人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヘルダーリン Hoelderlin - 詩人ヘルダーリンの夢 Hoelderlins Traum (Pilz, 1972)

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ヘルダーリン Hoelderlin - 詩人ヘルダーリンの夢 Hoelderlins Traum (Pilz, 1972) Full Album : http://youtu.be/iGn6nLaTfqU
Recorded at Tonstudio Dierks in Stommeln, January 1972
Produced by Rolf-Ulrich Kaiser
Sound Engineering by Dieter Dierks
Released by Pilz Disk Pilz 20 21314-5, 1972
All Songs written and arranged by Hoelderlin.
(Side A)
A1. 我々は商品か Waren Wir - 4:53 (00:00)
A2. ペーター "Peter" - 2:52 (04:51)
A3. 藁 Strohhalm - 2:20 (07:46)
A4. ある小人へのレクイエム Requiem Fur Einen Wicht - 6:32 (09:50)
(Side B)
B1. 覚醒 Erwachen - 4:20 (16:26)
B2. 気象通報 Wetterbericht - 6:34 (20:30)
B3. 夢 Traum - 7:20 (27:08)
[ Hoelderlin ]
Michael Bruchmann - drums, percussion
Nanny DeRuig - vocals
Christian Grumbkow - guitar
Joachim Grumbkow - cello, acoustic guitar, flute, keyboards, mellotron
Peter Kaseberg - bass, acoustic guitar, vocals
Christoph Noppeney - violin, flute, piano
with
Peter Bursch - sitar (A3)
Mike Hellbach - tablas (A3)
Walter Westrupp - flute (B1)
(Original Pilz "Hoelderlins Traum" LP Gatefold Inner Cover & Side A Label)

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 西ドイツ70年代初頭アコースティック・ロックの至宝。冒頭のA1『Waren Wir』はデビュー・アルバム1曲目でこれだけのオリジナリティと完成度をアピールできたバンドは稀でしょう。ヴォーカルのナニーさんは北欧出身のヒッピーだったらしくこのデビュー・アルバムだけで抜けてしまいますが、全曲ドイツ語詞は当時の英語詞主流のドイツのロックには珍しく、ドイツのリートまたは民謡調の楽曲で歌われるドイツ語ヴォーカルがこのアルバムでは魅力です。また曲調が変化して男性ヴォーカルになり中盤からのメロトロンの洪水のようなサウンドはイギリスのロックとはまったく異なる使われ方と言えます。素朴なA2、オリエント調のA3と小曲が続いた後、A4『Requiem Fur Einen Wicht』は6分半の間に通常の循環的でなく非可遡的な展開をくり広げるミニ・オペラ風のドラマティックな名曲で、10c.c.やクイーンのロック・オペラ風楽曲よりも数年早く、ハード・ロックでロック・オペラをやっていたザ・フーとは当然類似性は感じられません。A面はA4で4拍子と3拍子が混交される以外は4拍子の楽曲が続きましたが、B面はB1『Erwachen』、B2『Wetterbericht』とも短調の3拍子曲で、ともに佳曲である上に3拍子曲が連続しているとはすぐには気づかないくらい異なる個性的で美しいメロディが歌われます。ナニーさんのヴォーカルはプロとしてやっていける力量のものではないでしょう。しかしこのアルバムの魅力の半分はナニーさんのたどたどしいドイツ語ヴォーカルにあるのです。しかしアルバムの最終曲『Traum』はインストルメンタル曲ですが、フルート、ヴァイオリン、チェロを生かしたアンサンブルでヴォーカルなしでも十分にヘルダーリンの個性を示す名曲です。
残念ながらデビュー作の本作きりでバンドは一旦解散状態になりましたが、1975年にナニーさん抜きの男性メンバーがバンドを再結成して英語詞で国際的活動を視野に入れた再デビューをSpiegeleiレーベルから果たしました。新生ヘルダーリンはスタジオ作3作『Hoelderlin』1975、『Clown & Clouds』1976、『Rare Birds』1977、集大成的ライヴ盤『Traumstadt』1978を発表後にエレクトリック・ポップ路線に転じて『New Faces』1979と『Fata Morgana』1981を残しますが、再び解散を余儀なくされました。それでもメンバーの結束は強く、2007年のスピーゲライ・レーベル作品全作品のCD化(ピルツ盤のデビュー・アルバムは早くからCD化されていました)ではメンバー自身の監修でリマスターと未発表テイクの増補が行われ、新作『8』も同時発売されて2009年までライヴ活動を行っていたようです。スピーゲライ盤はヴォーカルのナニーが抜けた上英語詞ということもあり、ずばりキング・クリムゾンとキャラヴァン、ジェネシスの影響を受けたブリティッシュプログレッシヴ・ロックのフォロワー化してしまいます。男性メンバーのヴォーカルはピーター・ガブリエルそっくりです。どれも出来も良く、丁寧に制作されたことが伝わる好感の持てる作品ですが、デビュー・アルバムの面影を求めると普通のバンドになってしまった感は否めません。『Hoelderlin』『Clown & Clouds』『Rare Birds』『Traumstadt』はプログレッシヴ・ロックのリスナーになら文句なしにお勧めできるアルバムですが、『Hoelderlins Traum』はもっとローカルな音楽性だからこそ普遍性に達しているアルバムなのです。