人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

フード・ブレイン Food Brain - 晩餐 Social Gathering (ポリドール, 1970)

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フード・ブレイン Food Brain - 晩餐 Social Gathering (ポリドール, 1970) Full Album : http://youtu.be/DKeQi0VLpro
Released by Polydor ?Records Polydor - MP 2100, September 10, 1970 (Japan) also German Polydor 2310 072, 1970
Produced by Hiro Yanagida, Ikuzo Orita & Shinki Chen
(Side A)
A1. ウィル・ザット・ドゥ That Will Do (Shinki Chen) - 9:12
A2. 禿山 Naked Mountain (Masayoshi Kabe) - 0:32
A3. M.P.B.のワルツ Waltz For M.P.B. (Hiro Yanagida, Masayoshi Kabe) - 3:45
A4. リヴァー・ジュース自動販売機 Live Juice Vending Machine (Masayoshi Kabe, Shinki Chen) - 3:21
A5. カバとブタの戦い The Conflict Of The Hippo And The Pig (Hiro Tsunoda) - 0:31
(Side B)
B1. 目覚まし時計 Clock (Hiro Yanagida) - 5:27
B2. 片想い One-Sided Love (Hiro Yanagida) - 0:48
B3. 穴のあいたソーセージ The Hole In A Sausage (Food Brain) - 15:03
B4. バッハに捧ぐ Dedicated To Bach (Shinki Chen) - 0:51
[ Food Brain ]
陳信輝 Shinki Chen - guitar
柳田ヒロ Hiro Yanagida - keyboards
加部正義 Masayoshi Kabe - bass
角田ヒロ Hiro Tsunoda - drums
with
村道弘 Michihiro Kimura - bass clarinet on B3

このアルバムは日本のストーナー・ロックの古典として国際的な評価が定着したものです。1970年の発売時にははっぴいえんどURC系の日本語フォーク/ロック勢に抗して音楽誌の年間ベスト・アルバム・ランキング上位に票を集め、またドイツでも同年発売されました。1970年のドイツといえばカン、タンジェリン・ドリーム、アモン・デュールII、グル・グルファウスト等強烈なアシッド・ロックのバンドがシーンを牽引しており、フード・ブレインのアルバムが発売されたのも自然な成り行きと首肯できます。もっともこのアルバムが本格的に、今度は評価の逆輸入によって知られるようになるには、1989年の初CD化を待たねばなりませんでした。discogs.comのコメントでは、このアルバムについて以下の解説があります。

Food Brain ?- Social Gathering
GENRE : Rock
STYLE : Psychedelic Rock, Prog Rock
YEAR : 1970
NOTE : 1970 LP by Japanese "all star" underground band. The original Japanese LP came in a gatefold with customary obi and insert. A very similarly packaged gatefold issue also came out on Polydor in Germany. There have been many reissues since 1989, most of them official and all from the master tapes.

1989年の初CD化は日本のポリドール・レコードからのものでしたが、人気に火がついたのは欧米のマニアからでした。CDがまもなく完売すると海外プレスの海賊盤がぞくぞく現れました。1970年当時にはフード・ブレインはドイツのロックの傾向からはややハード&ヘヴィ・ロックに傾き、プログレッシヴ・ロック色もあってオーソドックスに過ぎた、と言えるでしょう。1989年のCD化以降はちょうどスラッシュ・メタルグランジを経たストーナー・ロック(アシッド=ヘヴィ・ロック)のスタイルが台頭しており、ストーナー・スタイルの定着に従ってフラワー・トラヴェリン・バンドの石間秀樹ブルース・クリエイション竹田和夫とともに注目を集めたのがフード・ブレイン始めさまざまなバンド、セッションに顔を出していた中国系日本人ギタリスト・陳信輝(1949~・横浜生まれ)でした。フード・ブレインは全員が当時トップ・クラスにして最前線のプレイヤーでしたが、ストーナー・ロックの観点からは陳信輝の参加がもっとも大きな価値を持つのです。
(Original Polydor "晩餐 Social Gathering" LP Gatefold Inner/Liner Cover & Side A/Side B Label)

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 ストーナー・ロックの源流はブラック・サバス、ハイ・タイド、ホークウィンドといったイギリスのヘヴィ・ロック・バンドにありますが、石間秀樹竹田和夫がトニー・アイオミ(ブラック・サバス)を発展させたスタイルだったとすると別格的バンドでありギタリストとされる裸のラリーズ水谷孝はホークウィンドとの類縁性があり、陳信輝は石間、竹田よりも奔放なスタイルながら水谷よりハード・ロック、ヘヴィ・ロックに傾いている点で、スタイルを模索し続けていた観があります。陳信輝の在籍したバンド(またはセッション)と参加アルバムは以下のものがあります。オフィシャルにリリースされたものはこれで全部になります。

・パワーハウス ?- パワーハウス Powerhouse (Toshiba/Express ?EP-7714, April 1, 1969)
ザ・ゴールデン・カップス - スーパー・ライヴ・セッション (Toshiba/Capitol CPC-8009, August 1, 1969)
・フード・ブレイン Food Brain ?- 晩餐 Social Gathering (Polydor ?MP 2100, September 10, 1970)
・陳信輝 Shinki Chen & His Friends - SINKI CHEN (Polydor MR-5003, January 15, 1971)
・スピード・グルー&シンキ - 前夜 EVE (Warner/Atlantic P-8081A, June 25, 1971)
マンハイム・ロック・アンサンブル The Mannheim Rock Ensemble ?- Rock Of Joy (Columbia/Denon ?YS-10107-CT, 1971)
・スピード・グルー&シンキ - スピード・グルー&シンキ SPEED, GLUE & SINKI (2LP, Warner/Atlantic P-5045~6A, March 25, 1972)
・フード・ブレイン ?- 新宿マッド (Recorded in early 1970 / Solid Records CDSOL-1264, 若松孝二傑作選 - 2, October 4, 2008)

発売がずっと後になった映画サントラの発掘アルバム『新宿マッド』を含めても8枚で、『晩餐』より先に録音されたこのサントラではベースは石川恵樹でした。加部正義がベースになり『晩餐』のレコーディングや数回のライヴを行ったのが1970年5月~8月の3か月間になるようです。レギュラー・バンドと言えるのはデビュー・バンドになったパワーハウスのアルバムとスピード・グルー&シンキのアルバムくらいで、ゴールデン・カップスのアルバムには部分的にセッション参加、またリスト中もっとも知名度のないマンハイム・ロック・アンサンブル(クラシック用レーベルのデンオンから発売)は全楽器パート2人ずつ(ギターは陳とヴェテランの水谷公生)で、内容はベートーヴェンシューマンを始めクラシックの有名曲のテーマ部をロック・アレンジで演奏した、ニュー・ロック版『レッツゴー運命』(寺内タケシとバニーズ)と言うべき企画アルバムです。陳信輝参加アルバム全7作+発掘サントラ盤の全作がCD化されている(マンハイム・ロック・アンサンブルも2012年にCD化されました)のは、これらが全作廃盤になっていた頃を思うと世の中にもまだ正義はあるのだという気がします。