人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

SPK - Despair (Twin Vision VHS, 1982/DVD, 2008)

(Reissued Twin Vision "Despair" DVD Front Cover)

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SPK - Despair (Twin Vision VHS, 1982/DVD, 2008) Almost Full Video : https://www.youtube.com/playlist?list=PL41DSIkzgpfoWgOxJHoUmRLGO_2z_gyeN
Reissued by Twin Vision DVD-Video VIDSSPKTV1, CaTV ‎– VIDSSPKTV1, 2008
Originally Released by Twin Vision VHS-Video Twin Vision 1, 1982 as
- 1. Slogun
- 2. The Brikwerz Performance
- 3. The Karnage Of The 1982 U.S. Tour
- 4. Bizarre Visuals
(Reissued DVD Tracklist)
[ S.P.K. For Mental Health ]
1. Contakt - 4:12
2. Germanik - 6:09
3. Slogun - 6:14
[ Brickwerks ]
4. Leichenschrei / Israel - 4:02
5. Genetic Transmission - 3:17
6. John - 2:52
7. Chamber Musik - 4:12
8. Suture Obsession - 5:23
[ Live At Sam's ]
9. Berufsverbot - 5:40
10. Post-Mortem - 2:32
11. Walking On Dead Steps - 2:49
12. Wars Of Islam - 4:25
13. Despair - 4:47
(Bonus)
[ Tone Generator In 2007 ]
14. CaTV Interviews Tone Generator - 7:54
[ SnaPshocKs ]
15. Brickworks - 3:41
16. Stranded - 3:04
[ SPK Performers ]
NE/H/IL (Neil Hill), Operator (Graeme Revell)
Produceed by Tone Generator (Graeme Revell)
(Notes)
>>This was first released in 1983 by Twin Vision (Twin 1) on VHS.
The material was "renovated extended and digitally overworked by CaTV".
>>There are significant differencies between sleeve, DVD interface/menue and content.
>>S.P.K. For Mental Health filmed in 1979 with V.J. Stephen Jones. Dedicated to Ni/H/il. Referred to in the DVD interface/menue simply as "S.P.K. - 1979"
>>Brickwerks recorded / filmed live in Sydney 1981.
>>Live At Sam's recorded / filmed live in Minneapolis 1982.
>>The SnaPshocKs section features two theme-specific slideshows of unpublished stills accompanied by music by SPK.
>>WARNING - R Rated: 18+

(Original Twin Vision "Desapair" VHS-Video Front & Liner Cover)

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 これまでのSPKのアルバム紹介3作、『Information Overload Unit』'81、『Leichenschrei』'82、『Auto Da Fe'』'83では意図的にSPKのヴィジュアル・コンセプト戦略については言及を避けてきました。それは純粋に音楽自体を聴いていただきたかったからでもありますし、SPKが使っていた荒廃した産業文化、狂気、過剰な死と性のイメージは'70年代~'80年代のインダストリアル派ノイズ・ミュージックの始祖スロッビング・グリッスルが'76年の活動開始から掲げていた路線を踏襲してより攻撃的にしたものであり、ホワイトハウス、ナース・ウィズ・ワウンズら反主流インダストリアル派(インダストリアル自体が反主流なのでこの呼び方も変ですが、スロッビング・グリッスルアンダーグラウンドのヒーロー化したことで反スロッビング・グリッスル的なノイズの徹底化を進めた一派)も基本的にはインダストリアル=頽廃的産業文化、精神疾患、死、性のイメージを追求していたのです。
 皮肉なことにSPKの強みは本当の精神病院看護士とその患者が結成した。看護士であるグレアム・リーヴェルにはピアノとホルンの音楽的素養があり、職業熱心な精神保健福祉士でもありました。デビュー・フルアルバム『Information Overload Unit』の冒頭曲「Emanation Machine R. Gie 1916」は実在したフロイト心理学初期の統合失調症患者に捧げられたものであり、セカンド・アルバム『Leichenschrei』のSide Effects版ジャケットにはR. Gie自身が1916年にスイスのサナトリウムで描いた水彩画が紹介されています。1916年というとおそらく徴兵を免れたドイツ圏のブルジョワ階級の子弟でもないかぎりスイスのサナトリウムに入院する経済力はありませんから、トーマス・マンサナトリウム小説『魔の山』'25で描かれたような環境で入院していたのが(おそらくまだ青年の)R. Gieだったと思われますが、人体を電波発信機と妄想し人と人とは電波で交信している、というこの患者の発想はモールス信号程度の電波通信手段しかなかった(ラジオの実用化は'20年代中期)当時は驚くべき想像力で、それが精神疾患によるものだとしても「電波」妄想の記録されたもっとも早い精神科学的な実例です。宗教的な神秘体験(見神、予見、降霊)妄想は人類史とともに古いものですが、それをテクノロジーと結びつけた精神疾患は20世紀以降の症例で、しかも普遍性において歴史を先取りしたものでした。こうした学究的な狂気とテクノロジーの関係への関心はインダストリアル派の中でもSPK独自のもので、しかも精神保健福祉士と実際の患者がそうした発想でやっていたのがSPKの音楽であり、パフォーマンスでした。また他のインダストリアル派にとっては概念であったものが、死体、検体、臓器、発育不全体への即物的で解剖学的な関心となって表れているのもSPKをひときわ異端な存在にしていました。

(Reissued Twin Vision "Desapair" DVD-Video Liner Cover & DVD Label)

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 残念ながら精神疾患患者であったニール・ヒルは『Leichenschrei』完成の後間もなくSPKを離脱し、'84年には自殺してしまうので、ヒル在籍時の映像をまとめた『Despair』は'82年までの映像にスタジオ音源をかぶせてさまざまなアーカイヴ映像をコラージュした、ライヴ映像を期待するリスナーにはもどかしいものになりました。一部ライヴ音源もありますが、映像と必ずしも(というよりほとんど)シンクロしていません。これは当時SPKが使用できた機材ではライヴ映像とライヴ音源をきちんと同時収録できなかった制限があったためと思われます。当時の民生用ヴィデオ機材では映像と音楽を同期してハイクォリティーに収録するのは無理だった、それを実現できたのは本格的な映画撮影並みの機材とスタッフが必要で大メジャーなアーティストでもなければかなわず、インディーズで、しかも実質的には自主制作レヴェルの存在だったSPKには映像作品といってもこれが限界だったのでしょう。また、当時はストレートなライヴ映像作品よりもアート作品的なミュージック・ヴィデオにアーティストたちが傾斜していた風潮もあります。
 それでもSPKの映像作品は、グロテスクなコラージュはともかくとしてもステージ上でいかに異様なパフォーマンスを行っていたかを伝えてくれる貴重な資料です。拘束衣(ボンデージ)のように全身を覆うヴィニール・ユニフォームにガスマスクをつけて人相すらわからないステージ衣装、夢遊病者のような魂の抜けたアクション、楽器でも何でもない金属製品を引きつったように連打して動きだけでも明らかにビートが外れているメタル・パーカッション、ステージに置かれた牛の死体と角をつかんで生首を持ち上げ何をしたいのかうろうろするだけのニール・ヒル、とほとんど、いやまったく、ステージで行われているのは音楽の演奏とは思えません。またこの時期までのSPKはライヴ音源を聴いても生演奏で演奏を再現するのは無理だったようで(ヒル脱退後、リーヴェルのソロ・プロジェクトになって女性ヴォーカリストを迎え突然テクノ・ディスコ・ファンク化した『Metal Age Voodoo』'84期、またビザンチン聖歌とアンビエント・テクノを合体させた『Zamia Lehmanni』'86期では生演奏、さらに打ち込みへと変化しますが)、ニール・ヒル期のライヴはバンド編成だった初期シングル時代はテクノ・ノイズ・パンクの生演奏をやっていたものの一番肝心な『Information~』『Leichenschrei』期はベーシック・トラックはテープ使用でヴォイス、パーカッション、シンセサイザーの装飾パートのみ生演奏の中途半端なものだったようです。それでもやはり純粋にストレートなリアル・ライヴを残してほしかったと思うと残念で、ヒル脱退後のSPKは再びバンド形態になりテレビ出演の観客入りライヴ映像やBBC放送のスタジオ・ライヴ音源があるだけになおのことですが、ヒル在籍のままだったらテレビ出演やスタジオ・ライヴなど行える音楽性でもコンディションでもなかったかもしれませんから、DVDで大幅な増補版になったこの『Despair』だけでも幸とすべきでしょうか。なお本作はR18指定映像で、ノーカットの日本版は望めないDVDでもあります。ご興味をお持ちの方は廃盤になる前に輸入通販サイト等をお調べください。SPKの全公式アルバムは現在全作品廃盤(しかも高プレミア)なので、新品が入手できる唯一のSPKの公式作品はこの『Despair』だけなのです。

(Reissued Twin Vision "Desapair" DVD-Video Inner Degipack Notes)

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