人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ラヴィン・スプーンフル The Lovin' Spoonful - エヴリシング・プレイング Everything Playing (Kama Sutra, 1967)

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ラヴィン・スプーンフル The Lovin' Spoonful - エヴリシング・プレイング Everything Playing (Kama Sutra, 1967) Full Album
Recorded in 1967, NYC & L.A.
Released by Kama Sutra Records Kama Sutra KLP/KLPS-8061, September 1967 / US#118(Billboard)
Produced by Joe Wissert & The Lovin' Spoonful
All songs by John Sebastian unless otherwise noted.
(Side One)
A1. 彼女はミステリー She Is Still A Mystery : https://youtu.be/JVz5Uc8dyfc - 3:01 / US#27(Billboard)
A2. プリシラ・ミリオネア Priscilla Millionaira : https://youtu.be/OR_qLp8dlAI - 3:13
A3. ボアダム Boredom : https://youtu.be/uhVls0mGUks - 2:25
A4. シックス・オクロック Six O'Clock : https://youtu.be/Vd5DWpfnLFM - 2:43 / US#18(Billboard)
A5. フォーエヴァー Forever (Steve Boone) : https://youtu.be/3ZKhibyuCXA - 4:23
(Side Two)
B1. ヤンガー・ジェネレーション Younger Generation : https://youtu.be/MbPiWwNeiKE - 2:42
B2. マネー Money : https://youtu.be/d8PvK-taC_A - 1:55 / US#48(Billboard)
B3. オールド・フォークス Old Folks (Joe Butler) : https://youtu.be/rzFP7xCpEnE - 3:05
B4. オンリィ・プリティ Only Pretty, What A Pity (Butler, Jerry Yester) : https://youtu.be/_B-tO-UbFus - 3:03
B5. トライ・ア・リトル・ビット Try A Little Bit : https://youtu.be/nEO37QJnM6E - 3:06
B6. 瞳をとじて Close Your Eyes (Sebastian, Yester) : https://youtu.be/aV6-Jqo9CFw - 2:47
[ The Lovin' Spoonful ]
John Sebastian - vocals, guitar,
Steve Boone - bass, vocals
Joe Butler - drums, percussion, vocals
Jerry Yester - guitar, banjo, vocals, keyboards
with
Zal Yanovsky - guitar (incredited)

 本作は第3作『Hums of The Lovin' Spoonful』1966.に次ぐフランシス・F・コッポラ監督作品のサウンドトラック・アルバム『大人になれば…(オリジナル・サウンドトラック) You're a Big Boy Now Original Soundtrack Album』1967.5に続くアルバムで先行シングル「Six O'Crock」のレコーディングから始まりましたが、プロデュースはデビュー作から『You're a Big Boy Now Original Soundtrack Album』まで(サントラ第1作『どうしたんだい、タイガー・リリー(オリジナル・サウンドトラック) What's Up, Tiger Lily? Original Soundtrack Album』を除き)全作を担当していたスプーンフル育ての親エリック・ジェイコブソンがプロデュースから離れ、新プロデューサー、ジョン・ウィザートとバンドの共同プロデュースになりました。スプーンフルはツアーの合間を縫ってアルバムの録音を進めましたが、サンフランシスコ滞在中にギタリストでありジョン・セバスチャンとともにバンドの創設者であるザル・ヤノフスキーが違法薬物購入により逮捕されてしまいます。ヤノフスキーはカナダ出身で本籍はトロントのままだったのでカナダへ強制送還されるかアメリカ国内で処罰されるかになり、悪いことに取り調べで減刑と引き換えに薬物購入ルートを自白するよう迫られました。ザルが自白したかどうかは明白ではありませんが釈放されてきたザルはミュージシャン仲間から密告者と見なされて評判は地に落ち、結局バンドを脱退してカナダへ帰ることになったのです。ザルは翌年唯一のソロ・アルバムを発表し'70年代初頭まで細々と続けましたが'70年代半ばにはミュージシャン引退、2002年の逝去までシェフ兼レストラン経営者の生涯を送りました。
 ザルの後任にはニューヨークのフォーク・シーンで旧知の仲だった元モダン・フォーク・カルテットのジェリー・イェスターが加入しました。イェスターの技量とセンスは確かなものでしたが、本作のイェスター作のB6「Close Your Eyes」などは従来のスプーンフルらしさはまったくありません。またアルバム全体のアレンジもこれまでの軽やかなスプーンフルとは異質な印象を受けます。それはザル在籍時の録音「Six O'Crock」を他の大半の曲と比較しても明らかで、スプーンフルはジョン・セバスチャンのバンドですが、アレンジ面ではザルの貢献度がいかに高かったかが逆に痛感されます。B1「Younger Generation」もセバスチャンの名曲の一つで本作のハイライト曲ですが弾き語りスタイルもあってか妙に内省的で、ザルの個性がスプーンフルの軽みを引き出していたのが感じられます。ザルと組んだセバスチャンは軽みに才能を発揮し、イェスターと組むと妙にメランコリックになるというか、大名曲A1「She Is Still A Mystery」はレイ・デイヴィス(キンクス)が落ち込んだ時のブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)と共作したようなシンフォニック・ポップで、歌入り楽曲は3曲しかないサントラ盤「You're a Big Boy Now」の大名曲、
Darling Be Home Soon : https://youtu.be/fXjzOpz4Cyw - 3:34
 ――にすでに見られた作風が結実しています。ですがA2のユーモラスな佳曲「Priscilla Millionaira」はザル・ヤノフスキーがソロ・アルバム『Alive and Well in Argentina』1968(このタイトルも「南米の白人は大概逃走中の元ナチス高官」というジョークにかけたきつい冗談ですが)でカヴァーしたヴァージョンの圧勝で、スプーンフルの本作ではベーシストのスティーヴ・ブーン唯一のリード・ヴォーカル曲になりましたが元々はザルのリード・ヴォーカルを予定してリハーサルされていたのではないでしょうか。ザルのソロ・アルバム・ヴァージョンを聴くとそうとしか思われないのです。

(Original Kama Sutra "Everything Playing" LP Liner Cover & Side One Label)

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 そういうわけでイェスターに引っ張られたかザルの脱退に落ち込んだか元々セバスチャン本人の指向性に変化があったか、初めてメンバー写真以外のイラストによる楽しいジャケットで裏ジャケットもカラーになった本作は、スプーンフルのアルバムでかつてないほどメランコリックなアルバムになりました。本作の発売は1967年9月、ジョン・セバスチャンが脱退して事実上ラヴィン・スプーンフルが解散状態になるのは1968年6月のことです。スプーンフルは解散声明を発表せずセバスチャン抜きの3人でジョー・バトラーのヴォーカルをフィーチャーし、楽曲はタートルズへの提供曲を担当していたロサンゼルスのソングライターチーム2組に依頼したラヴィン・スプーンフル名義最後の新作を1968年内に発表します。そのアルバム、The Lovin' Spoonful Featuring Joe Butler - Revelation: Revolution '69 (Kama Sutra, 1968)は次回ご紹介しますが、ザル・ヤノフスキーのみならずジョン・セバスチャンまで抜けたスプーンフルをスプーンフルと言うのは無理があるでしょう。主要メンバー抜きの元スプーンフルのメンバーたちによるプロジェクト作と見るべきアルバムで、かろうじてチャート下位に入るシングルを含むもののアルバムそのものはチャートインすらしませんでした。もっとも本作『Everything Playing』すらアルバム・チャート118位が最高位なのですから(ちなみにサントラ盤『What's Up, Tiger Lily?』は最高位126位、『You're a Big Boy Now』は最高位160位です)、デビュー・アルバム最高位32位、第2作『Daydream』最高位10位、第3作『Hums of The Lovin' Spoonful』最高位14位から急失速すればチャート入りを逸してもやむなし、といったところでしょう。良い曲もありジョー・バトラーのヴォーカルも良く、悪くないアルバムです。スプーンフルのファンがついでに買ってくれれば良い、というくらいでレーベルもプロモーションしなかったのではないでしょうか。
 それを言えば本作もすでにレーベルが積極的なプロモーションを放棄していたのではないか、と思えます。アメリカの市場は国土の広さに見合ってアイテム数は膨大で、例えばヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアルバムはまったく雑誌広告もラジオ広告もされず、サンプル盤の積極的な配布や取材、オンエアのプロモーションもされなかったため当然ながら雑誌新聞媒体にレコード評も載らず、本格的に批評が現れたのはルー・リードがソロ活動を始めて改めてヴェルヴェットのアルバムが注目されてからでした。本作『Everything Playing』は1967年6月発売のビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』からの衝撃をモロに食らった仕上がりになっています。『Sgt. Pepper's~』のシーン全体への影響は大変なもので、ロックのアルバム構成のあり方自体に根本から見直しを迫るものでした。その影響からこれまでよりさらに優れたアルバムをものしたバンドもあれば『Sgt. Pepper's~』を意識したあまり足を取られてしまったバンドもありました。『Sgt. Pepper's~』の影響から最高傑作を生み出した例にラヴの『Forever Changes』やバッファロー・スプリングフィールドの『Again』が上げられるなら失敗例にはビーチ・ボーイズの『Smiley Smile』やモビー・グレイプの『Wow』が上げられます。本作はザ・バーズの『The Notorious Byrd Brothers』と並んで微妙なところでシングル単位、曲単位ではともあれアルバム全体ではバンド本来の持ち味からは外れた作品でしょう。一方ザル・ヤノフスキーのソロ・アルバムはポスト『Sgt. Pepper's~』作品として成功したアルバムになっています。その辺にも運命の皮肉を感じずにはいられません。