人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2016年映画日記10月21日~26日

 10月中旬は映画は10日間サイレント作品しか観ない、と決めて40本近い映画(うち初見作品は3分の1程度)を観ましたが、さすがに集中力を要するサイレント映画ばかり観るのは10日連続が限度で、ソフトが入手できれはもっと観たい作品もありますが、トーキー以降のものからもっとくつろいで、かつ文句なく面白い映画監督を日替わりで観ることにしました。自分で組む名画座プログラムのようなものです。基本は1日3本立て、多国籍にするとややこしくなるのでアメリカ映画にします。日本映画もいいですが、残念ながら観直したい日本映画を3本ずつ監督違いで11日連続手持ちのソフトから選ぶには駒が不足でした。ヨーロッパ映画全般からでは収拾がつかなくなりますし、結局無難な所で30年代~50年代のアメリカ映画になりました。規模からもこの時期のアメリカ映画はもっとも興隆を極めた時期で、また元来本土自体が植民地という移民性・多国籍性を反映したものになりつつあった時期です。それは選んで行けば自然に現れてくるでしょう。
 まずアルフレッド・ヒッチコック(1899-1980)で初日は決まり。ジョン・フォード(1894-1973)とハワード・ホークス(1896-1977)の2大巨匠は当然として、それより先輩格のラオール・ウォルシュ(1887-1980)は外せません。文句なしのA級監督ウィリアム・ウェルマン(1896-1975)が入るなら愛しのB級監督ジョージ・マーシャル(1891-1975)も入る。この顔ぶれならヘンリー・キング(1886-1982)は落とせないし、ヘンリー・ハサウェイ(1898-1985)も入れる。ジョン・ヒューストン(1906-1987)、アンソニー・マン(1906-1967)は小品を2本ずつ組み合わせて2監督で1日として、キング・ヴィダー(1894-1981)を忘れていた!ウィリアム・ワイラー(1902-1981)と優等生同士で組ませるのも良いかもしれない。先のジョージ・マーシャルウィリアム・ウェルマンも2本ずつ合わせて1日にし、うっかり忘れていたフランク・キャプラ(1897-1991)とビリー・ワイルダー(1906-2002)は1日ずつに組めば、ちょうど10月21日~31日の11日間のプログラムになります。
 この14人がトーキー以降を代表するアメリカ映画の監督かは異論もあるでしょう。かく言う筆者も全然納得しませんが、映画は観ておけるうちに思い切って観ないと(それが一度目だろうと何度目だろうと)受けとめる機会はないかもしれないようなものです。たとえそれが凡作駄作でも観ることすら禁じられていたらどうでしょう?別の言い方ならば、好き放題に観たい映画を選べる喜びの価値は?


10月21日(金)

アルフレッド・ヒッチコックバルカン超特急』(イギリス'38) 97mins, B/W
・ハリウッドに迎えられる直前の傑作連発期でもすでにアメリカ映画的な開放感のある点で(設定はヨーロッパ横断特急内の密室ドラマですが)、後の作風の布石になった作品。ヒッチコックのイギリス性は元々外国人から見たステロタイプに近かったことがわかる。女性主人公なのはヒッチコック作品では珍しい。

アルフレッド・ヒッチコック『海外特派員』(アメリカ'40) 120mins, B/W
・渡米第1作『レベッカ』で一躍アカデミー賞監督になり実現したスパイ・スリラーがアメリカ時代第2作のこれ。この路線ならイギリス時代からお手の物だけに勢い余ってややくどい力作になった(普段なら90分~100分でまとめる題材)。その分仕掛けと見せ場は満載の快作。

アルフレッド・ヒッチコック『疑惑の影』(アメリカ'42) 108mins, B/W
・数作おきに出るヒッチコックのダークサイドでも指折りの後味の悪さを誇る名作。いわゆるお隣の連続殺人者もの。こういう内容だと偶然とご都合主義の比率が増えるのも人を喰っていて人が悪いというか、面白い。


10月22日(土)

ラオール・ウォルシュ『壮烈第七騎兵隊』(アメリカ'41) 140mins, B/W
・名にしおうカスター将軍(実際はアメリカ史の暗黒面)をエロール・フリンが魅力的に演じる。ウォルシュの演出は豪快に突き抜けてあっけないほどで、フォードやホークスでもここまで猪突猛進にはならないのが凄まじい。

ラオール・ウォルシュ死の谷』(アメリカ'49) 94mins, B/W
ジョン・ヒューストン(なるほど)と共同脚本だった自作『ハイ・シェラ』1941の西部劇大列車強盗版リメイク。これも怒涛のような推進力で破滅に向かって進む悪党と恋人たちを描いて刹那的な美しさに溜息が出る。

ラオール・ウォルシュ『遠い太鼓』(アメリカ'51) 100mins, Technicolor
・開拓時代のフロリダを舞台に、広大の泥沼地の悪条件の中を先住民と攻防戦をくり広げながら逃げ切る白人軍隊の話。結局逃げるだけで始終するのだが、それだけで映画にしているのが潔く、しかも抜群に面白いとは!


10月23日(日)

ジョン・フォード『肉弾鬼中隊』(アメリカ'34) 75mins, B/W
・広大な砂丘に迷い込み、過労や飢え、病気、見えない敵の攻撃で次々と死者を重ねる小部隊。極限状況で発狂する兵士役のボリス・カーロフが凄演。今でこそ珍しい設定ではないが、当時は斬新な軍隊スリラーだったはず。

ジョン・フォードコレヒドール戦記』(アメリカ'45) 135mins, B/W
・第二次大戦末期製作のフィリピン戦線映画。アメリカ圧倒的不利の戦況から始まって戦勝確定までの経緯のリアリズム大作になった。演出もドキュメンタリー的で、これは観客に戦勝報告する目的の映画を意図したものでしょう。

ジョン・フォード『栄光何するものぞ』(アメリカ'52) 109mins, Technicolor
・偶然フォードに多くはない軍隊映画ばかり3本。本作はラオール・ウォルシュ『栄光』1926のリメイクで第一次世界大戦もの。オリジナルに忠実なリメイクだが、オリジナルには及ばない。てかオリジナルが傑作すぎたのが不利。


10月24日(月)

ハワード・ホークスヒズ・ガール・フライデー』(アメリカ'40) 92mins, B/W
・ホークスのコメディ路線では傑作『赤ちゃん教育』1938に続くものでこれも傑作。日本公開は1980年代後半だった。アメリカ映画中最大のセリフ量で知られるマシンガントーク映画で、その演出自体がギャグになっている。

ハワード・ホークス『ヨーク軍曹』(アメリカ'41) 133mins, B/W
・ホークスの軍隊映画の一つで日本人にはピンとこないが、アメリカの国民的映画らしい。第二次世界大戦中に作られた第一次世界大戦の英雄的軍人の伝記映画という、国内限定仕様だからか。こういう映画のホークスは明朗快活。

ハワード・ホークス『脱出』(アメリカ'44) 100mins, B/W
・ホークスの文芸&ハードボイルド映画でヘミングウェイ原作、フォークナー脚本。ホークスは映画とあらば手をつけていないジャンルはなかった人(SF映画も製作している)。本作はハンフリー・ボガート主演、ローレン・バコール映画デビュー作だが、20世紀最強のツンデレカップルを生んだ伝説的作品がこれになる。


10月25日(火)

ヘンリー・キング『地獄への道』(アメリカ'39) 106mins, B/W
・キングもハリウッド映画の全ジャンルを制覇した巨匠でサイレント期の『ステラ・ダラス』1925、後の大作『慕情』1955等メロドラマの大ヒット作もあるが、ダイハードな西部劇もジェシー・ジェームズを描いた本作は決定版といえるもの。続編『地獄への逆襲』1940がフリッツ・ラング監督というのも変な話。

ヘンリー・キング『英空軍のアメリカ人』(アメリカ'41) 98mins, B/W
・まだアメリカがヨーロッパに参戦していない時期の戦争映画なので、イギリス軍に入隊したアメリカ青年を主人公にコメディ風に描き、ヨーロッパ情勢と戦況を背景にして観客の興味に応えた作品で、一種の観光映画的側面も。

ヘンリー・キング『頭上の敵機』(アメリカ'49) 133mins, B/W
・これは傑作。アメリカ国立フィルム保存委員会の選定作品(『ヨーク軍曹』もだが)でもある。第二次世界大戦の対独爆撃作戦を複数人物・作戦をモデルに再現して、爆撃シーンなど記録フィルムと映画用撮影場面の区別がつかない。女子供は一切出ない。情け容赦ない軍隊内部の描写、壮絶なクライマックスと甘さのかけらもなければヒロイックな高揚もない凄い映画。


10月26日(水)

ヘンリー・ハサウェイ『ミッドウェイ囮作戦』(アメリカ'44) 98mins, B/W
・先輩キングほど押しは強くなく、盟友ホークスほどノリノリではないが、ハサウェイも映画なら何のジャンルでも撮った人。A級監督ではあるがやや薄味か。本作もタイトル通りというか、戦況情勢有利確定をなぞった内容。

ヘンリー・ハサウェイ『鮮血の情報』(アメリカ'47) 96mins, B/W
ジェームズ・キャグニー主演の第二次世界大戦下の民間諜報部員もので、戦後作品という有利な条件もあったはずの企画がこの場合吉と出なかったように見える。戦争はもう勝っちゃったわけだし。戦争映画未満観光映画以上?

ヘンリー・ハサウェイ『砂漠の鬼将軍』(アメリカ'51) 88mins, B/W
・ハサウェイ作品で戦争映画の傑作はやはりこれか。第二次世界大戦末期、劣勢に追い詰められたドイツ軍内務省の混乱をロンメル将軍の視点から追い、ロンメルヒトラーの不興を買い粛正されるまでをドラマチックに辿る。あくまで軍人ロンメルを理性的で知的・高潔に描き、敗軍の将として風格ある人物像と共にナチスの軍事官僚たちの責任のツケ回しに抹殺される悲劇を平易で簡潔な演出で見せ、見事の一言。