同監督した国防省依頼作品。プロパガンダ映画として観ると気詰まりだが昭和16年のハワイを描いたドキュメンタリーとしては抜群に面白い。ハワイはアメリカの誇る植民地であって、真珠湾攻撃への反応が9.11と同等以上の衝撃だったのがよくわかる。
ヘンリー・ハサウェイ『ナイアガラ』(アメリカ'53)
・スケールも切れ味も盟友ホークスに及ばないが手堅い腕前のハサウェイ、本作はブレイク直前のマリリン・モンローが悪女役の犯罪スリラーをナイアガラ・ロケのカラー撮影で見せる。いわゆるモンロー・ウォーク最初の演技はこの映画になるらしいが、まだクネクネ度は薄い。サスペンス映画としては水準作で、手応えはあまりないが楽しめる。?